もういっかい
〈栞日〉2F企画展示室では、あす 8.5[木]から、写真家、疋田千里さんの個展「once more」を開催します。きょう先行して初日を迎えた、安曇野〈BELL WOOD COFFEE LAB〉との二会場同時開催で、両会場とも 8.29[日]までです。
疋田さんとは〈栞日〉を開業した2013年に、料理研究家とデザイナーとのユニット〈haha-co.〉として制作したリトルプレス『とちぎのいちご』を、ご紹介いただいたことを機に知り合いました。松本〈藤原印刷〉で印刷見本を受け取ったその足で〈栞日〉に立ち寄ってくださったのです。
翌年には、ブラジルの生活を描いた写真集『VIDA』の発行に合わせて、〈栞日〉での初の個展を開催しています。その翌年は、松本に所縁のあるクリエイターにも参加を呼びかけ、グループ展「HOME」を主宰。翌2016年には、移転後まもない〈栞日〉で、松本在住のイラストレーターとの二人展「Traveling with Spices」を開催しました。このとき、その前年に出版している、インドの風景を綴った写真集『JINDAGI』がベースになっています。
この頃、僕から疋田さんに依頼して、ご一緒いただいていた仕事に、旧〈栞日〉(現〈栞日INN〉)1Fに2017年にオープンした食堂〈Alps gohan〉の店主、金子健一さんのナビゲートで、金子さんと地域の農家さんとの交流を追って1冊の本に仕立てたプロジェクト「アルプスごはんのつくり方」があります。
2017年には、〈栞日〉から出版したその書籍『アルプスごはんのつくり方』と、疋田さんがアジア諸国で追い始めた「お箸のある風景」を束ねた写真レシピ集『ohashi_to』のダブル発行記念として、写真展「おはし と アルプスごはん」を開催。そして、2018年には改めて『ohashi_to』単体で個展を、2019年にも、その表現をさらに深めるべく、今度は松本在住(当時)の料理人4組とタッグを組んでレシピ冊子も制作しつつ、再び個展「ohashi_to」を開催しました。
〈栞日〉にとって、疋田さんの写真展は「夏の風物詩」ともいえる存在でした。
昨年2020年は、このコロナ禍が訪れるよりも以前に「次の夏はどうしますか」と問いかけた時点で「次はいったん休んでみたい」と返答をいただき、1年スキップ。「毎年定番」と云えば聴こえは好いかもしれませんが、いま振り返ってみると、疋田さんの写真を迎え入れる会場主である僕の側に、「いつもどおり」という気の緩みや甘え、怠慢があったのだと、反省しています。
この夏、2年ぶりに〈栞日〉に帰ってきてくださった疋田さんが選んだ題材は、新しく撮り下ろした作品群ではなく、2011年から2020年に旅をした諸外国の記憶たちでした。
- いつかまた旅にでるなら、あなたはどこへ行きますか?
ライフワークとして「旅と日常の間にある生活」を撮ってきた写真家(前出の写真集『VIDA』『JINDAGI』は、いずれも「LIFE」の意)が、展示室の入口に掲げたメッセージは、この状況下、いっそう胸に響きます。
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この状況下。
この状況下で、企画展を開き続けることに対して、1年前の僕は「No」という結論に至り、年末まで予定されていた企画を1件ずつキャンセルしていきました。いまは、明確に「Yes」です。それは、この間に僕のなかで〈栞日〉の事業全体における企画展の位置付けに、変化が起きたからです。すなわち、これまでは「同じ空間の中で定期的に入れ替わる新鮮な要素」と捉えていたため、新規にせよリピートにせよ、その目的は端的に云えば、域内外双方からの「集客」でした。目的が「ひとつの空間に人を集めること」だった故に、この状況下での継続開催を「自粛」したのです。いまは、違います。その目的の設定を反省し、改めました。いま〈栞日〉が企画展を開催し続ける理由は、日常から(いまであれば、この異常な事態が恒常化した歪んだ日常から)いっときはぐれる先として〈栞日〉を必要としてくれた、この街と地域の誰かにとって、その空間でアーティストの表現と出会うことが、心を揺さぶり、感性を呼び覚まし、再び日常に戻るための勇気とエナジーを授けてくれる、と信じているからです。
- いつかまた旅にでるなら、あなたはどこへ行きますか?
疋田さんの写真表現に触れた一人ひとりが、各々にとって「もういっかい」を果たしたい「彼の地」や「あのひと」を思い出し、想いを馳せ、「いつか、きっと」と胸に誓って、会場をあとにしてくれることを、願ってやみません。
疋田千里「once more」
▼ 栞日|2021.8.5[木]- 8.29[日] 7:00-20:00 ※水曜定休
▼ BELL WOOD COFFEE LAB|2021.8.4[水]- 8.29[日] 10:00-18:00 ※月火定休