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【看護師シリーズ】暴言を完全攻略する技術を習得した話

ものすごい患者さんがいました。

とにかく口が悪い。
私が訪室すると
「今日はバカ〇か! 最悪だ!」
と人の名前に「バカ」をつけて呼ぶ。

「何する気だ! 殺す気か!」
と処置をすると殺人鬼呼ばわりをされる。

その方は、一人では動けなかったため援助することも多く
もっぱら援助中はそんな感じで罵声を浴び続けることになります。
(手が出せない分、罵声も大きくなったのかもしれない。彼女にとっては拒否を示す術が言葉だけだった)

「いまから体拭きますよ」
「拭かなくていい! お前が拭いても汚くなる!」
「きれいになるように新しいタオルも持ってきたし、お湯もきれいですよ」
「うるさい! おまえが病原菌だ! 移す気だろ! もたもたするな! 風邪ひくだろ! 寒い! 寒い! 冷たい! お前も脱げ! ばか!」
なぜ体を拭くのが嫌なのか、確認しようと話しかけても罵声の中に時折混じる「寒い」とか「痛い」とか「汚い」とか、そんな手がかりしかないのです。
その手掛かりをとっかかりに聞いても、罵声が飛び、またさらにそこから新たな言葉を見出し…

見出したところで、今度は反対のことを言われたり。
ほとんどが、彼女の真意はわからず。
できるだけやりたくないのなら、やらないでいてあげたいけど、やはりそれにも限界があり、やる日は訪れるわけで。

途中よくわからないことも言われますし、実際寒いと言われたら気を付けないといけないこともあるし、聞きたくない暴言をスルーしながら、受け取らなければならない言葉だけを聞く、そんな芸当はできないわけで。
その方は、とにかく暴言を織り交ぜながら基本的にずっと叫ぶのです。
何も言わないと、「なぜ黙ってる!」というし、答えると「黙れ!」と言われます。

この方のすごいところは、看護師だけでなく、医師に対しても同じ態度なことです。(医師の言うことは聞く人は多い)
褥瘡と呼ばれる床ずれとも呼ばれる傷ができてしまっいて、その処置をするときに
「このやろう! ふざけるな! あっちいけ! この禿野郎! 高そうなメガネかけやがって、お前に似合ってないんだよ!」
と、たまにみんなが思っていることを言ったりして、どきっとします。
「おまえ、太ったな、太っただろう。ブクブク太りやがって何食べてんだ。禿でデブは最悪だぞ!」
「そんな。。。気にしてること言わないでよ」
という医師の言葉に、その時一緒に処置に臨んでいた看護師たちは笑いをこらえるのに必死。というか、よく見たら医師も笑ってたのでみんな吹き出してしまった。

かなり細かいことをよく見ている方でした。
痛いとか、寒いとか、熱いとか、聞き逃してはいけない言葉も入るため、全く聞いてないと困るけど、激しい罵声と、結構鋭い悪口が入るので、結構心に突き刺さります。
その方の部屋を出るときは、ずーんと心が重くなります。

お風呂に入れるときなんかは、お風呂場で声も反響してもう大変です。その方も、声が枯れる勢いです。

でも、どれだけ暴言を吐いても、ひどい言葉を投げつけても、最後の最後は「ありがとう」とぼそりと言います。

それでも、頭が痛くなる暴言を滝のように浴びせられたあとなので、ぜんぜん回復しません。

暴言病

そんな診断をつくってほしい、と思うほどでした。
その方は、がんに侵されていましたが
最後まで元気に暴言を叫び続けました。

あのエネルギーはすごいな~ なんかどうにかしたら電気作れたりするんじゃないか? と思うほどでした。

あとにも先にも、あのような患者さんとは出会ったことはないし、そんな話を聞いたこともありません。

ところが、一つだけいいことがありました。
つまり、そんな強烈な暴言キャラを持つ人なんて、きっと二度と出会うことはないくらいの人だったということです。
ですから、そのあと、患者さんに多少の暴言を吐かれても、ぜんぜん動じないんです。
全然楽だし、かわいいものです。にこにこして聞けちゃう。

その方と、いつか心通わせることができる日が来るかな、と思いましたが、それは私の思う「心が通う」という意味でいえば、ありませんでした。

ただ、その方はときおり私を指名してくることもあったので、一応看護師としては「あり」と思ってもらえていたのかなと思います。それが彼女の「心を通わせる」ことだったのかは謎です。
指名しても、暴言は容赦なかったので指名されることは嬉しいとは思えませんでした。

ご家族に話を聞くと、その年齢ではありえないくらい、女性でありながらかなりの地位を手に入れた人で、とても仕事のできる人だったそうです。
(今とは違って、女性がトップにいくというのは珍しかった時代です)
たしかに、観察力はすごいし、言ってることは正確だし(だから大きく傷つきますが)。
自分で何でもできた人が、なんにもできなくなるってつらいのだろうなと思います。

とはいえ、暴言を聞かされる方も病気になっちゃうレベルです。
実際、担当看護師は限られた人しかしていなかったし(誰も担当したくない。泣き出してしまう人もいた)、医師も近づきたがらなかったです。
かなりの鈍感な私でも、けっこうきつかったなあ。

そのおかげで、私はクレーマー処理看護師とも呼ばれるようになりました。
クレーマー患者さんや家族に対し、にこにこ笑顔を崩さず対応し
言うことは言って、できないことはできないとお伝えする。
あの方に比べれば、なんてことないです。

看護師や介護士さんはきっと同じような思いでつらい日々を過ごしている人もいると思います。
看護師も介護士も人間ですから、そこまでしながら働くとしたら、お給料上げてほしいなと思います。
なんか、そういう心理的なものも技術として、技術料とれるようになればいいのになあ、と思います。

いまも、つらい思いをしている看護師、介護士、介護している人たちに向けて、エールとあまりがんばりすぎないよう伝えたい。
無理しちゃだめよ。

技術を取得した私だけど、全然うれしくないですもの。
最近はこういうの、ペイハラというらしい。「ペイシェントハラスメント」

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ステンドグラス369 Yama
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