見出し画像

【フェアンヴィ】第13話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

出立

 17日はあっという間に過ぎていった。

 朝9時に起床、遅めの朝食を作法の教師と共にとる。
 10時から13時まで作法と王国の歴史について学ぶ。
 13時からディーブと共に昼食。
 14時から18時までトーマンと訓練を行う。
 18時半からディーブと共に夕食。
 19時半から22時までディーブと共に訓練を行う。
 22時半就寝
 
 大まかにいうとこのようなスケジュールだったが、細かいことではシャワーやトイレへ行く回数・時間も数分の狂いもなく毎日同じ回数と時刻を徹底した。

 当初はルービスを見る周りの視線はあからさまではないものの、歓迎されたものではなかった。その美貌のため、むしろ美貌のみでディーブが騙されているのではと噂するものもいた。
 しかし、ルービスの作法などの著しい上達と、そのひたむきな姿勢はすぐに周りのものにも認められ始め、加えてあまりにも規則正しい生活はルービスの評価を上げていた。
 トーマンやディーブが行う訓練に関してもストイックな印象を色濃く与え、ルービスは『美しく賢い、真面目で自己管理もできる王子の伴侶としてふさわしい女性』という評判を王宮中に広めることに成功していた。今は誰も2人の結婚に眉をひそめるものはなく、『新兵の行進』によって結婚の儀が延期になっていることを残念に思う声が大多数だった。
 


 10時より出立する『新兵の行進』の国王への挨拶が始まった。
 式にはルービスも婚約者という形で目立たない場所から参加していた。新兵の列にタオの姿を探したが、数も多く少し遠いため確認できなかった。
 今年は約500人の新兵が行進に参加する。これは例年に比べると多いとのことだった。新兵とひとくくりに表現されているが、実際は今年成人になったものばかりではなく、成人になった年に事情で参加できなかったものや、育成や指導のため実力ある兵士も参加している。

 式が無事に終了して新兵たちがホールから去ると、ディーブとトーマンがルービスのもとにやってきた。式に正式に参加していた王族たちがひそひそと耳打ちをし、興味深げに様子を伺っている。
 式のため正装をしているディーブは、まさに王子だった。ルービスはディーブの姿を頭に焼き付けようと見つめた。
「これからのこと、わかっているね」
 ディーブは囁くように言った。ルービスも声をひそめる。
「大丈夫。頭に入ってる。心配しないでね」
 遠くから見ている人々には、恋人が別れを惜しんでいるように見えているはずだ。2人は抱きしめあった。これは2人の関係を揺るがないものにみせるための演出であったが、抱き合う2人の気持ちはもちろん本物だ。
 遠くからため息が漏れ聞こえる。

「さあ、もう時間です」と2人の間にトーマンが割入る。
 ここからは一人になるルービスに精一杯の勇気をと、2人は片方ずつルービスの手を力強く握る。
「…ルービス、貴方ならできる。落ち着いて行動してください」
 
 ディーブは去り際にルービスを振り返り、心配そうな視線を投げかけた。

次話 脱出 へ続く…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?