MTGは遊戯王から学ぶことがある
はじめに
筆者は遊戯王のデジタルプラットフォームの一つであるデュエルリンクス(以下、リンクス)をかつて遊んでいた。
そして今はMTGのデジタルプラットフォームであるMTGアリーナを遊んでいる。
記事表題による誤解なきよう言うと、筆者はMTGのゲーム性が高いと感じリンクス→MTGに移行した部分がある。
遊戯王がMTGを参考にして生み出されたゲームということもあり、その歴史に裏付けられる高いカードデザイン性とゲーム性(競技性)は、リンクスから移った筆者にはかなり魅力的に映った。
しかしながら、遊戯王がMTG以上に多くのプレイヤーを惹きつけ、今や25年以上の歴史を有するカードゲームであることも決して忘れてはならない。
遊戯王が多くをMTGから学んでいるように、MTGもまた、遊戯王から学べることがあるのではないか。
そんな突飛な思いつきから筆を取ってみた。
《無限泡影》
《無限泡影》は遊戯王を代表する汎用妨害カードの一つであり、遊戯王での常套手段である先手制圧を咎めるための所謂手札誘発カードである。
モンスター効果から展開を始めるアーキタイプも多く、汎用カードとして3積みされることも珍しくない。
このカードが重宝される理由は、現代遊戯王のクリーチャー・モンスター効果がインフレにより強化・複雑化していることに起因するであろう。
罠カードを無効化するモンスターには弱かったりするが、ほぼすべてのモンスターを後手でもバニラにできてしまうのは心強いし、インフレは続くのだから将来性も高い。
なお、MTGプレイヤーには《無限泡影》の「ターン終了時まで」という点が弱いと感じるかもしれないが、マナ概念のない遊戯王の決着ターンは異常に早いためさして問題ない。
MTGにもこのような効果を無効化するカードはいくつか存在する。
例えば《貴族の不面目》はヒストリックパウパーにおけるソープロであり、環境最強の除去の一つである。
永久に能力を失うことでシステムクリーチャーにも有効なのが画期的な点である。
MTGアリーナにはまだ収録されていないが、遊戯王よろしく決着ターンの早い下環境では《激しい叱責》もそこそこの存在感があると聞く。
《貴族の不面目》では無効化できないETBにも作用するのはさながら《無限泡影》のようである。
現代MTGは構築・リミテッドともに2ターン目をパスすると詰みと言われるほど高速化してきているが、今後の疑似除去カードのデザイン方針として《貴族の不面目》や《激しい叱責》のような軽量無力化カードをもっとスタンダードセットでもデザインしてみてよいのかもしれない。
《寄生虫パラサイド》
アルケミーが忌避される理由の一つが紙で再現できない効果であり、その代表例が創出である。
中でも最近デザインされた《砂塵雲の先触れ》の創出能力は面白く、相手のライブラリーにゴミ(《日焼けした砂漠》)を追加するという珍しい効果を持っている。
これにより、現在のアルケミー環境においてTier上位の砂漠デッキを成立させるに至っている。
紙で再現できないと言ったが、恐ろしいことに遊戯王は黎明期からこれを紙で再現しようとするカードがある。
それが何を隠そう原作出身カードの《寄生虫パラサイド》だ。
このカードは原作でインセクター羽蛾が相手のデッキにこのカードを秘密裏に仕込んだことに由来する効果を持っている。
幸いなことにこの効果を発揮する手順が面倒すぎるため、現在に至るまで紙の競技でこのカードが使われたという話は聞かない。
しかしながら、遊戯王にもアルケミーのようなフォーマットが存在した。
デジタルプラットフォームである遊戯王デュエルリンクスのことである。
リンクスにはアルケミーのようなデジタル専用カードもあれば、決闘者毎に設定されたスキルという原作再現要素もある。
筆者はやったことがないが、MTGの次元カードのようなものだと思われる。
そしてインセクター羽蛾に設定されたスキルがフライング寄生である。
このスキル、無条件で相手のデッキに《寄生虫パラサイド》を仕込めるぶっ壊れであり、2度の下方修正を受けた上で事実上封印されている。
このフライング寄生と比べると、唱える必要もあり基本的にはカードの補填もある《砂塵雲の先触れ》がはるかに調整されたデザインであるのが良く分かると思う。
(MTG運営はフライング寄生から学んでいるという説も微粒子レベルに存在する)
既にMTGにもパラサイド効果が導入された今、遊戯王に学べるのは「紙にも恐れずにこの効果を導入している」点くらいであるが、それでも20年以上前にこのコンセプトを発明した遊戯王には敬意を表したい。
最後にフライング寄生の初回ナーフ時の規制文(名作)を貼って本項を締める。
《カタパルト・タートル》
ちょうど執筆時点のMTGのスタンダード・アルケミー環境においては2ターンキルが専らの話題である。
これは《残響の力線》や《心火の英雄》を絡めた赤系果敢アグロの理想ムーブを指し、この記事を読んでいるMTGプレイヤーも既に10回くらいは斬られているのではなかろうか。
その理想ムーブの一端を担うのが《無感情の売剣》である。
いわゆる投げ飛ばし効果であり、これによりパンプアップした英雄のようなカードを相手の顔にシュートすることで爽快なゲーム体験ができる。
時を遡ること25年ほど前、遊戯王においても投げ飛ばし効果を持ったクリーチャーが世に出ている。
これまた原作でも主人公が愛用していたことでおなじみのカード、《カタパルト・タートル》である。
(いやまあこれより前にMTGでも《投げ飛ばし》は生まれているのであるがここでは関係ないので忘れてほしい)
《カタパルト・タートル》もまた、即死コンボのパーツとしてしばしば悪用されてきた。遊戯王で2ターンキルは茶飯事であるので、勿論先手1ターンキルである。
代表的なのがサイエンカタパとして有名な《魔導サイエンティスト》とのシナジーであろう。
これに関しては《魔導サイエンティスト》側が悪いと99%言えるものの、無限に射出できる《カタパルト・タートル》側にも少なからず罪はあるだろうという珍しく冷静なKONAMIの判断により、射出効果は1ターンに1回しか起動できないようエラッタ(ナーフ)された。
その後、大体同期の《キャノン・ソルジャー》は何故かエラッタされずに禁止カード指定される等、周辺は騒がしかったものの、エラッタされた《カタパルト・タートル》自身はのうのうと生きていた。
しかし、2024年7月に状況は一変。
《カタパルト・タートル》は登場から24年以上の歳月を経て、制限カード等も経験することなく一発で禁止カードに指定される。
これも現代遊戯王のカードパワーのインフレが災いしており、1ターンで攻撃力16000以上のモンスターを生み出すことが容易になったことに起因する。
現在のMTGで最もヘイトを集めているのは《魔導サイエンティスト》側である《残響の力線》であるが、《カタパルト・タートル》たる《無感情の売剣》も他人事ではないことを歴史は示しているのかもしれない。
余談であるが、筆者の大好きなYouTubeチャンネルであるデュエル脳氏を紹介させていただく。
氏はリンクスやマスターデュエルでの先攻ワンキルに脳を侵されており、カタパルト・タートルをこの世で最も使用してきた人であろう。
《隣の芝刈り》
MTGのイゼットフェニックスは2019年のパイオニア・フォーマットの制定以降、多少の浮き沈みはあれど常に環境のTier1の一角を占めているデッキタイプである。
軽量のインスタント・ソーサリースペルを連打して墓地に《弧光のフェニックス》を落とし、あとは相手を妨害しながら勝手に蘇るフェニックスで殴り続けるコンボ型攪乱アグロと呼べばよいであろうか。
昨年《錠前破りのいたずら屋》という強力な墓地肥やしを得たことで大幅に強化されたデッキタイプでもある。
遊戯王においても近い戦い方をするデッキが存在した。
その一つとして、《隣の芝刈り》をキーカードに据えた芝刈り魔導を紹介しよう。
《隣の芝刈り》は相手と自分のデッキ枚数の差を参照するカードであり、性質上デッキ枚数をできる限り多くすることが求められる。
遊戯王にはMTGと異なりメインデッキの最大枚数に制約があるため、通常芝刈りデッキにおいては紙(OCG)であれば最大値の60枚(最低値は40枚)、リンクスにおいては最大値の30枚(最低値は20枚)でデッキを構築する。
この《隣の芝刈り》は墓地の魔導書の枚数を参照する魔導アーキタイプとの相性が良く、墓地肥やしをした上で《ゲーテの魔導書》と《沈黙の魔術師―サイレント・マジシャン》で制圧するのが王道ムーブである。
その後、《隣の芝刈り》は様々な墓地利用アーキタイプとタッグを組み始め、芝刈り不知火・芝刈りライトロード・芝刈りウィッチクラフトといった名を冠するアーキタイプを続々と生み出してしまう事態に陥る。
(そしていずれのデッキからもとばっちり規制が生まれる)
《隣の芝刈り》自身も登場後まもなくLIMIT1指定(制限カードより厳しい指定)をされていた訳であるが、それでも運良く引いたときの勝率の高すぎるカードとして2020年10月についにリンクス初の禁止カード指定という不名誉な称号を得てしまう。
このカードのポテンシャルはリンクス以外でも証明され始め、今やOCG・TCG・マスターデュエルすべてにおいて制限または準制限指定を受けるパワーカードとして扱われている。
過去、MTGにおいても《隠遁ドルイド》やSpyのように一発で試合を決めるタイプの切削カードは咎められてきた経緯はある。
しかしながら、墓地で効果を発揮するカードが増え続けていく以上、即死コンボ以外の用途としても大量切削カードのデザインは十分留意すべきように思う。
《召喚師アレイスター》
2020年までリンクスを遊んでいた筆者の勝手なイメージであるが、リンクスのインフレの歴史におけるターニングポイントは2回あった。
1回目は機械天使の登場、2回目は召喚獣の登場である。
召喚獣のキーカードである《召喚師アレイスター》は現代遊戯王の象徴的な能力を持つ。
簡単にその要点を以下に纏める。
《召喚師アレイスター》1枚からすべてのムーブを始動可能であり、初動が非常に安定している。
(ターン1制限のため)すべてのムーブが完了した後手札には《召喚師アレイスター》が残るため、妨害しない限り毎ターン同じムーブでアドバンテージを生むことが可能。
召喚できる召喚獣には制圧性能の高いカードが含まれており、妨害手法も大きく制限される。
メインデッキに必要なカード枚数が少ないため、様々なデッキの出張パーツとなる。
一言で言えば、遊戯王というゲームと相性の良いカードである。
リンクスにこのカードが登場した際は、この召喚獣と最も相性の良いアーキタイプが探索され、結果的にエレメント召喚獣・魔導召喚獣が結果を残すに至った。
この出張セットにテコ入れするには《召喚師アレイスター》をなんとかするしかなく、最終的に《召喚魔術》とともにパック産URとして初のLIMIT3指定を受けるに至る。
また、制圧性能の高い《召喚獣コキュートス》は後に禁止指定もされることになった。
実際にはリンクスに最初に来た遊戯王と相性の良いカードが召喚獣であっただけで、既に現代遊戯王はこれら遊戯王と相性の良いカードが跋扈している。
結果現代遊戯王は超高速化し、遊戯王と相性の良いカード VS それを咎める手札誘発の空中戦になったのは想像に難くない。
このような万能系カードは、筆者の主観ではMTGには比較的少ないとは感じている。
それでも《鏡割りの寓話》がしばしば「MTGと相性の良いカード」と揶揄されていることもまた事実である。
《鏡割りの寓話》はスタンダードでは明らかにオーバーパワーであったため禁止指定されたものの、下環境ではあくまで(即死しない)ミッドレンジでの最強カードということで辛うじて許されている。
MTGで現代遊戯王に近い環境と化しているのはタイムレスかもしれない。
《暗黒の儀式》のような先手ド有利カードが許されていながら、《意志の力》のようなピッチ妨害スペルは比較的少なく、無法地帯感は遊戯王以上であるとも言える。
筆者も構築に関わったデッキではあるが、ソレンダ×スキャム×ネクロ・指輪という出張パーツの幕の内弁当のようなデッキが最強クラスに位置しているのも現代遊戯王感が強い。
このような幕の内弁当型デッキをどう評価するかは難しいが、これにより環境のデッキ多様性は損なわれやすいと感じる。
全てのフォーマットの多様性を保つのは容易なことではないが、タイムレスを競技フォーマットとして今後も活用するつもりであれば、オーバーパワーカードの取り扱いや、妨害手段の準備等は検討すべきではなかろうか。
おわりに
いかがだったであろうか。
最初はMTGから学んで生まれた遊戯王も、その長い歴史の中で姿かたちを大きく変え、独自の歴史を歩んできた。
リンクスでスピードデュエルというルールに挑戦したかと思えば、今はさらに発展させたラッシュデュエルにも挑戦しており、ルール面でもかなり挑戦をしてきた歴史がある。
より歴史の長いMTGも業界の先駆者としての挑戦心を忘れず、戦友たる他TCGをリスペクトしながら、今後も互いに称え合い切磋琢磨していくことを筆者は望んでいる。
MTG・遊戯王の両TCGの今後の発展を願って本記事を締めたい。