あたらしい小説
「L PACK.の松本滞在記2020」と題して、4月下旬から放送してきた連続ライブ配信が、きょうで全7回の結びを迎えた。毎年5月の松本にやってきて「池上喫水社」などのインスタレーション展示を開催してきたアーティストユニット〈L PACK.〉が、リアルな移動は叶わなかった今年、オンラインで松本を訪ね、あの人この人に会いに行こう、という同企画。きょうの最終回「井戸端会議」には、これまでの配信のゲストに加え、〈L PACK.〉と同じように5月の松本に通ってきては松本市美術館の一角に軽快で自由な工作室「井戸端プリント」をオープンさせる浜松のユニット〈ZING〉のふたりや、その「井戸端プリント」も含めた本部企画「みずみずしい日常」全体のコーディネートを担い〈L PACK.〉を松本に招き寄せたその人でもある茨城大の一ノ瀬彩さん、さらには、今回のライブ配信を「工芸の五月」オフィシャル企画として公式サイト/アカウントでの告知に尽力してくださった同企画室の北原沙知子さんまで、みなさん駆けつけてくださった。本来であれば、5月の松本で直接会って語らっていたはずのこのメンバーが、オンライン上で改めて集い、「工芸の五月」や松本の街、その(工芸に留まらないさまざまな)カルチャーシーンについて、意見を交わすひとときは、まさに「井戸端会議」そのもので、純粋にとても愉しかった。
僕はこの配信企画に、アシスタント/ナビゲーターとして、毎回参加させてもらったけれど、栞日を始めた2013年よりも、僕が初めて松本に越してきた2010年よりも以前の、2009年から毎年松本に通っていた〈L PACK.〉と、その当初から彼らと関わりのあった街場のみなさんとの会話からは、僕の知らない時代の松本の姿や、これまで知らなかった「工芸の五月」創成期の様子を垣間見ることができて、それ自体がとても有意義な体験だった。今回、毎回の対談に同席させてくれた〈L PACK.〉のふたりと、各回にお付き合いくださったゲストのみなさんに、この場を借りて、改めてお礼を述べたい。貴重な機会を、ありがとうございました。
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※ 以下、敬称略
▼ # 01|2020.5.27[水]蒔田友之 = コンフィチュール職人 / Chez Momo 代表
▼ # 02|2020.5.29[金]倉澤聡 = 都市計画家
▼ # 03|2020.6.1[月]菊地徹 = 企画・編集・執筆 / 栞日 代表
▼ # 04|2020.6.4[木]串田和美 = 俳優・演出家 / まつもと市民芸術館 芸術監督
▼ # 05|2020.6.4[木]RITO GLASS = ガラス作家
▼ # 06|2020.6.7[日]伊藤博敏 = 美術作家 / 工芸の五月実行委員会 実行委員長
▼ # 07|2020.6.8[月]「井戸端会議」
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これでひとまずオンラインでの「滞在記」は綴り終え、ホッとひと息つくと同時に、胸の中にぽっかり空いてそのままだった、今年の5月の記録(あるいは記憶)のピースを、どうにか手にすることができたような気がしている。そして、今度は、この7回の配信を振り返って、〈ZING〉が提供している「ZINE KIT」を使い、ZINEを制作することで、アナログな「滞在記」も残す、というフェーズだ。僕らの5月は、まだまだ続く。
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前回のゲスト、伊藤博敏さんが、トーク終盤で話してくださったことが深く胸に刻まれている。
「〈L PACK.〉や菊地くんのやっていることを眺めていると、あたらしい小説を読むようで、これからどうなるんだろう、ってワクワクする。この先も、上手に愉しく裏切ってもらえるといいと思う」
いまも、この先も、まさに、そうありたいと願う。この状況すら、僕らの物語の初期設定に変化をもたらす重要な一幕として描き切ることができたなら、その先に綴られるストーリーは、きっと斬新でおもしろい。僕自身、ぜひ読んでみたい。
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▼ 主催|L PACK. [小田桐奨・中嶋哲矢]
▼ 協力|ZING [吉田朝麻・友野可奈子]
▼ 協力|栞日 [菊地徹]