見出し画像

「何でもガラス張り」が職業作曲家3.0の基本!Co-Writing Farmの運営規則が公開されました

 「山口ゼミ」修了組によるプロ作曲家コミュニティは、Co-Writing Farmという名前で140人超で運営されています。2013年9月に第一期生14人で結成されてから8年が経ちました。2019年にエージェント機能を法人化、株式会社CWF設立を機に、運営規則などを明文化しました。先月、その運営規則をサイト上に公開しましたので、ご紹介しておきます。

 あらゆることを透明性を高めて運営していくというのが、CWFのフィロソフィーなので「運営規則も出しちゃえ」ということで特に深い意味はないのですが、クリエイターによる自主運営時のルールですから、興味のある方は御覧ください。僕は日本音楽制作者連盟の理事を4期8年務めて、パブリックな社団法人のあり方について、基本的なことは理解しているつもりなので、規則の作り方などはアドバイスしました。

 ポイントは、
年会費1万円を払って自主運営する
・エージェントについては、非専属型で20%
・プロの音楽家として、コーライティグ・ムーブメントの本家として責任のある行動を取る

いくつか抜粋します。

第3条(規則の遵守)
本会経由の業務実施に際しては、本規則の遵守を誓約し、インディペンデントなクリエイターとして協力する。ゆえに、専属契約的な拘束は一切生じない。ただし本会経由で受注した案件のクライアントから、案件の内容を問わず、以降、直接に業務を受注する場合は、必ず事前に本会の許可を得るものとする。

第4条(基本原則)
第1項:本会のメンバーは、別に掲げられたCo-Writing Farm設立理念に則り活動する。
第2項:プロフェッショナルとしての自覚と高い志を持ち、これからの音楽家としての模範となる行動をする。
第3項:著作権に関する法律と倫理、および自らや株式会社CWFが締結した契約を遵守し、また国内外の音楽業界の慣習を尊重する。
第4項:ポップスの歴史と国内外の最新事情を知り、作品創りに活かす。
第5項:コーライティングのスキルを身につけ積極的に活用する。またコーライティングを日本の作曲家に伝え、日本のコーライティングの本家出身という自覚を持つ。
第6項:社会常識を守り、外部から信頼されるクリエイターとなる。

 アタリマエのことが書いてある感じですね。特筆するべきは、コーライティングについて規則があることかもしれません。

第5条(コーライティング規則)
第1項:すべてのコーライティングにおいて、完成楽曲に対してコーライトイン(=コーライトチームに参加)しているメンバー(以下、コーライトメンバー)の権利は作詞分、作曲分ともに、つねに全員で等分することとする。その際、メンバーの立場、実績および当該楽曲で果たした役割の内容や、貢献の度合いは問わないものとする。
第2項:完成楽曲がリリース契約に至った際、「作曲のみ採用」等、当該楽曲の一部のみのリリース契約となった場合でも、その権利について役割を問わず等分するものとする。
第3項:完成楽曲のアレンジも受注した際には、原則としてアレンジ(トラックメーカー)を担当したメンバーがその全額を受け取るものとする。ただし、楽曲によってアレンジを複数名で行ったり、歌唱や演奏等でアレンジに参加したメンバーが存在するケースもあるので、その場合にはアレンジ料の請求時に、総額とその分配について必ず事前にコーライトメンバー全員の合意に達してから請求するものとする。
第4項:コーライティングにおいては音楽的なケミストリー(化学反応)を起こすことを常に心がけ、自らの立場、実績および当該楽曲で果たす役割や現時点の能力にとらわれることなく、良い楽曲作りのために積極的に自らの意見を述べ、全員がディレクション・マインドを持って楽曲の完成を目指す。

 僕らが提唱していることであり、国際標準のルールです。日本人はグローバルルールをカスタマイズするのは得意で、それは決して悪いことではないのですが、「実績のある作曲家は印税分配率が高い」みたいなルールは、自立した音楽家が対等な関係で創作する、というコーライティングの本質を損なうことになるので、敢えて言語化しています。

 昭和の芸能界は、力を持つ者がブラックボックスを作って、情報格差で優位に立つ、というが力の源泉でした。それは、搾取の温床にもなっていたと同時に、音楽家をスポイルして甘やかすもとにもなってきたと思います。すべてガラス張りにすることは、音楽家に「言い訳させない」という効果もあります。CO-Writing Farmでは、請求書が発行されているかどうか、入金があるかどうか、何に関する印税分配がいつ行われているかなどの情報が(金額以外は)コミュニティ内で公開されているので、入金の遅れは、作家自身が確認したり、催促したりすることが起点になります。これを続け得ることで、ビジネスについてぼんやりしているくせに、被害者気分があったり、構造を理解せずに文句を言う、といった古いタイプの音楽家からマインドセットを変えるきっかけになると思っています。

 実際は、日本の音楽業界は概ね性善説で回ってきていて、搾取することよりも、音楽家を守るケースの方がずっと多かったと僕は思っていますが、そういう牧歌的なやり方が通用する時代は終わっています。
 インターネットの普及による「メディアの民主化」は、ブラックボックスの存在を不可能にしました。すべてをガラス張りにして、透明性を担保したビジネスをする以外の方法はありません。音楽家側も自己責任で対等にビジネスをする自覚と知識が必要です。
 Co-Writing Farmでは、そうは言っても、社会性を獲得するのに時間がかかる作曲家に丁寧に伝えて、セーフティネットも用意しながら、ビジネス意識を高める機会を提供する環境ができていているように感じています。作家事務所やクリエイターチームの運営で悩みがある方は、ご連絡いただければ、僕らのやり方をシェアします。

 これからのプロの作曲家は、レーベルの下請け、受託クリエイターではなく、コンペを待つのでもなく、アーティストとイコールパートナーになる「職業作曲家3.0の時代」だと僕は提唱しています。Co-Writing Farmの取組にご注目ください!

 著作権やプロ作曲家として持つべき知見については、「山口ゼミ」の中でも伝えています。

<関連投稿>


いいなと思ったら応援しよう!

山口哲一:エンターテック✕起業
モチベーションあがります(^_-)