ふつうの日記 2021.09.28『ぬいぐるみハンドパワー』
・ぬいぐるみ
自宅には馬のぬいぐるみがある。デフォルメされた、やたらと顔の大きいぬいぐるみだ。私はそのぬいぐるみを「馬」と呼んで可愛がっているのだけど、撫でるのはいつも大きい顔の額ばかりだった。
今日も何気なく馬を撫でようとして、ふと、馬の前足に目が留まった。ぬいぐるみである馬は、前足に蹄がない。明るい茶色の毛が途中から白に変わっていて、丸くふっくらとした手のようになっている。私はじっとその手を見つめた。
馬はとにかく顔が大きいので、顔から下に目を向けたことはあまりなかった。素朴な顔と頭でっかちなフォルムの可愛さに気を取られて、細部の可愛さに気がついていなかったのだ。私は引き寄せられるように馬の手を取り、むにむにと握手してみた。
可愛い。
ほどよく綿が詰まった柔らかい手は、触ってみると異常に可愛いことが分かった。思わずむにむにと揉み続けてしまう。可愛い。顔を撫でるよりも手に触れるほうが実在感があって、しみじみと可愛さを噛みしめることができる。実在感。私にひらめきの電撃が走った。
私は右手で馬の手を持ち、左手の甲を撫でさせた。
これは可愛いというよりも、ものすごく嬉しくなった。自分のものではない手に、優しく撫でてもらえる喜び。普段撫でられることのない私は胸に熱く込み上げるものを感じ、しばらくそうして撫で続けてもらってしまった。第三者から見ればこれ以上なく寂しい光景だったかもしれない。それでも私は幸せだった。愛する馬のことを、これからもっと大事にしていこうと思えた。
これから辛くなったときには、またこうして撫でてもらおうと心から思った。ご自宅にぬいぐるみをお持ちのあなたも、ぜひ試してみてください。トびます。
・最終回
突然ですが『ふつうの日記』、明日で最終回にしようと思います。今まで読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。明日の日記もどうぞよろしくお願いします。
ふつうの日記に代わる新しいシリーズも考えているので、よろしければそちらも覗いてみていただけると幸いです。では!!また明日!!!
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