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【フェアンヴィ】第24話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

内情

 ルービスは男たちの話を詳しく聞くため、汽車とは別の彼らの隠れ家にいた。
「つまりカツタフォルネの役人を殺すということ?」
 ルービスは体を震わせて立ち上がった。やはり善人とは思えない。
「税金を高くして国民を苦しめている」
「秩序を乱している。このままではこの国は自滅する」
 今にも立ち去る勢いのルービスを止めようと、男たちは口々に続けた。
「アムという役人がこの国に影響力を与え始めたのはここ2年くらいの話だ。だが、その力はこの半年で尋常じゃないところまできている」
 ケディは静かに語り始めた。
「カツタフォルネはもともと豊かな国だった。産業も盛んで活気に満ちている。しかし、2年ほど前から貧富の差が目立つようになってきた。気が付いた時にはもうアムによって、国の法や財政のあり方が変えられてしまっていた。ここ1年で女狩りも始まった」
「女狩り?」
 ルービスは思わず身を乗り出した。
「通称‘女狩り‘と呼ばれている。アム曰く、一夫多妻を奨励。自分の邸宅に好みの女性をすでに数百名抱えている。その中には10代の少女もいるし、夫と子どものいる女性も引き離して連れていっている」
「ま…待って。そんな話初めて聞いた」
「あんたがどこから情報を得ているか知らないが、国の恥になることは隠すだろうな。…だが、隣国にもこの状況は知れ渡っていると聞いているが」
 ルービスの知識はチュチタの王宮からだ。この混乱が本当に隠せるのだろうか。思ってもいなかった話の内容にルービスは言葉を失った。
「それで我々が立ち上がった。民衆の力を借りて、資金を調達し一度はアムの目前まで迫ったが、結局のところ何もできていない。向こうも取締りを厳しくして、警備を厳重にし、今は攻めあぐねている」
 ケディは悔しそうにテーブルに拳を振り下ろした。
「だが、あんたのその美貌。アムは必ずあんたなら手に入れようとするだろう。あんたなら、アムの近くに行くことができるはずだ」
「…それはスパイになれっていうの?」
「あんたなら油断するはずだ。とにかく、突破口になるはずだ」
 ケディは言葉を濁した。
「民衆の力といっていたけど、もっと大勢の仲間がどこかにいるの?」
「いや、今はこの人数だ。もちろん声をかければ集まるかもしれないが、策も定まっていない状況で動くことはできない」
「民衆があなた達を支持しているという証拠を見せてよ」
「証拠?」
 ケディは肩を落としてため息をついた。
「そんな証拠、どうしろって…」
「いいかい姉ちゃん、役人はそこらへんにゴロゴロいるんだぜ。万が一でもオレたちに協力しているってばれてみろ、即皆殺しだ」
 横にいた男が凄んだ。
「民衆にはよほどのことがない限り頼らない。だけど、何かあった時には必ず手を差し伸べてくれる。オレたちはそうやって犠牲少なくこれまでやってきたんだ」
「だがもう4度失敗して、全員の顔が割れてしまった」
 ケディが続けた。
「オレたちには能力のある仲間が、能力があって、隙を作らせ身近に入り込める仲間が必要なんだ」
「君はその条件を全て備えている」
「武道に長けている」
「女」
「それも美人ときた」
 男たちは口々に続けた。
「どうしてもだめか? 信じられないか?」
 ケディは額にしわを寄せてルービスの顔を覗き込んだ。
「一日…」
 ルービスは押し出すように言った。
「一日だけ時間をくれない? 突然こんな事を言われてもすぐに返事はできない」
 男たちは互いに顔を見合わせた。
「絶対に口外しない。それに逃げたりもしない。信用してくれるでしょ」
 ケディはしばらく黙っていたが、やがて男たちを見回してから言った。
「いいだろう」
 ルービスがほっと一息つくと、横の男がルービスの肩をつかんだ。
「ただし一日だ。一日たったら返事を聞かせてくれるな」
「わかっている。一日だけだ」
 
 男たちの今にも襲いかかってきそうな気迫のこもった視線を背中に感じながら、ルービスは隠れ家を後にした。
 そろそろ空が白んできそうだ。もうすぐ終わってしまう夜の闇の中、ルービスはダンスバーに戻った。
(勝手に飛び出してきて怒っているだろうな)
 ルービスはため息をついてダンスバーの裏口で立ち止まった。もう辺りは寝静まっている。
 おそるおそるドアノブをまわしてみると、ドアが内側から開き、蒼白な顔をした老女がヌッと出てきて驚かせた。
「ルービス、あんたいったいどこにいたんだい」
 老女は低く唸るように言った。
「あ…ごめんなさ…」
 ルービスが謝ろうとすると、老女は慌ててルービスの体を押した。
「いいから逃げるんだよ!」
 手にはルービスの服を持っている。それをルービスに押し付けるように渡す。
「荷物はこれだけだろ」
 老女はなおもルービスを押し続けた。
「どうしたんです、突然…」
「アムだ」
 老女の言葉にルービスは体を固くした。
「アムに目をつけられたんだよ」
「アム…」
「アムに捕まったら、あんたはボロボロにされてしまう。早く、早く逃げるんだ、できるだけ遠くに。一刻も早く…!」
 老女はルービスの背後を見て声にならない悲鳴を上げた。
 振り返ると先ほどはいなかった男が3人ほどこちらに笑いかけている。
「逃げるんだ!」
 今度こそ老女は叫んだ。
 はっとして動きかけたルービスの腕を男の一人がつかんだ。
「逃げんでくださいよ、お嬢さん」
 ルービスは男の鼻っ柱を思いきり叩いた。男はうめき声をあげて腕を離す。続けて老女がドアから飛び出して残りの男に体当たりをした。
「早く! 早く行くんだ!」
 老女の叫びにルービスは駆け出した。

次話 怒り へ続く…


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