失語症を何とかして克服したい(2)
私がこの病気と付き合い始めて1年2ヶ月となる。失語症の症状は色々あるが、今もっとも困る症状から書こうと思う。
それは、聞き取り速度が遅いこと。聞くという作業はざっくり言えば、耳が音を聞き取って、それを脳が意味をなす言葉などに変換することだと認識しているが、この機能が弱い。
最初は耳が遠くなったのかと思ったが、よく聞く言葉はスッと入ってくるので、どうも耳のせいでは無さそうと気づいた。急性期の病棟に入院していたころのことである。看護師さんから「食事ですよ〜」とか「シャワーですよ〜」と言われると普通に聞き取れるのに、医師が病室に来て「今日は……の検査なので一階の……に行ってください」と言われても「……」のところが聞き取れない。
私の当時は自覚していなかったが、今なら私の脳が「……」の単語を認識できていなかったと分かる。
聞き取れていないのではない。聞こえてるのに理解できないのだ。
ちなみに、脳が単語を認識するにあたって、全く知らなかった単語に出会った場合と、知ってる単語だけど思いだせなかった場合は、認識する経路が違うのではないかと思っている。
「全く知らなかった単語」をどのように覚えるのか、そのメカニズムは私には分からない。でも、昨年話題になった熟語「政治資金規正法」を覚えようと何度も繰り返し発音し、書いて覚えたことを思い出した。その時、反復学習が大事なのかな、とは思った。(メカニズムを解き明かしたわけじゃないが)
でも、聞き取った文章の中に「思い出せなかった単語」がある時、頭や中がどうなってるかは分かるので、それを描写してみる。
ある単語を聞いた瞬間から頭は「単語」を認識しに行く。それと同時に聞いた単語は、形の無い、過去の「単なる音」になってしまうので、忘れてしまう前に何らかの形にしなければならない。「認識」と「忘却」の競争である。
「何らかの形」とは、「漢字への変換」なのか、「風景として取り込むこと」で定着させるのか、何でも良い。ある一定の時間内に変換に成功したら勝ちである。理解した事柄として聞き取った単語は、しばらく把持できる。でもうまく変換出来なかったら、残念ながらその単語を思い出すことはもう出来ない。
会話文はこれら単語と助詞などとの組み合わせだ。相手が話した中身をきちんと把握できなかったら会話は成り立たない。でも、会話の言葉たちは容赦なく降ってくる。時には隣のグループの会話も聞こえてくる。
その中で必要な言葉を選んで、頭の中で変換できるものに変換して、意味を理解して、やっと文脈を掴むことが出来る。
そんな世界なのである。