【フェアンヴィ】第23話~2024年創作大賞応募作品~
仲間
ルービスは足に隠していた短剣を抜いた。月明かりに刃が光る。すぐに周囲から剣を抜く音が聞こえてくる。男たちも剣を抜いて構えたのだろう、音の位置からすでに背後にも回られていることがわかる。
「女ひとりに7人がかり?」
ルービスは大男を睨んだ。唯一剣を抜かない大男が制するように大きな手のひらをルービスに向けた。
「剣をおさめろ、こちらは戦いたいわけではない。そっちがおさめればこっちもおさめる」
言いながら大男は持っていたルービスの剣を投げて寄越した。
投げられた剣はルービスのものに間違いがないようだ。しかし、前回の痛みを体が覚えている。ルービスは恐怖で剣を納めることができなかった。
「こんなに囲まれては無理だ、そっちが先にしまって」
ルービスの声が震えていることに気づいて、大男は周りの男たちに合図を送った。剣のしまわれる音が聞こえる。ルービスもそれを聞き届け、ゆっくりと剣をおさめる。
「荷物を調べた。あんたが言っていたことは嘘ではなかった」
ルービスはゆっくりと投げられた剣を拾った。男たちに動きはない。
「なら荷物も返して」
「その剣はすばらしいな」
荷物を返す気はないらしく、大男はそのまま続けた。
「身のこなしは見事だった。あそこから逃げるなんてオレでも無理だったろう。…きっと剣の腕も相当なんだろう?」
ルービスはまわりの男たちの動きにも注意しながら、大男の話の意図を考えた。いったい何が望みなのか。
「それだけの美貌で腕のある剣士であれば、オレの耳に届かないわけがない。…一体どこからやってきたんだ?」
「あなたこそ何者なの? なぜ私を引き留めるの? 私は用はない。あなた達の事にも興味はない。誰にも言わないから、荷物を返して」
これ以上引き延ばされるのなら、荷物にはこだわらず逃げた方がいいだろうかとルービスは考えた。しかし周りの男たちも動いている気配はない。完全に囲まれているだろうから、ここから逃げるのは難しいかもしれない。ルービスはそれでもゆっくりと後退した。
「待ってくれ。荷物は返す」
大男はルービスが動くのを見て荷物を投げて寄越す。
荷物の重さもあってか、剣を投げた場所よりもずっと大男に近い。ルービスは取りに行くのをためらった。
「オレはケディだ」
大男は突然名乗った。
「赤毛のケディだ」
どうしていいか分からずルービスは棒立ちになっていた。
ケディは失笑したようだった。
「オレの名前を聞いても無反応か。ここいらでは有名なんだが。…オレたちはあんたの腕を見込んで頼みたいことがある。それであんたを捜していた」
「捜していた?」
「一文無しの女が身を隠せる場所は多くない」
そう言ってケディは自分の剣を下に落とした。
「どうしたら信用してくれる? おい、お前らもこっちに来い」
ケディが言うと、男たちはケディのもとに集まってくる。みんな同じように剣を下に落とす。
「あんたが必要なんだ。先日の非礼は詫びる。本当にすまなかった」
「私に何をさせたいの?」
「話を聞くならやってもらう」
「ならこの話はなかったことに」
ルービスが再び後退した。
「待て! 待ってくれ! あんたは、あんたの旅の目的は? どこに行くつもりなんだ」
「…白い塔を」
ルービスは思わず口にしてしまっていた。あわてて口をつぐむ。
「白い塔? どこの?」
「関係ない」
ルービスは今度こそこの場を立ち去ろうと後ずさった。
「必ずオレが送り届けよう!」
ケディが声を張り上げた。
「どこの白い塔でも、必ずあんたを無事に白い塔まで。約束する。オレたちはこの国のために動いている! どうしても今、力が必要なんだ。たった今必要なんだ! オレたちだけでは足りない! もう行き詰っている!」
ケディの迫力に圧され、ルービスは動きを止めた。
「時間もない。どうしていいか分からなくなっていた時に、あんたが現れた! 頼む! この国のためにオレを信じてくれ!」
ケディの必死な叫びにルービスは心が揺れた。もう少し、男たちの姿を見ようと一歩一歩、ゆっくり近づいた。
近づくにつれ、男たちの顔が、姿が良く見えてきた。薄汚れた服、ぼろぼろの靴、皆一様に泣き出しそうな顔をしてルービスを見つめている。
関わっていいのか悪いのか、良い人間なのか悪人なのか、ルービスには判断のしようがなかった。しかし、この男たちの信念は伝わってくる。この表情に偽りはないように思われる。問題は彼らの正義がルービスにとっての正義かどうかだ。
(殺されそうになった相手だというのに、私は手を取ろうとしている)
ルービスは自分の気持ちが信じられなかった。男たちに近づいた時に、もう信じようとしていたことに気づいた。
(私はバカか)
だが、この男たちを置き去りにすることはもうできそうもなかった。
次話 内情 へ続く…