夢の5

 始めるまでは長いけど、いざ始まると一瞬なもの、なーんだ。

 こんな関係は健全とは程遠いのだろうと思う。友達以上恋人未満。いやもっと浅ましい何か。でもこれが唯一の彼とのつながりだと思うと、どうしても終わりにできない。

 駅前で集合。そのまま目的地へ。

「天気いいね」

「夏にしては曇ってる方では?」

「確かに」

互いに他愛もない会話で道中を潰す。

 ファーストルックは最悪。よく言えば寡黙、悪く言えば無愛想。正直話が合いそうにもなかったけど、ゼミの仲間なので関わらざるを得ない厄介者。
 それでも半年も過ごせば奴のことが気になり出した。無愛想なのは相変わらずだけど、たまに見せるくしゃっとした笑顔にやられた、なんて言い出す自分の女の部分に嫌気が差す。
 そんな感じでもやもやしていたある日、ゼミ仲間で飲み会があった。あいつとわたしは二次会で抜け出して、それでそのまま…

 目的地に到着。手早く手続きを済ませて部屋へ。見慣れた内装。先にシャワーを浴びる。


 不幸にも相性が良かった。それから頻繁に会うようになった。いつも目的地は同じ。二人の目的も同じ。
 あいつからそれ以上の関わりはない。ただの友達、世間的には。そこから先に進もうとしたら全部壊れる気がして、だから、なにも言わない。


 体の隅々まで洗う。普段の自分を洗い流す。ここでだけは、あいつの恋人だから。

「じゃあ、私も浴びてこようかな。」

あいつの体を打つ水音を聞きながら、高鳴る胸をなだめる。この時間はまるで無限だ。あいつはいつ出てくるのだろう。何度繰り返してもこのドキドキが抑えられない。恋する乙女だ、反吐が出そうなほど。
 水音が止まり、ゴワゴワとした衣擦れが聞こえる。いよいよだ。いよいよ始まる。

 互いに互いの輪郭をほどき合う。錯覚しそうなほどのあいつの優しい手つきに嫌悪感。いや、そうされて喜ぶ自分に嫌悪感。

 輪郭はとっくに形を失い、溶け合う準備が整った。でも、

「よっと。あーやっぱりこれつけるの慣れないなあ。」

私たちが本当に溶け合うことはない。私たちの間にはとても薄くて、信じられないほど強固な壁がある。この不健全な関係の中で、ただ一つ残った良心、とでも言おうか。彼がこの壁を着けるから、この関係が続くのだ。

私は、こいつの彼女じゃないから。そう言い聞かせる余地を用意してくれている気もする。

腹立たしい。勘違いも許されない。


「じゃ、いきますね。」


 始めるまでは長いけど、いざ始まると一瞬なもの、なーんだ。

 まさにこの爛れた関係に違いなかった。

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