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ことばと生き方──ことばに対するこだわり

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若い頃から「ことば」というものに興味があり、2001年から2018年まで“ことばのWeb”を主宰していた流れで書いた文章を集めています。
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#英語

直訳されるとなんか違う

皆さんはこの日本語を読んでどう感じます? これは僕が長年使っているアメリカ製のヨガのアプリの会社から送られてきた日本語メールです。 どういう経緯か説明しましょう。 そのヨガのインストラクション・アプリが、(多分アップデートをきっかけにだと思うのですが)アナウンスが突然英語に変わってしまったのでした。 設定を確かめると、「言語」はちゃんと「日本語」になっているのですが、流れてくるのは英語のインストラクションです。念のため一度他の言語に変更してから日本語に再設定してみたの

トランプ前大統領に仮定法を見た

ニュース映像でトランプ前大統領が と言うのを聞いて、「あ、これは高校時代の英語の授業で習った仮定法過去完了ではないか!」と思ったのは多分僕だけではないでしょう。 なんか、嬉しくなりませんでした? 高校の授業で習った際には、とにかく日本人にとっては甚だ面妖な構造に驚いて、 とまで思ったほどでした。 でも、いろいろな形で英語と接する機会が増えてみると、実際仮定法というのは会話においてもかなり使われるのだということを知りました。 ただ、日常会話においては、大抵は条件節(

『三体』における「テキーラ(殺すため)」の謎──速い英語に慣れる

前に「外国語のドラマや映画の字幕って時々間違っていたりしますよね」という話を書きました: その時には書きませんでしたが、しかし、字幕の翻訳って実際かなり難しいんだと思います。何故なら、基本的に登場人物がその台詞を喋っている間に読める分量の日本語に訳す必要があるわけですから。 前回書いた例で言うと、訳者としては「日本人にフラットホワイトなんて言っても多分何のことか分からないだろうな」と思っていても、ドラマの中で登場人物がコーヒーを注文する一瞬の台詞に長い説明文の字幕を出すわ

単数なのに they って言うの知ってました?

ここにも時々書いていますが、会社を辞めてから僕は趣味で英会話を学んでいます。 で、長いこと英語に親しんできて、昨日ほど驚いたことはありませんでした。 そんなこと知らなかったのか?とおっしゃる方もおられるのでしょうが、僕は初耳で、結構ショックを受けました。 何かと言えば、英会話の教科書に載っている文章で、時々単数の主語を he や she ではなく they で受けていることがあって、初めて目にしたときは誤記かなと思ったのですが、何度か同じようなケースが出てくるんですよね

写真はイメージです(和製英語のイメージ)

英語を学んでいる人にとっては和製英語の知識が鬼門になったりします。 普段日本語の一部として親しんでいるから、ついつい英語でも通じるもんだと思いこんで使ってしまったり、あるいは逆に、これは和製英語だろうから通じないと思っていた表現が意外にも英米で使われていたり…。 まあ、学んでいるうちに知識も次第に蓄積されてはくるんですけどね。 例えば、OL(オフィスレディの略)は誰もが知る和製英語ですが、この表現が使われ始めたころには BG(ビジネスガールの略)という和製英語もありまし

「◯球」──球技の名称についての考察

人気漫画『ハイキュー!!』のタイトルは、言うまでもないですが、バレーボールが昔「排球」と呼ばれていたことを踏まえたものです。 明治以降の日本人は、外国語を訳すときに、それが今まで日本になかった物や概念であった場合、それらしい漢字を当てはめて新しい日本語を作ろうとしました。例えば明治初期に作られた「自由」とか「権利」とか「哲学」などという言葉がその例です。 そして、スポーツの世界でもそれは行われました。多くの球技に「◯球」という訳語があります。 野球さて、今ではバレーボ

あなたのお尻はいくつありますか? ~翻訳は難しい

ここ数年、僕は家でヨガをやっています。最初は YouTube の動画を見ながらやっていたのですが、今はアプリを入れています。で、このアプリの日本語が微妙に気持ち悪いのです。 元々は英語で作られたアプリを日本語化したものらしいのですが、時々翻訳のミスがあって「足」と言うべきところを「手」と言っていたりするのです。そんなもん、動画を見てりゃ分かるだろうと言われるかもしれませんが、画面を見ながらだとできないポーズもたくさんあります。 だから、画面を見ずに音声だけ聞いてやっている

はてしないトイレ談義 ~All-Gender Restroom For Everyone

トイレに関しては、僕は長年続けている自分のブログに何度もアホみたいな話を書き続けてきました。 今回はそこに書いた最新の記事(そのシリーズで言うと、これが第8回ということになりますw)に少し手を入れてここに転載したいと思います。 ★ 多機能トイレってあるじゃないですか。少し前までは多目的トイレという言い方もありました。この名称、どう考えてもちょっと変だと思いませんか? 多機能(あるいは多目的)って、うんことおしっこと、それから何ができるの?──みたいなことを僕は以前の記

「胃が痛い」と「お腹が痛い」を英語で言うと?

英語の勉強をしていて気がつきました。英語ではなんでもかんでも stomachache と言うんですね。 日本語では「胃が痛い」と「お腹が痛い」は全くの別物です。胃が痛いのは(ストレス性のものも含めて)胃炎だったり、胃酸過多だったり、胃潰瘍だったりします。それに対してお腹が痛いと言った場合は腸のほうで、大抵はお腹を壊しているということです。 めちゃくちゃ大雑把に言うと、お腹が痛い場合はトイレに行ったら治まる可能性がありますが、胃が痛い場合はその可能性がないということです。

米国人がやる謎のカニ・ポーズを見たことありますか?

英語を再勉強し始めたら、今まで習ってきたことと全く違う英語にたくさん出くわしました。 「Tはサイレント!」の怪たとえば僕らは often の t は読まないと教えられてきました。当時の学校英語でオフトゥンなんて発音したら、教師から「Tはサイレント!」と注意され、これがもしテストだったら減点されたはずです。 ところが、僕が会う多くの English speaking people が t を発音しているじゃないですか。 実は t を読む例に今まで一度も出くわさなかったわけ

翻訳って時々間違ってますよね?

翻訳という仕事は基本的に翻訳のプロがやっているわけですから、間違っているはずがないとついつい私たちは思いがちなんですが、実は結構間違っているんだということに最近気がつきました。 フットボールって何?アメリカ人が football と言ったのを「サッカー」と訳していたけど、ほんとにそれはサッカーだったのか? アメリカン・フットボールのことだったんじゃないの?──みたいなことを先日 note に書きましたが、それなんかもそのひとつの例ではないかと思います。 warmer とか

日本にあるアメリカ──Starbucks と DEAN & DELUCA

Starbucks僕が生まれて初めて入った Starbucks は旅行中のニューヨークだった。まだ日本に入ってくる前のことだ。 そうか、これが今アメリカで流行りだしたというコーヒーショップか、これは入ってみなければ、と思って入ったのだが、列に並んでいる間に壁に貼ってあるメニューを見ても何のことだかさっぱり分からない。 今でこそラテだとかマキアートだとかフラペチーノだとか言っているが、考えてみればそれらの言葉は後に日本に上陸した Starbucks で憶えたものだ。その時は

ニッポンの「ン」、Japan の "n"

日本人が苦手とする英語の発音はたくさんありますよね? 例えば r と l の区別? あるいは曖昧母音? いや、もっと難しいのありますよね? それは日本人が苦手とする n の発音です。 え? いや、別に苦手じゃないですよ。n でしょ? ナ行でしょ? 舌を上あごにくっつければ良いんでしょ?──って? ほんとにそんなに単純? 英語でも日本語でも、ひとつの文字が必ずひとつの音を表しているわけではありません。音声学の専門家に言わせると、例えば英語の場合、同じ l でもそれが語頭に

エバラギのエシダさんとカンデンな発音

もう随分昔の話ですが、私の会社の先輩で茨城県出身の石田さん(仮名)という方がおられました。そして、この石田さんには「エバラギのエシダさん」という異名がついていました。 こんなことがありました。 石田さんがアルバイトの女性にコピーを頼みました。A4サイズで1枚。 不幸にしてその女性は今まで事務のバイトをやったことがなく、しかもその日がバイト初日でした。彼女は受け取ってコピーを取りに行ったのですが、いつまでたっても帰ってきません。漸く帰ってきて言うには、 「石田さん、A4