夢の14
はたち、ハタチ、二十歳。どういうわけか二十歳になるとさまざまな禁忌を許される。今となっては大人の仲間入りというでもない。社会人にはやや遠かったり。それでも、二十歳になる今日は特別だ。わたしが、ではない。今日は彼の誕生日なのだ。
彼とは去年からお付き合いをしているが二人で誕生日を迎えるのは初めてだった。それが彼の二十歳の誕生日というのはなかなか素敵だ。なかなか素敵なので授業終わりに上機嫌で彼を夕食に誘った。一個上のわたしはひと足先に二十歳を迎えているわけで、ようやく彼と乾杯できる!と思うとさらに上機嫌だ。せっかくだしお姉さんが奢ったる!なんて言っていると
「えー、誕生日なんてそんな、特別なものでもないでしょ。」
などとこやつは抜かす。
せっかくなんだしさぁ。奢るって言ってるじゃん!
「いやー、そんなそんな。普通に帰宅するつもりだったので。」
でも普通に帰宅しても一人でご飯食べるだけでしょ?
「それはそう。」
いや、だったらさぁ…
夕食と言っても二人とも大学生なので安いチェーン店である。最初は気が引けていたらしい彼も恐縮なんだかなんなんだかといった態度で付き合ってくれた。
ほら、好きなもの頼んで。
「うーん、何がいいかねぇ…」
あ、ほら今日から飲めるもの、あるじゃないですか!
「うわぁー、もう…だから嫌だったの!」
そう言わずにさ!
「いや、私多分酔って面白いタイプじゃないでしょ…」
そういうことじゃなくてさ、なんていうか記念に?一杯だけ!
根気強く粘った結果、私たちの前に生ビールが二つ運ばれてきた。なんだかんだ押しに弱いのが彼の可愛いところだ。
それじゃあ、二十歳の誕生日を祝しまして、
かんぱーい!
「かんぱーい」
しばらくは「変な味。」とか言っていた彼も次第に慣れてきたようだ。一杯目でもう耳まで真っ赤になっているが楽しそうにしている。
どうですか二十歳になった感想は!
「この世に生じてから20年たったとは思えませんね。」
えー?でも悪い気分じゃないでしょ?
「まあ…そうかな、うん。」
かくいうわたしの方は楽しくて仕方なかった。これまで彼とは深い付き合いができていない気がしていた。デートも楽しいけど手を繋ぐ止まりで先に進まない。私が一個上というのもあるし、どこか互いに遠慮するような。でもこうして顔を突き合わせてお酒を飲んでいるとなんだか今までよりずっと心の距離が縮まったような気がした。
結局、彼は一杯でもうフラフラになってしまった。具合が悪い感じじゃなさそうだけれど、どうも彼の最寄りまでまともに帰れるかは怪しい。飲ませたのは自分なので責任を持って介抱しようとお店からほど近い自宅のアパートに連れ帰った。
彼をベッドに寝かせ水を飲ませる。もう一杯汲んでこようとした時、わたしの首に彼の腕が回され、そのままぐいっと引き寄せられた。
急なことにわたしが戸惑っていると、ほてった赤ら顔の彼はそのままわたしの唇を塞いだ。お酒くさい。こんな形で身体の距離まで近づくとは思っていなかった。二十歳という年齢はさまざまな禁忌が許される。今日という日は彼に口付けという禁忌を破らせたらしかった。
存外そのキスは一瞬で、首にかかった腕は力無くベッドへ倒れた。彼はすでに意識を手放してしまったようだ。何事もなかったかのように眠る彼を見つめながらわたしは願った。
彼が目覚めた時にこのことを覚えていませんように。覚えていたら、きっと彼はもう二度とお酒を飲んでくれないだろうから。
それほど酔ってはいないはずなのに真っ赤になってしまった顔をどうにかするため、わたしはお風呂場へ向かうのだった。