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赤岳に登った話。[後編]
前編は↓から。
バテないようにゆっくりと登りつづけ、順調に行者小屋まで着いた。「ここから急登だよ。」と言われ、気合を入れ直す。
そこからはハシゴのような階段や、鎖を使いながら登る登山道に変わった。それまではわりと緩やかだったので驚かされた。同時に景色は開けてきて、視界に圧巻の山々が映り込む。こんな顔も持っていたのか!とギャップを見せられたような感じだった。
ここからは標高も上がる。深呼吸を意識して高山病に気をつけながら、歩を進めた。
小さく天望荘が見えてきた。ここまで来たら登れる気しかしない。むしろ登りきった気持ちにさえなってきて、自分たちは登山中級者だと言い合った。
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これが無事フラグになることはなく、天望荘に到着した。持ってもらう気満々だった荷物も最後まで自分の力で運んだ。しかも体力は3割くらい残っていて、全然元気だった。
無理だと思っていた場所に、自分の足でちゃんと辿り着けた。感動でしかない。しかもコースタイムよりちょっと早いくらいだった。とにかく着くことだけを目標にしていたのに。信じられなかった。
一気に調子に乗ったことは言うまでもない。
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※しょうま君のまかないタイム(質素)
その夜、たまたま同じ日に宿泊していたサークルの子がいたので、談話室で一緒におしゃべりをした。彼女の登山経験は我々の比じゃない。レベルの高い山に登っていて、すごい体力だと尊敬していたのだが、意外な事実がそこにはあった。
重いザックを背負って歩くことは、彼女にとっても大変なことで、肩や腰が怪我を負ったように痛むこともあるそうだ。それでも歩き続けているのだ。それを聞いて登山はメンタルだ、と痛感した。そして私がひよっこな理由もスルスルと紐解けた。そう、そんな精神力はない。
翌朝、ご来光を待った。刻一刻と空が明るくなっていき、その度に景色が変わった。どの瞬間もそれぞれ美しい。こんなにも広い空の色をたった1つで変えてしまう太陽ってすごい。
そして雲の上から太陽が顔を出した。一気にエネルギッシュな明るさで辺りが照らされた。
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朝食を食べた後、赤岳の山頂を目指した。山荘からの道は、手を使いながら登るような急登が30分ほど続く。
昨日の登山中級者ハイが抜けないまま自信を持って歩き出した。ところが昨日のようにはいかなかった。しっかり朝ごはんを食べた後だったせいか、息は上がるし、踏み出す足も重い。のそりのそりと登るしかなかった。
ただし悲しいことに、これがいつもの私の姿だ。ヒイヒイ言いながら、小さくなったみんなの背中を追いかける。もともと少ない精神力を使い果たしながら、なんとか山頂に辿り着いた。
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(この小ささに距離が開いていることを感じていただけると思う)
それから天望荘としょうま君に別れを告げ、名残惜しくも下山を始めた。これまでの疲労も蓄積していたからか、最後1時間はヘロヘロだった。ちなみにこちらもいつも通りだ。
それでもコースタイム通りに下山できた。中級登山をクリアしてしまった。そもそも八ヶ岳に登るなんて考えが及ばないような、登山を始めた2年前の自分とは全く違う。自分の成長と、一緒に登ってくれる仲間がいることの喜びを噛み締めた。
こうして、夏のビッグイベントはその名の通り、私の心の中に大きな爪痕を残した。
いろいろな思いがあったが最後に書き残しておきたいのは、精神力の低い素質と2日目の姿が物語るように、中級の山は登れようとも私はやっぱりひよっこだということだ。
登山中級者だと調子に乗るひよこだと思ってもらえれば幸いだ。
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