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幕があがる。 - 2020夏

昨年の夏から連載「街を耕す」を書かせていただき、前号から編集部にも加えていただいた、〈まつもと市民芸術館〉の広報誌『幕があがる。』最新号(55号)が刷り上がった。

表紙は、いずれも栞日で個展を開催していただいたことがある、絵描きの岩淵城太郎さんと、布造形〈nuno*ito asobi〉の高倉美保さんによる制作ユニット〈jo-nu / ジョヌ〉の新作。先月、松本を拠点に活動する劇団〈TCアルプ〉が、徹底した感染症対策を講じて上演した作品『じゃり』で表現した、不条理演劇の先駆者、アルフレッド・ジャリがモチーフになっている(『じゃり』といえば、あの公演期間中、席を市松模様に間引くためにひと役かった「ペイパーピーポー(劇場の呼びかけで市民が手づくりした段ボール板の人形)」が、先日から〈まつもと市民芸術館〉で展示されている)。

串田和美芸術監督の随想録に始まり(ぜひ、読んでいただきたい)、前出『じゃり』の巻頭特集があり、串田さんと臥雲松本新市長との対談が続く(これまた、ぜひ読んでいただきたい)。序盤からフルスロットルの誌面展開だ。

次いで、忍び寄る感染症の影に細心の注意を払いながら、〈まつもと演劇工場〉番外編として敢行された、今年3月の1ヶ月間に及ぶ演劇ワークショップのレポート。僕の連載(後述)を挟んで、第二特集「2020春の松本 コロナ状況下の表現者」へ。中止を余儀なくされた「まつもと演劇祭」や「工芸の五月」、悩み抜いた末、作品展を開催した〈jo-nu〉、記憶に新しい串田さんのひとり芝居「月夜のファウスト」など、松本を中心に、表現者たちがそれぞれの信念を胸に向き合ったコロナの時代の記録が並ぶ。この中では、野外人形劇団〈のらぼう〉の最新作『あの日から彼はわたしのことをしげると呼ぶようになった』と、ダンスユニット〈Atachitachi〉と音楽家〈3日満月〉によるドライブイン・ダンスシアター『あわいの詩(うた)』について、インタビュー、執筆させていただいた(なお、串田さんの「月夜のファウスト」は、木工デザイナー、三谷龍二さんがその情景を叙述して、寄稿してくださっている。この記事も必読だ)。

僕の連載「街を耕す」は、初回から前回までの3回(僕にとっては初年度)を、三部作として書き切ったので、今回からは仕切り直し。「街場と劇場」と題して、そのふたつの「場」の境界を曖昧にしていくことを考えて、試みていきたい、と綴った。今号の巻末には、この春〈まつもと市民芸術館〉が迎えた7名の新スタッフが紹介されているが、みなさんそれぞれのコメントには、やはりあたらしい光や風を感じる。今年に入ってWEBサイトもリニューアルされ、この状況下とはいえ、〈まつもと市民芸術館〉そのものは、着実に、力強く、次のフェーズに進んでいるように思えて、僕も勝手ながら、『幕があがる。』編集メンバーのひとりとして、この新フェーズに参画できないものか、と企んでいる。題字と挿絵は引き続き、扇子ブランド〈vent de moe〉デザイナー、小林萌さんにお付き合いいただき、今号も文章の意図に寄り添う(混沌の中に垣間見る希望のような)美しい作品を描き下ろしてくださった(萌さんは、前出「2020春の松本 コロナ状況下の表現者」の中でも、その特集全体を貫くシンボルとして、ドローイングのピースたちを散りばめてくださっている)。萌さん、いつも、ありがとう。

前号から、誌面デザイン全体を、萌さんの旦那さんでもある、エディトリアルデザイナー、コバヤシタケシさんが担い、さらに今号からは、印刷を、松本に本社・工場を構える〈藤原印刷〉が担い始めた(今号の奥付に並ぶ名前を眺めると、さすがに頬が緩んでしまう)。そして、前述した「WEBサイトのリニューアル」はオンライン新聞『松本経済新聞』や情報サイト『まつもとクラフトナビ』で知られる〈タナカラ〉山口敦子さんの仕事で、今号からは『幕があがる。』もPDFではなく、WEBマガジンのスタイルで、公式サイトに掲載される見通しだ。WEBと印刷。オンラインとオフライン。この時代だからこそ、それぞれの長所を高め合い、短所を補い合いながら、劇場と街場を結ぶ装置として、効果的に駆動させていきたい。やれることも、やりたいことも、まだまだまだまだ、たくさんある。

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