【一般TCG理論】デッキの流行らせ方
はじめに
当記事では、トレーディングカードゲームにおけるデッキの流行らせ方について、筆者が現在遊んでいるマジック:ザ・ギャザリング(MTG)を題材に論じる。
当記事のターゲットはシンプルに、デッキを流行らせてみたい方である。
"流行らせたい"には色々な背景があるであろうが、自己顕示欲の高い方にほど刺さるはずである。
現に筆者も流行らせたい。ちやほやされたい。
当記事では過去の成功例や筆者の実体験等を分析することで、デッキを流行らせるために重要な要素を抽出し言語化できたつもりである。
要素は若干十分条件寄りではあるので、これ以外にも流行らせる方法はあるかもしれない。
でもこれらを満たせれば恐らくそのデッキは流行る。流行れ。
流行った例
今を時めくシミック眼魔は流行った例に挙げてよいであろう。
noteのいいね数やラダーでの遭遇率からも、例として申し分ない。
発案が原根健太氏なのか、これより前にその原型となるデッキがあったのかは定かではないが、流行らせたのは氏であろう。
一点例としてのケチが付くとしたら、原根氏自身の知名度が既に界隈で十分高いことである。
デッキの内容如何に関わらず、「プロの作ったデッキだから」握ってみた人が相応の人数いるのは間違いない。
この要素を外した別の例として、やまげん氏のボロス召集も挙げる。
多大なる失礼を承知で申し上げるが、やまげん氏のジャパンオープン2023以前の界隈での知名度はそこまで高くなかったものと推察する。
その上で、長い期間Tier1の一角として君臨し続けたボロス召集デッキを、知名度に頼らずともゼロから開発されたことには、尊敬の念が尽きない。
流行らなかった例
手前味噌であるが筆者はジャパンオープン2024で上位に入賞した。
この際に握っていたのが《陰湿な根》デッキであり、ほぼ同型のadver氏と併せて2名がTop16に入賞した。
大会全体で4名しか持ち込んでいないローグデッキであり、明らかに勝ち組であった。
しかしながら賢明な読者ならご推察の通り、この《陰湿な根》デッキ、2025年1月現在までにスタンダードで全くと言ってよいほど流行っていない。
途中、ダスクモーン:戦慄の館やファウンデーションズの実装によるメタゲーム変化があったのは間違いないが、それ以前にブルームバロウ期すら全く流行っていなかった(と思う)。
ここだけの話、筆者は大会後に"これは絶対流行る"と確信していただけに、かなりの落胆を覚えた。
次に、これまた多大なる失礼を承知で他の方のデッキを一つ挙げさせていただく。
Ein氏の《もがく出現》デッキも流行らなかった例かもしれない。
そもそも筆者のように流行らせたいという意志があったか分からない時点で失敗例ではない。
しかしながら、このお題で一般化を試みる上で流行らなかった例が一つしかないのは分析としてはあまりに弱い。
そこで、《陰湿な根》デッキと「同時期に」「同大会で」結果を出して流行るまでには至らなかった別の例を持ち出したかったのである。
流行らなかったデッキの共通項を探すためにも、ここに挙げるのをお許しいただきたい。
次章より、これら2つの流行った例と流行らなかった例との差を分析した結果を示す。
流行らせ方
分析手法として、消費者の購買決定プロセスのモデルとして有名なAIDMAを使った。
このAIDMAモデルにおいて、消費者の購買決定プロセスは大きく、
認知段階
感情段階
行動段階
に分けられる。筆者は、このモデルをデッキを流行らせるプロセスにも応用できると考えた。
単刀直入に言えば、次の①~④のフローを実現できれば、デッキは流行る。
これを満たさないデッキは、何とかして不足部分を補えない限り流行るのは難しいであろう。(十分条件なので絶対流行らないとは言えない)
①ターゲット設定
流行らせるための行動の前に、誰に流行らせたいか(ターゲット)の設定は重要である。
分かりやすい設定方法は、MTGの開発部がターゲット区分として使用している以下の分類(ティミー・ジョニー・スパイク)であろう。
MTG以外のTCGでも可能な分類方法であり是非参照されたい。
当記事では、このうち主にスパイク向けに流行らせる手法を中心に説明する。
筆者自身スパイク寄りであり、スパイク向け以外の分析は十分にできないと考えたためである。
ティミー・ジョニー向けに流行らせたい場合はターゲットの嗜好がより多様化するだろうから、要素はもっと複雑化しそうである。
一応プロセスは一般化できておりある程度は通用すると思うが、他の要素を考慮したプロセスも一考の余地がある。
これが冒頭で「十分条件寄り」と書いた所以である。
②認知段階(0→1):注目度
第一の関門:注目度である。
既に知名度のあるプレイヤーでない限り、まずはデッキを多くの人に認知してもらう必要がある。
まず一つ目の注目を浴びる方法は、大きなトーナメントで結果を残すことである。
MTGが勝つためのゲームである以上、強いデッキは注目を浴びやすい。
当然デッキ構築だけが強くても勝つことはできないため大会結果も参考情報ではあるのだが、十分プレイングスキルのあるプレイヤーの揃ったトーナメントであれば、デッキ構築・選択の差が結果に繋がりやすい。
その結果を見た人は、自分もそのデッキを握れば同様に良い結果を得られやすいと感じるであろう。
これが、”大きな”トーナメントとした理由である。
別の方法として、YouTubeやnote等によりデッキを発信するのも一つの手段に挙げられるであろう。
しかしながら、先の方法と比べると、分かりやすい大会結果等を伴わずに発信しない限りはターゲットへの説得力に難がある。
特にYouTubeのようなプラットフォームは様々なターゲット向けに発信されたデッキ紹介動画で玉石混淆である。
視聴者に刺さるためには認知段階で「この動画はスパイク向けであり、あなたがこのデッキを競技で使っても強い」と認知してもらうための工夫を散りばめなければならない。
例えば、大会結果でなくともラダーの上位ランク帯における勝率や、メタゲームにおける強み等に触れるだけでも、視聴者・読者には構築する価値を感じさせられる。
③感情段階(1→10):再現性
認知段階が0を1にするプロセスだとすれば、次の感情段階は1を10にするプロセスである。
ここではデッキを認知した人が実際にデッキを試し、期待通りのパフォーマンスを示すかどうか、その再現性を問うている。
構築戦の話をしているので、デッキリストごとコピーするだけであり間違いなくデッキは再現する。
問題はプレイングの再現性だ。所謂操縦性能というやつである。
流行らせたい当事者よりも、初見の視聴者・読者の方が操縦性能が低いのは当然なのだ。
初見でもある程度操縦できるよう、プレイングについてもできる限り言語化する工夫は必要であろう。
プレイングの説明は、できる限り安易にしなければならない。
あまりに長文で説明をしても、「回すのが難しそうだから止めておこう」となるのがオチである。
要点に絞った説明にしたり、文字ではなくイメージで可視化する等の工夫が求められる。
サイドボーディングプラン等は、まさにこの補助として相応しい。
また、特に大きなトーナメントの結果を伴わないケースで多いのが、そもそも紹介しているデッキが強くないパターンである。
その場合は「あなたがこのデッキを競技で使っても強い」という認知自体が誤りであり、再現性以前の問題である。
そもそも論としてある程度強いデッキでなければスパイク向けには流行らず、それができていないのであればデッキ構築法から見直す必要がある。
なお、当記事ではデッキ構築法には触れないが、以前下記の記事で少しだけ論じたので紹介する。(主にデッキ構築よりも選択についてであるが)
④行動段階(10→10000):実行性
今までの要素よりもイメージしにくいかもしれないが、一言で言えば「相棒はこのデッキに決めた!」と思わせるかどうかが実行性である。
10から10000と書いたが数字はテキトーであり、万バズ→10000という安直な思いつきである。
②の再現性で十分勝ちやすいことを再現できたとしても、実行に移すには以下のようなハードルを越える必要がある。
予算:極論、構築するのに100万円かかるデッキは流行らないであろう(そもそも試しさえしないかもしれないが)。汎用カードの少ないデッキもこれに当たりそうである。
操作性:「操縦」ではなく「操作」である。例えば、デッキ総数が200枚を超えるようなバベルデッキを紙で回したい人はそう多くない。シャッフルもサーチも苦行である。
プレイ時間:特にDCGのラダーにおいては、勝率だけではなく時間対効率(1時間当たりの勝利数)が重要になるため、早く勝てるかどうかも要素になる。また、テーブルトップの大会においても制限時間が設けられるケースは多く、時間は無視できない。
調整幅:メタゲームはナマモノであり、時間軸によって変化する。それに応じた調整の余地のあるデッキほど寿命は長いし、調整のためにプレイする行為も発生することで流行りやすいであろう。
ここに挙げられた以外にも実行性を阻む要素は存在するであろう。
これらの要素は自身が回す際にも障害になりうるものであり、できる限り思いつく障害に対して回避策を設けられると良い。
また、複数のプラットフォームの存在するTCGにおいては、前提とするプラットフォームが変わると生じる障害についても予め知れると尚良い。
分析
上記の流行らせ方はそもそも分析結果を纏めたものであり因果は逆であるが、この手法に基づいて先ほどの流行った例・流行らなかった例のデッキを分析してみよう。
シミック眼魔
注目度:◎
元々知名度のある原根健太氏が配信中にデッキを生み出した上に、Magic Online(MO)上のそこそこの大会で連続して結果を残してきている。
MTGアリーナではエクスプローラーが1月の予選競技になっていることもあり、時期の追い風も踏まえると注目度は最高レベルと言ってよい。
再現性:○
デッキ名からも勝ち筋が分かりやすく、序盤の動きも概ねテンプレート通りになるため、初見でも3T目眼魔着地+1マナ構えでイージーウィンしやすい。
初手キープ基準には練度が出そうだがプレイングの差が比較的出にくいタイプのデッキであろう。
実行性:△~○
テーブルトップにおいてはキーカードたる眼魔の価格が非常に高額なのが大きなネックである。
一方で、短時間で決着しやすくBO1でも強いためラダーには向いており、まだ世に出てから日の浅いデッキということで先の記事でも「伸びしろがある」として読者に調整の余地を示しているのもgood。
総合評価:○
総合的に見て、流行る要素を十二分に持ち合わせていたと言える。
ボロス召集
注目度:○
デッキ製作者の知名度こそ高くはなかったが、ジャパンオープン2023にてDay2に進出したことで一定の認知を生む。
Day2のデッキの中でも採用カードやコンセプトの特異性がひと際目立っていたことは間違いなく、それによりTwitterのようなSNSを介して口コミ的に認知が広まりやすかったと言えそうである。
再現性:△~○
召集というメカニズムが実質的にマナを増やすためアグロデッキとしては選択肢が多く比較的プレイングの難しい部類のデッキである。
デッキ製作者のやまげん氏はそこを環境別のデッキガイドを無料で開示することで補えていたと言える。
実行性:◎
アップデートを重ねたものの、初期のデッキ採用カードのレアリティは非常に低く実行に移しやすかった。
また、決着ターンの短さも売りの一つであり、非常にラダーに向いていた。
そして環境が変わるごとに大きなアップデート・強化を受けたのも追い風であり、プレイヤー側に調整する楽しさの生まれやすいデッキであった。good。
総合評価:○
総合的に見て、ボロス召集も流行る要素を十二分に持ち合わせていたと言える。
《陰湿な根》
注目度:△~○
プレイヤーの知名度は高くなかったが、ジャパンオープン2024にてほぼ同型のデッキ2つがDay2に進出したことで一定の認知を生んだ。
特異性についてもボロス召集と同程度にはあったが、環境的な向かい風としては大会上位に他にも特異性の高いデッキが多く、注目度が分散しがちであった。(注目度を食い合っていた)
再現性:△
コンボデッキとは言ってもチェインコンボのため達成条件が分かりにくく、墓地を利用する関係上選択肢も多いためプレイングも比較的難しい部類であったと思う。
それにも関わらず、筆者はデッキガイドのうちサイドボーディングプランを有料部分のみで開示していた。
この所為かまでは定かではないが、以後大きなトーナメントでこのデッキが結果を残したという話は聞かないし、デッキ紹介いただいたローグ氏にも「あんまり強くない」と言わしめたくらいには再現性を示せなかった。
また、現行スタンダードはメタゲームが日々遷移する良環境であり、白いデッキが一定数活躍する時期にはサイドの《安らかなる眠り》がぶっ刺さるという時間軸的不安定性も、再現性を下げている。
実行性:△
デッキ採用カードに高額カードはあまり含まれず価格面では実行に移しやすかったが、汎用カードはごく少なかった。
加えて、実用性に関わる一番の問題として操作性の悪さが拭えなかった。
《陰湿な根》で生成される無数のトークンはスタッツまで変化するためテーブルトップで管理しきれず、最も嫌われるタイプのカードの一つであろう。
デジタル(MTGアリーナ)ですら、チェインコンボゆえに時間制限に追われやすく、スマートフォンでは煩雑な盤面をタッチ操作しにくいという問題もあった。
総合評価:△
総合的に見て、流行る要素に大きく欠けるデッキであったと反省している。
流行らせる気があるならば少なくともデッキガイドをもう少し頒布する意識は必要であった。
《もがく出現》
注目度:○
陰湿な根同様、ジャパンオープン2024にて上位に進出したことで一定の認知を生む。
特異性についても、注目度が分散しがちだった点を含め《陰湿な根》同等と言える。
一方で、このデッキは他にもいくつかのトーナメントにおいても結果を残しており、注目度においては若干上回っていたと考える。
再現性:×~△
筆者としてはこのデッキはコンボ風ランプデッキという理解であり、プレイングが非常に難しいデッキの一つであると感じている。
実際かなりの操縦性能が求められるデッキなのは間違いなさそうであり、上にトーナメントで複数回結果を残している旨示したが、ほとんどがこの製作者:Ein氏自身である。
氏によるデッキガイドも存在することで再現性を補ってはいるものの、力量の差の出やすいデッキであったことはマイナスに働いたと言える。
そして《安らかなる眠り》がぶっ刺さるという時間軸的不安定性も《陰湿な根》と全く同じである。
実行性:△~○
多色デッキということもあり土地を中心に高額カードをそこそこ含むのは難点である。
操作性の問題はなく調整幅も広めのデッキなのだが、ランプデッキの性質上決着ターンはそこまで早くなく、ラダー向きとは言えないデッキであった。
総合評価:△
総合的に見ると、特に再現性に難があり流行りにくかったデッキであったと言えそうである。
流行らせるプロセスにおける再現性の寄与が大きいこともよく分かる。
謝辞
改めて、当記事にて引用させていただいた3つのデッキとその製作者3名、原根健太氏、やまげん氏、Ein氏に敬意を表したいと思います。
御三方のデッキビルディング力を心よりリスペクトした上で、引用させていただいております。
おわりに
いかがだったであろうか。
これで君もデッキを流行らせることがきっとできるようになるはずだ。
最後に読者の中から未来のインフルエンサーが生まれることを願って、記事を締めたい。