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大雪日和 -星降る場所-
大雪山の夜の楽しみは夜空。私が登った山の中で一番星に近い場所だと思っています。
北海道の最高峰の旭岳(大雪山系)の標高は2,291m。私が登った本州の3,000m級の山と比べても一番空に近いのではないかと感じるほどたくさんの星に出会えます。
『大雪日和』の第2章では、これまで大雪山で出会った星空の景色を紹介します。
■はじめての夜
登山者が寝静まった小屋を静かに出ると、そこにはこれまで見たこともない満点の星空。夕方までの恨めしかった分厚い雲が街明かりをやわらげ、天の川を引き立ててくれる。
大接近中の火星(左中段)や木星(右中段)がひときわ輝き、そこに無数の流れ星。雪渓の尾根には滝雲がかかる。
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先週、はじめて泊まった夜は雲に覆われていたが、幸運にも2度目の夜にこの光景に出会えた。
■9月の冠雪
9月としては異例の大雪に見舞われた大雪山。日中の好天が夕方になるに従いガスに覆われる。
21時に目を覚ますと窓をのぞくと街明かりが見える。小屋を出ると白と黒のまだら模様の山肌に降り注ぐ満天の星。まるで星が積もったかのよう。
しばらくすると街明かりに色づきながら勢いよく昇ってくる雲に覆われていく。
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一週間後、今シーズンの管理を終えた白雲避難小屋のテント場には2張り。明かりを灯す一張が初冠雪が残る山肌をかすかに照らす。見上げる空に雲はなく、麓の街がはっきりと見える。その街明かりから天の川が白雲岳の斜面に沿うように伸びている。2019年シーズンの大雪山で過ごす最後の夜。
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■縦走
7月18日に緑岳登山口を出発してトムラウシ山に向かう。
17日の深夜に大雪高原温泉に到着すると満天の星が迎えてくれた。翌18日の忠別小屋、そして19日のヒサゴ沼でも天の川に出会えた。更に20日に戻ってきた建て替え中の白雲避難小屋でも。
ヒサゴ沼にかかる天の川
21時に目が覚め、外に出ると3日連続で満点の星空に会える。優しい風に揺らぐ水面が柔らかく砕けた星明かりに照らされる。背後から迫る黒い雲に覆われる前に見られた幸運に感謝する。
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40年に1度の景色
撤去された白雲避難小屋には、基礎の工事用の重機が鎮座していた。次にこの場面に会えるのは何十年後だろうか。
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■裏旭
旭岳の裏にある裏旭キャンプ指定地。住居跡の遺跡のように岩で風よけが積まれたテント場に拠点を作る。
花畑
満開のエゾノツガザクラの斜面に伸びる天の川。昼間にこの斜面と星が撮れたらと思い描いていた景色に夢中になる。
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ネオワイズ彗星
雪が残る旭岳に沈んだ月の残照に輝く雲とちりばめられた星空。その景色に意図せず写り込んでいたネオワイズ彗星(右中段の筋状の雲のあたり)。
この幸運に現像時に気づいた。
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ネオワイズ彗星を切り出した写真を示す。
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表大雪の空に流れる川
21時過ぎにテント場を出て旭岳の頂上を目指す。雪渓を越えて振り向くと表大雪の空に横たわる天の川。しばらく撮影し再び頂上を目指す。
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■白雲避難小屋
これまで幾度となく訪れ、夜を過ごした白雲避難小屋とそのキャンプ指定地。トイレも水場もあり、6月下旬から9月中旬までは管理人さんが常駐し、登山者が快適に過ごすために日々尽力されている。
2020年10月に44年ぶりの建て替え工事が完了した。白雲避難小屋の役割はこれまでと変わらないが、断熱性が向上し、以前よりも快適な空間になっている。私が生きている間はこの小屋にお世話になるのだろう。
音のない光
19時に夕食を済ませ、就寝の準備をして外に出る。麓の街明かりは見えるが、薄い雲に覆われ、天の川ははっきりしない。その空を音もなく切り裂く閃光。流れ星とは明らかに異なる光線が白雲岳の斜面の裏に伸びていく。
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星降る場所
雲一つない夜。南の空から北の空に天の川が伸び、その右にはアンドロメダ星雲。リニューアルした白雲避難小屋の窓には星空が写る。
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≪編集後記≫
星空をはじめて撮ったのは2017年の夏。他の人の星空の写真を見ていると私が持っている機材でも撮れるのではないかと思い、カメラの設定を調べました。
深夜に銀泉台に着き、車のライトを消し、外に出ると道路からせり出した木々も静まりかえっていました。そして頭上には天の川。おそらく意識して見る初めての天の川。
何枚目かの撮影時に流れ星が入ってくれました。
深夜の銀泉台で天の川を見るたびにこのときのことをを思い出します。
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