松重豊、『孤独のグルメ』はプロフィールの汚点になると思っていた
2017年4月6日8:30〜11:00放送『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)
松重●渥美清さんみたいに“寅さん”ていういき方もあるけど、僕はどっちかというと、隠れてコソコソといきたいと思っていたんですけどね
伊集院◯でも、(『孤独のグルメ』は)当たっちゃいましたよ
松重●当たったっていうかねえ、それはまったく意図してないんですよ。まず最初にねえ、『孤独のグルメ』っていうねえ、TBSに来てテレビ東京の話さしてもらうのも、凄い幸せな思いなんですけど。本当にアレ、原作もたんなるオッサンが食べてるだけで、別になにか物語があるわけでもないし、なにか事件が起こるわけでないんで……。深夜でテレビ東京で、「コレ、本当に淡々とやりますけど、いいんですか?」ってことで、「なにもやらないですよ」っていうスタンスだったんですよ。で、まあ、コレでとにかくやってみるけれども、はたしてお客さんは、視聴者っていうお客さんは、付くかどうかってのは、本当にわからないし、たぶん、あの、僕の中でもプロフィールの汚点になるだろうなって思って
伊集院◯正直言っちゃえば(爆笑
松重●「夜中に飯食ってる番組やってたよね、オマエさあ」って、「一人で飯食って何が面白いの?」って言われるような結果になるだろうって、当然、思っていたんですよ。本当にソレしか思ってなかったんで。ただ食べてるだけで。そしたら、ソレが徐々にですよ。ジワジワジワですよ。面白いっていうか、飽きないっていう、食べてるだけなのになって。で、深夜なんですけど、わりと老若男女、本当にもう、地方に行くとお年寄りから、「あの、夜中に食べてらっしゃるの、またやらないんですか?」って言われるようになって、ああ、この番組、別に必要とされてないわけじゃないだなあって思って……。ゆっくり、今5年ちょっと経ったんですけど、5年くらいかけて、ゆっくりゆっくり浸透していって、今本当にありがたいことに、アジアとか、ヨーロッパでも少し認知されてて。なんかドイツの人がずっとハマって見てるとか。中国の観光客が銀座とかにいらっしゃいますよね、その人たち、カタコトで僕に向かって来るんですよ。よーく聞くと「食べる番組見てる、まさか日本に来てオマエに会えるとは思ってもみなかった」みたいなことを言って。向こうの中国語でも韓国語でも、(店の)巡礼ガイドみたいな、ガイドブックが出てるんですよ。
柴田◯そうだよ、日本に行ったら、ココ行かなきゃっていう、いいではないですか〜
松重●そこまで、ジワジワジワジワ育ったんだなとは思っているんですけど
柴田◯見ているファンとしてはね、食べるとこがキレイですよね
松重●でもね、先輩! 演劇学専攻で、僕ら。大学の演劇学専攻で僕ら、お芝居を4年間みっちりねえ、勉強したんですよねえ。食べ方なんて、ひとつも教わってないじゃないです。演技の勉強をなんにも関係ないですから。それが、食べ方がいいとかって言われても、それ、僕、訓練して、努力してきたわけなないんでって思いますよ
柴田◯キレイに食べるよ〜。美味しそうだもん
伊集院◯今のご謙遜なさってるようで、凄いなって思うのって、それは人じゃないですか。食べ方って人だと思うんですよ
松重●はい、あぁ〜
伊集院◯僕らの中で、グルメレポーターの中で石塚さんの食べ方が、まあキレイ。それで、あの人が一番人気なんですよ。でも、当然、食べ方勉強してないじゃないですか、お笑いやってきた人だから。食べ方って、人出ますよ、やっぱり
松重●でも、ほんとに僕、食べ方、キレイに食べようっとかて、最初から思ってなかったですし、どっちかっていうと、パスタでも多少音立ててでも、美味しく食べれればいいんじゃないかって。だから、けっこう、ガッツいて食べてるから、「これ汚いから、なんか受け付けない」って思う方もいてもいいって思うんですけどね
伊集院◯もはや凄いなって思ったのは、最初見た時に、「これは汚点になる」って「秒殺されてなくなるんじゃないか」って思ったわけでしょ? それがさあ、国際派ですよ、もはや
松重●本当にジワジワジワジワとねえ
伊集院◯やっぱ、凄いと思うのって、今、ラジオ聴いてる方で、(孤独のグルメを)知らない方が当然いるわけじゃないですか。いても、なんとなくの噂が聞こえてきたりとか。あと、ドラマを見てない人まで、一人で飯食ってる時に、「孤独のグルメじゃねえんだから」って自分ツッコミをするぐらいの。そういうものになるのって、本当に凄いことだって僕は思っているんです
松重●本当に寂しい一人飯が、ちょっと“孤独のグルメ”って置き換えが出来ると、食べてても、なんか、この一人飯、失敗した店でも、ここにモノローグを自分で立てちゃえば、なんかこう、自分で楽しめちゃうなって世界観はあったんじゃないですかね
伊集院◯ただね、みんな一人でご飯食べてる時に、自分が喋り始めてることを想像しちゃう、そういうことなんですよねえ〜
柴田◯「大きい、大きい、カツじゃないか……」ってね、なんかいろいろ
松重●そうなんですよ、そういう楽しみ方が出来たってのは、あるかもしれませんね
伊集院◯今までで、マジ食い。これ、本当に美味い(店)、なんですか?
松重●あのね〜、必ずあるんですよ。本当に申し訳ないんですけど、放送されちゃうと、もう行けないんですよ、混んじゃって。しかも、柴田さんがやった店なんか、キャパシティ6人の店だったりするんですよ
柴田◯そう! すっごく狭かったんだけど、美味しかった
伊集院◯韓国料理のお店
松重●本当に、あの〜、小さな店でやることが多いんで、もう、殺到しちゃうんで。とにかく放送前に、インサイダー取引じゃないんですけど、知り合いにも「ここは行った方がいい」、「来週までに行ったほうがいいよ」っていいながら
伊集院◯すいません、LINEを……
松重●それで、毎シーズン、放送前に女房と「ここはちょっと行っとこう」って、復習してますね。ラジオの生放送ですから、(放送前にバラしたら)マズイことになる
伊集院◯あー、そうなんだ、そうなんだ。まあ、見てもらうしかね。たぶん、わかるんでしょうかね、ちゃんとDVD見たりすれば
(中略 芝居を始めたキッカケ、中学生のとき相撲取りになりたかった、などについて)
(『孤独のグルメSeason6』の告知)
伊集院◯収録ってどれくらいの、収録っていうか撮影、どれくらいのペースですか
松重●えーと、1話の分を食べる日と街歩きの日って分けてまして、食べる日は朝から晩まで、その、お店に入って朝から段取りやって、食べるって日なんですけどね。食べる時間は午後の2時、3時くらいなんで、前日からご飯を少しずつ抜いてって
柴田◯ストイックなのよ。途中でなんかさー、これ美味しいのよ、食べないって出してくれて。私なんか美味しいって食べて。(松重に)「食べない?」って言っても、「僕は食べません」って。ストイックなのよ、カッコイイのよ〜
松重●1食目っていうのはもう、やっぱ、そうとうお腹空かせて食べた方がいいだろうなって思って、最初から続けてるんですけど、やぱっりその日はなんにも食べない。前の日の夜からあんまり食べなくて、で、やぱり、昼の2時、3時になると、そうとうお腹空いてるじゃないですか。それ、いい調味料になって、美味しく食べるんですよ
伊集院◯なるほど〜!
柴田◯あの美味しそうな、美味しさは、やっぱりちゃんと作ってらっしゃる、すばらしい
松重●編集も、頭から順番に撮ってるんで、ここまで食べて、次はここ食べてっていうふうにして、キレイに食べ終わるっていうカット割りになっているんで
柴田◯俺らには絶対にできねえ技だなあ
伊集院◯俺ならワザとNG出して3人前くらい食べる。僕、最初に見たときは、「これはドラマなのか? 情報みたいなのか?」みたいなことあったけど、役者としてはドラマのスタンスだったと
松重●でも、ある意味ドラマをドラマとしてドラマっぽくやるよりも、やっぱり、僕らの究極に目指すところは、「これドキュメンタリーじゃないの?」って思われるドラマの方が。「この人、本当にヤクザじゃないの?」とか、「人殺しじゃないの?」とかって思われないとやっぱり、「誰々さんが人殺しのドラマやってるね」じゃダメで、このドラマも美味しそうに食べるってことが、ドラマなのか、ドキュメンタリーとして食べてるのかっていう、ギリギリのところを攻めてる方が、本当の意味でドラマになるんじゃないかなって思って
伊集院◯また、その境目がボーダレスなのが面白いのは、それは本当にあるお店で、本当に美味しいものを食べてるんだけど、そこの女将は柴田さんじゃないわけじゃないですか
松重●作ってるのは本物を女将ですからね
伊集院◯そこらへんのボーダレスなところが、深夜の時間帯に引き込まれて、最終的にはそれこそ、いろんな。語源がどれか俺が調べたわけじゃないけど、“飯テロ”って言い方をする、急に食欲を刺激されるっていう言葉にも繋がっていったりとかして、すげえなって
有馬◯あれだけ美味しく見せるのに、料理の紹介ではないですよね。食べる方の主観でいくじゃないですか。それが技法として凄いと思いましたね
松重●でも、あくまでも主役は出てくるメニューですからね。やっぱり、そこを引き立てるためには、どういうふうに食べるっていうか、食べる行為ってのが、どういうふうに主役を盛り立てていけるかってことを、ずっと考えてますけどね
伊集院◯バランスっていうか。松重さん、これ最後にね、今後こういう役やりたいって、あります?
松重●役に関してはまったくないですね。来るものっていうか、ご縁ですし
伊集院◯その考えがないと『孤独のグルメ』も受けてないっていうか、「瞬殺される可能性あるぞ」って思ったものが、こうなってるわけだから
松重●ただ、やっぱり、「ある冒険があるな」と思った作品には飛びつくっていう気持ちはありますね。当たり前のドラマっていうよりも、ちょっとこれドラマなの? それともドキュメンタリーなの? ぜんぜんバラエティかもしれないって思うような何か、そういう新しい匂いのするものに対しての飛びつき方っていうのは、僕は積極的に、自分の意志で持っていこうと思ってますね
伊集院◯いろんな話を聞かせてもらって。今度は食材の役で出してください、冷蔵庫にぶら下がるっていう
松重●ぜひ、番組に食べに来ていただきたい
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