槍ヶ岳・西鎌尾根 3泊4日 縦走
毎年夏の家族登山。今年は、遂に槍ヶ岳へ!
また毎年のように登る場所を決めきれずにだらだらとしていたら、何ヶ月も前から予約できる人気の山小屋は軒並み満室になってしまっていた。そこへ、両親が17年前に行った槍ヶ岳にもう一度行くのもアリという話が浮上した。北アルプスの山小屋なんてどこも空いてないだろうけど、と半ば諦めながら検索すると、槍平小屋が空いている!ここはPodcast「山小屋ストーリーズ」で聴いて行ってみたいとリストに加えていた所だった。
ここを固定でルートを考えていくと、まだ予約が取れる可能性のある小屋、槍ヶ岳山荘と鏡平小屋を取れれば行ける!と相なり、槍ヶ岳アタックにしては少々マイナーなルートで周回することになった。
新穂高温泉で前泊 8月15日
登山口のある新穂高温泉へ。昼頃着いて、新穂高ロープウェイで上まで行ってみた。飛騨牛ラーメンと飛騨牛シチューにやられた後、山頂駅の周りを散策。
散策路を広げる工事の途中らしかったが、ものの5分で歩けてしまったので物足りなく、西穂高への登山道を少しだけ歩いた。赤のサースフェーを背負ったおじさんが、所在なさげにウロウロした後、登山道に消えていったが、無事に西穂に登ったのだろうか。1つ下の駅に戻りテラスで珈琲を飲んでいると、急な大雨が降ってきたので走って車に戻る。ロープウェイには中国人(または台湾人)がたくさんいたのが印象的だった。その後はロープウェイの隣にあるホテル穂高にチェックイン。ここで前泊する。この後4日間の駐車場問題を抱えていたが、フロントで聞くとなんと3日分タダ、そのあとも1日たった600円で停めていていいとのこと!!全然知らなかったので降ってわいた暁光だった。部屋からは笠ヶ岳が見えた。
雨も上がり、散歩に出る。山にかかっていたガスがきれ、幻想的なシルエットが見える。ジャンダルムのギザギザが見える場所を発見し、3人で大はしゃぎ。明日からずっと山の中なのに、ずっと山を見ているのであった。
1日目 新穂高温泉〜槍平小屋 8月16日
朝、部屋から笠ヶ岳のモルゲンロートを見てテンションを上げる。7時からの朝食を大急ぎでかき込み、7:37 出発。行きは右俣コースに進路をとり、まずは長〜〜〜い林道歩きだ。そこここで工事をしていて、地層が丸見えになっているところから大量の水が湧き出ている。地中に水が蓄えられるってこういうことかと感心した。この辺りは豪雨の度に土砂崩れが起きて堤防の工事も何回もされているようだ。やはり人間が開拓したからだよな…ロープウェイとか登山道も…。観たばかりの『ある一生』も思い出したりしながら、少し複雑な気分になりつつ淡々と登っていく。
1時間で穂高平小屋に到着。避難小屋だがかなり立派でトイレもあり、とてもありがたい。そこから更に1時間程で、やっと!登山口!林道が長い!やはり林道を歩いていても登山開始してる気がしない。登山口というのは重要である。
そこから先はやっと登山道となり、滝汗を流しながらもくもく登る。この日下界は31℃、標高1100mから登り始めても滝汗である。10:09 白出沢で小休憩。また滝汗を流しながらチビ谷まで一気に登り、11:50 お昼休憩。カップラーメンの後、新兵器、WINZONEのエナジージェルを投入。あまりにも甘すぎたが効き目はあったような気もする。
そこから30分ほどで滝谷に到着。今日のダラダラ登りで1番楽しみにしていた渡渉箇所である。ワクワクしながら橋を探すと、急流の川の思ったより高い位置に、思ったより狭い木の渡しがある。今日の1番のイベントだというのに、母はこちらがカメラを構える間も待たず楽しそうにスタスタ渡っていく。
対照的に父は怖がりすぎて他に渡れるところがないか探し出す始末。完全に母に似た私はアドレナリンを噴出させながらゆっくり渡る。楽しさ9割怖さ1割といったところ、ちゃんと父の恐怖心も遺伝しているのだ。その後バンジージャンプで意を決せずに飛べない芸能人さながらの逡巡を見せた後、スッと能面のような顔になった父が一歩一歩渡ってきた。恐怖を理性で押さえつけることに成功したらしい。怖い人には本当に怖い箇所だろうから、ここを渡れなかったら戻るしかないのだろうか。
南沢を渡るところでもうひと休憩し、トリカブト咲く小川の先に小屋の看板を見つけてホッと安心する。
14:00 槍平小屋に到着。
17年前に父が撮った母の写真と同じ構図で撮ろうと思っていたのに、当時の標識は形を変えてしまっていた。一応同じ場所で写真を撮った。
14時着というのは理想的な時刻ながら、夜ご飯までは3時間ある。小雨が降ったり止んだりする中、止んだタイミングで外のデッキに寝転び、ストレッチをしたりKindleで『山の観天望気』を読んだりして過ごした。夜ご飯は槍平小屋名物のスープカレー。美味しかった。
2日目 槍平小屋〜槍ヶ岳山荘 8月17日
朝、部屋から北穂、涸沢岳のモルゲンロートを見てテンションを上げる。昨日見えなかった山々が見え、北アルプスの中にいるんだと実感する。
5:30 朝食を食べる。昨晩と同じ席順で、隣の親子の息子が昨日と同じく全然食べていなくて心配になった。6:30 出発。30分ほど静かな森の中を登っていくと、段々開けてくる。振り返れば穂高連峰が雲の中に浮かんでいる。「最終水場」の美味しい水でエネルギーチャージし
更に登ると、今度は雲の切れ間に雄大な笠ヶ岳がどーんと出てきた。ものすごく大きい山塊だ。縦走中全貌を現したのはほんのわずかな時間で、ガスってくるとまず最初に隠れてしまっていた。一部でも見えると、まさに迫り来る感覚で圧倒される。
標高2400mくらいまで来てもひたすらの登りのため暑い。8:30 千丈沢乗越との分岐地点で小休憩。元気な関西のお姉様方と写真を撮りあう。
少食少年の親子も登ってきていた。ここからは明日歩く西鎌尾根とその先の稜線が永遠に続いているように見える。言葉に出来ないほどの喜びが込み上げる。あそこをずーーっと歩いていいのか!!と叫びたくなる。やはり私はこれから歩く(長い)道が見えるのがだいぶ好きみたいだ。
休憩を終え、飛騨乗越まで大きな岩のガレ場を直登する。少し空気が薄くなった感じもするが、お花畑を愛でながらかなりゆっくり登っていく。
それにしても、北アルプスがこんなにトリカブトだらけだとは思わなかった。振り返れば登ってきた道が青紫色に縁取られている。
ゴロゴロ岩がひらけたところでもうひと休憩し、乗越までのきつい登りのラストスパートをかけていると、先に行っていた父が「なんかここいい匂いがする」と立ち止まっている。その場所まで行ってみると、確かに下から甘いようなスパイシーなようななんとも言えないいい香りがする。ここから先、縦走中も何度もこの匂いが香ってきて、近くの花を嗅いでみたりしたが、ついぞ同定できなかった。ただ、ハイマツの中を抜ける時、ハイマツのいい香りが似たような系統だったので、ハイマツだったのかなあ?と推測している。(でももうちょっと甘い香りだったんだよなぁ…)ちなみにハイマツがこんなにいい香りだとも今まで気づかなかったが、季節的なものなのか、気になるところである。
雄大な景色、薄い酸素、色とりどりの花、木や花の香り、、全身で山を感じながら飛騨乗越に登り上げる。裏側を覗くと、遂に、遂に槍ヶ岳が!
はやる気持ちを抑え、槍ヶ岳山荘のテン場を通りながら進む。このテン場はいつか泊まってみたい。ものすごいロケーションだ。
11:00 槍ヶ岳山荘に到着!感無量!
目の前に、あの槍ヶ岳が鎮座している。槍ヶ岳は大体の登山者の憧れで、私も例に漏れず憧れてはいたのだが、両親が17年前に登って、幾度となく話題に上がり、他のアルプスの山より身近な存在というか、だけど逆にまだ行かないんだろうなと思っていた山だった。その姿を目にした時、やっと会えた、みたいな不思議な感覚があった。1人だったら泣いていたかもしれない。
ガスがどんどん上がってくるが、お腹が空きすぎていてこのまますぐアタックは無理だった。荷物をテラス席に置いて一息ついていると、すでに空身にヘルメット姿の小食少年とお母さんに再会した。少年と母のアタックを眺めながら槍ヶ岳ブラックキーマカレーでお腹を満たす。
ひょいひょいと登り、振り返って母を待つ、またどんどん登る、を繰り返す少年を見て、10代の若者の有り余る体力に改めて感心した。あそこまで若いと、あまり食べなくても、靴や服装にこだわらなくても、関係ないのだ。
腹を満たした我々は、チェックインしてから遂に槍アタックに向かう。部屋で準備をしていると、ほんの少しだけ緊張してきたのが分かった。自分が適度に緊張を感じられるタイプで良かったなと思っている。私の尊敬する冒険家や登山家は、大体が自らの恐怖心や緊張感の事を語っているからだ。
11:50 アタック開始!取り付いてみると、想像していたより斜度があって、クライミング感満載だった。
だけどさすが北アルプス屈指の人気の山。1番緊張感がある岩のところには絶妙な場所に杭が打ってあって、それ通り手と足を運んでいけば登れる。槍ヶ岳=梯子が刷り込まれていた私だが、最初の梯子の垂直さにこれか!と武者震いする。フーッと深呼吸して、取り付く。さすがにちょっと怖い。落ちる想像を脳から追い払って、ゆっくり慎重に上がる。そしてまた岩をよじ登り、最後の長い梯子へ。
またゆっくり無心でよじ登り、登頂!父から、頂上が狭すぎて立ってられないと何度も聞かされていた私は、想像より5倍は広い山頂に降り立った。父は先に着いて岩に座っている。後ろから嬉しそうな母が登ってくる。
山頂は完全な真っ白いガスの中だ。下から眺めていた時は、ガスがかかったり晴れたり繰り返していたので、30分は待ってみようということになった。同じタイミングで登ってきたおじさんと談笑しながら待つ。その間に3グループくらいが登ってきてみんなで待ったが、晴れる気配が全くなく、さすがに山頂が手狭になってきたところで下りることにした。
下り始めて1,2分で小雨が降り始めた。「危なかった〜!」と言いながら下る。登りと下りで、人によってより怖い方があるようだが、私の場合は垂直の梯子を登っている時の背中がヒュッとなる感じに軍配が上がるかなと思う。下りでは全く恐怖感は無かった。
山荘に戻ると14時からのスイーツタイムまであと10分ほどだった。山荘のスタッフにスイーツ職人がいるらしく、モンブランやチョコケーキ、プリンなど色々ある。本当は外のテラスで食べたかったが雨なのでどうしようかと思っていると、他のグループが「自炊室!」と話しているのが聞こえてきた。慌てて自炊室に席を見つけたところで、スイーツ開始しま〜すの館内放送。どれだけの限定品なのか分からないが、周りの人がみんな少し急いでいるのを見た母がすっくと立ち上がり、ササーッと駆けていく。無事列の前半に並んだ母は3人の希望通り、プリン2つとモンブラン1つをゲットした。さすがである。自炊室でお湯を沸かし、コーヒーを淹れてスイーツタイム。
もう今日は晴れないのかなーと思いながら部屋で本を読んだりストレッチなどしていると、窓から光が入ってきた。晴れた晴れた!と喜んでまた外に行く。なんと言ったって、ちょっと外に出れば絶景なのだ。
山荘併設の慈恵医大診療所から大学生の女の子2人が出てきて「行ってきまーす!」と槍に登りに行く。中から送り出す先輩が「走ってるよ〜笑」と笑っている。どこを切り取っても絶景なので夢中になって写真を撮っているともう夕ご飯の時間になった。
食堂ではソロの男性と一緒になった。よく喋る面白い方で、奥様にはソロだとは言わないで山に行きまくっているそうだ。お子さんにも小さい頃は山の英才教育をしたが今は全然興味がないと言う。私も小さい頃に登っていて、27歳くらいまでずっと興味が無かったのにまた再燃した、と話してみたが、なんだか微妙な顔で「そうなんですね〜」と言っていた。英才教育の現場が両神山などだった事を鑑みるに、状況はもっと複雑なのかもしれない。
夕飯後だらだらしていると、18:30頃に可愛い声のスタッフさんの館内放送が入った。「今夕陽が綺麗に見えていますよ〜。みなさん良かったら外で見てみてください〜。」(この言い方と声が可愛すぎたので若干のアニメ声で再生してください)いそいそと外に出てみると、ああ、また絶景である。今度はいちめん雲海になり、もくもくの分厚い雲に夕陽の透明なオレンジが反射し、反対の空には月も輝き、、えも言われぬ美しさである。
その美しさもさる事ながら、偶然そこに居合わせた人びとが、三々五々、同じ美しい景色を楽しんでいるさまが、なぜかとても好きで、幸せな気分になった。どうしてそれが自分の琴線のど真ん中に触れるのか言語化できていないが、そういう場面に出くわすと訳も分からず泣きそうになるのだ。
盛夏でも高山では陽が沈めば寒い。オレンジ色が消えゆく19時頃まで標高3000mの贅沢な景色を楽しんで、部屋に戻った。
3日目 槍ヶ岳山荘〜鏡平山荘 8月18日
朝4時起床、5時朝食。昨日のソロ男性の言では、日の出のために朝食を3分で食う!とのことだったが、そこまでではないにしろ急ぎめで食べ、槍再アタックに備える。実は昨日の午後、真っ白な頂上でもう再アタックの心を決めていた。ヤマテン(有料山岳天気サイト)でも今日は午前中快晴の予報だったし岩をよじ登るのは楽しいし、迷うべくも無かった。
下で待っている父を残し、見事な快晴と雲海の中、5:30 母と2人再アタックを開始する。朝だと岩が濡れているのかなと思っていたが昨日と変わらず乾燥していて滑ることもなく、慣れた分昨日よりもだいぶ楽に登れる。緊張や怖さより楽しさが勝る。とはいえ、例のサポート釘がたくさんある場所の下で慎重に行かねば、と深呼吸していると、もう降りてきたガイドらしき男性が「上は最高ですよー!」と声をかけてくれる。恐らくビビっていると思って声を掛けてくれたのだ。心遣いが嬉しくて、「わーいやったー」とかなんとか返事をしてまた登っていく。
頂上に降り立つと、写真撮影の行列が出来ていた。そうは言っても狭い山頂で、周りが絶壁のような岩の上で列が出来ていると言うのもなんともシュールな画だ。
並びながら、昨日は見えなかった絶景をカメラに収める。美しい、綺麗、壮大、荘厳、、言葉をいくら並べても、こればっかりは表現できない。偉大な作家なら表現するのだろうが、身体全部で感じる美には言語化できない領域があって、私には言葉と画像でその氷山の一角をちょろっと補足することしかできない。
並んでいる人びとは前後のハイカーと写真を撮り合う。私たちの前には韓国人カップルが並んでいて、お互いを撮り合っていたので、撮ってあげようと声をかけるタイミングを図っていると、”Please ~”と言いかけてきたので食い気味に”OK,OK!!” と言って撮ってあげた。すると撮りましょうか?と言ってくれたのでお言葉に甘える。山屋っぽいムキムキ彼氏が、狭い山頂をものともせずプロカメラマンばりの格好をしながらたくさん撮ってくれる。「ポージュ、ポージュ!」(韓国人はズの発音がジュになる)とポーズ変更まで指示してくる、一生懸命撮ってくれてありがとう。
このまま10分くらい撮ってくれそうな勢いだったので「カムサハムニダ!」と言ってカメラを受け取ると、はにかんだ笑顔でペコっとしてくれた。
そのままカップルの後について下りる。彼女の方は山屋の彼氏に連れてきてもらった風で、山頂直下の梯子に取り付くと何やら「私は大丈夫、降りれる」的な韓国語を唱えながらゆっくり降りていく。それに癒されながら続いた。
下で待っている父が小豆くらいの大きさからだんだん大きくなる。下りは慣れるとさらに楽だった。
6:40 今回の山行で1番長い、双六経由・鏡平小屋までの縦走を開始する。
最初は、南側に昨日苦労して登った道を見ながら素晴らしい西鎌尾根の稜線を西に進んでいく。程なくして、後ろからどこかの大学の山岳部員およそ20名がずんずん近づいてくる。朝山頂でおどけて写真を撮っていて大丈夫か?と少し心配になった子たちもいる。これは速かろうと道を譲ると、20キロ越えのザックを背負った大学生たちがわいわいと抜いていった。女の子も2人ほどいた。彼らは今日双六小屋にテン泊だという。途中まで同じルートだ。
1時間弱で千丈沢乗越に着くと、山岳部が休憩していた。こちらも小休憩をとるが、部長の「あと5分〜」との声を聞き、先に行くことにする。
この先が西鎌尾根の核心部だろうか、道が狭いところや短い鎖場などがあり、楽しく進む。
何度も後ろを振り返って槍の穂先がまだ見えていることを確認する両親が微笑ましい。この時期になってもなおさまざまな種類の花が咲き乱れるお花畑を通りすぎ、ホシガラスを見、左股岳のピークを過ぎる。
そこから40分ほどで硫黄乗越へ。硫黄と名のつく通り、北側に開けた景色は急に火山の様相を呈し、足元の土も赤みを帯びてくる。
硫黄乗越で小休憩中、反対側から来たソロのお兄さんが少し離れたところに座った。必死にエネルギー補給をしていると、「それライカの何ですか?」と私の雑に置かれた(ように見えたであろう)ライカを指している。Q2だと答えると、「山でライカ使ってる人初めて見ました!」だそうだ。お兄さんはライカのフィルムタイプを持っているそうだが、山では使ったことがないと言う。確かに値段を考えれば超大事に傷1つつかないように使う人が大多数なのかもしれないが、私は山で美しいものをガシガシ撮るためにライカを買ったので、他人に言われて初めてそのズレに気付いたのであった。お兄さんもせっかくいいカメラを持っているのだから、これに触発されて山でライカ使うようになればいいのに、と思う。お兄さんは今朝野口五郎から歩いてきて、槍沢あたりまで行こうかなと思ってます、と散歩のルートを話すような口調で教えてくれた。朝からずっとガスで槍ヶ岳が見えなかったと言っていたが、こちらは晴天で下は雲海と言う最高のシチュエーションだったので、少し驚いた。それにしても彼が来たのは裏銀座ルートの一部であるらしいが、この工程を1日で歩くとは相当のガチ勢らしい。実はすごい人だったのだろうか。それとも北アルプスが庭みたいなハイカーはこんな人ばかりなのだろうか…。
ガスもかかってきたのでお兄さん(家族の間では黒部五郎くんと命名された)に別れを告げ、そこから1時間ほど樅沢岳へ登り返す。途中ミネウスユキソウがたくさん生えていて、疲れを癒してくれる。
樅沢岳のピークを過ぎると、双六小屋が見えた。
あえて大自然の只中に行きたがっているくせに、人の営みを感じるとすごくホッとするのが面白い。12:00小屋着。荷物を下ろしていると、追いついてきそうで追いついてこなかった山岳部がわらわらと到着した。これからテントを張って自由時間のようだ。楽しそう!
昼ごはんに山菜うどんを食べる。しょっぱさが汗をかいた体にしみる。スイーツもあったが、鏡平山荘での楽しみをとっておこうとコーヒーと行動食のお菓子で済ませる。まだ先は長いのだ。
ここから1時間ほどの道は、風が抜けずハイマツも多くて蒸し蒸しと暑く、疲れもピークに達してなかなか大変であった。スライドする登山者もみんな顔が疲れ切っている。途中スライドしたお兄さんが、花見平に雷鳥がいたと教えてくれた。10分後くらいに花見平に着いて探してみたが、雷鳥は見つからなかった。
そこから20分ほどで弓折乗越に着くと、眼下に今日のゴールである鏡平山荘が見えた。下り始めれば稜線上からの絶景とはさよならなので名残惜しく最後の休憩をとる。
ここから40分ほどかけて、約300mを一気に下る。山のこちら側は下るのにも汗をかく程暑く、なるほどすれ違う人の顔が疲れていた訳だ。15:00過ぎ、鏡平山荘に到着。
ウッドデッキに陣取り、とにかくスイーツを!と小屋の売店を覗いたが、かき氷が売りらしく、というかかき氷しかなく、ケーキのようなスイーツを期待していた私は落胆してしまった。まあ今考えれば単に空腹だったのだ。母の頼んだ宇治金時味をもらったら美味しかったが、お腹には全くたまらない。夕飯までコーヒーを淹れたり、父がなぜか持ってきていたスルメを齧ったりしながら空腹を凌ぐ。
小屋は今までと打って変わって落ち着いた客層で明らかに平均年齢も高かった。2020年に増築したらしく、新しく綺麗で疲れを癒すことができた。夕飯をもりもり食べ、早めに就寝。
4日目 鏡平山荘〜新穂高温泉 8月19日
朝。部屋の窓から薄闇に目を凝らすと、昨日見えなかった山なみのシルエットが見える。急いでカメラを持って鏡池に向かうと、夜と朝が混ざり合う薄明の中、深い青をたたえた槍穂高の連なりが境目をなくした空と池の両方に浮かび上がっている。数人の宿泊客たちと共に、その完璧な美しさの前にただ佇んでいた。
ずっとただ佇んでいたかったのだが、時間になってしまったので急いで戻って朝食をとり、6:00に小屋を出た。太陽が山なみの上に昇り、神秘的だった鏡池の景色が今度はきらきらと輝いている。
絶景を目に焼き付けたら、小池新道をひたすらに降りていく。シシウドヶ原を過ぎてもくもく下りながら穂高の稜線を見ようと顔を上げると、山小屋で読んでいた『山の観天望気』で勉強したばかりの光学現象が!しかもハロの内暈と外暈が2重で見え、その上には環天頂アークまで出現している。同時に見えるのは結構珍しいのではないだろうか。
8:00前に秩父沢で小休憩。水場になっていて沢の水を頂く。登っている山でその山の水を飲むのがすごく好きで、水場があれば絶対に飲むことにしている。冷たくて本当に美味しいし、山と一体になれる気がして(素粒子レベルで見れば本当に一体化しているのだ!)幸福感があるのだ。
そこから1時間またもくもくと下り、小池新道登山口、そしてすぐにワサビ平小屋に着き、最後の休憩をとる。下山後も飲めるように水を2ℓほど汲む。
ここからはまた長い林道だ。途中、圧倒的な存在感を放っていた笠ヶ岳に直登する笠新道登山口を通り、緩やかな林道をひたすらに下り、とうとう10:40 新穂高温泉に戻ってきた!
汗だくの体を中崎山荘奥飛騨の湯で流し、2年前に訪問した際、美味しすぎて感激した松本の「とんかつめぐろ」で締めとした。
YAMAPの軌跡
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