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森山周一郎さんの声

森山周一郎さんが亡くなった。

https://digital.asahi.com/articles/ASP296QN8P29UCLV00G.html?iref=comtop_7_05

森山さんと言えば、あの声。代表作は数あれど、一番インパクトを残したのはプロ野球中継ではなかっただろうか。

新機軸というか、型破りというか、無謀というか。そんなプロ野球中継だった。2005年5月3日、ナゴヤドームでの中日―ヤクルトの試合。放送したのはNHK。NHKのスポーツ中継といえば、余計な演出をせず、淡々とシンプルに試合を伝えるのが常だが、このときだけは違った。

メーンキャスターは、あまりスポーツ中継とはなじみのない、Hアナウンサー(今はフリー)、ゲストには俳優で声優の森山周一郎さん。さらに解説の小早川毅彦さんを交えて、3人が試合を見ながらフリートークをし、スポーツ中継が専門のTアナウンサーが選手のコメントやデータを紹介する、という、今振り返ってもなかなか斬新なスタイルだ。

森山さんはドラゴンズの大ファンで、芸能・メディア関係者でつくるドラゴンズの応援団、「われらマスコミドラゴンズ会=通称、マスドラ会」の会長も務めていた。大好きなドラゴンズの中継に呼ばれたとあって、試合開始直後からエンジン全開。あの声でとにかくしゃべり倒す。ドラゴンズの歴史から、選手の小ネタ、さらには「中日が優勝すると不吉なことが起きるんですよ」と、ひたすらしゃべり続けた。

たまたま仕事が休み(当時はドラゴンズ担当の記者)で、この中継を見ていた私は、ただびっくりした。野球中継なのに、アナウンサーや解説者がほとんどしゃべらない。いや、森山さんがしゃべりすぎて、他の人がしゃべる時間がない。ときおり、Tさんが、森山さんに負けない低音で選手のコメントを挟むくらいだった。

Tさんとはその後も取材現場で何度か会う機会があり、何かの拍子にこの中継の話になった。「見てたの? あれね、新しい野球中継をやってみよう、ってことだったんだけどね……」。試合そっちのけで森山さんがしゃべり続けたので、NHKには結構な数の抗議電話があったらしい。

もう一度見てみたいなぁ、とこぼすと、「あ、録画してるよ、俺」とTさん。DVDを借りて、ダビングさせてもらった。

訃報に接し、久しぶりにDVDを見た。台本がない、野球の試合。自分の好きなチームのことを、自分の好きなタイミングで、自由気ままに話す。渋く、ダンディーな声は、弾むようだった。


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