服装とタイミングは大事だという話=自己紹介
社会人になって半年が過ぎようとしている今、何となく日記のようなものをつけてもいいんじゃないかと思った。漫画家の連載を読むためにnoteのアカウントを持っていた。
ここに書けばいいじゃないか。
こういう書きものは自己紹介からするものらしいので、5秒考えたがやめた。自分の何を切り出せばいいのか見当がつかない。22年しか生きていてない僕に、最もらしい自己などありそうにない。大卒で社会人1年目の大阪在住22歳男性、想像しやすく面白みがない。読書遍歴、大したことがない。趣味、読書・阪神タイガース・競馬、おじさんすぎる。
村上春樹がカキフライについてでも書けば、自己は表出されると書いていた気がする。先週の日記をもって、自己紹介ということにしたい。
その日は久々に高校の同級生4人で集まって、大阪梅田で終電まで飲んだ。
16時に合流予定ということで、30分前にWINSに寄って阪神11レースと、翌日の重賞の馬券を買う。土曜日のWINSには、人は少ないが雰囲気はどことなく明るい(競馬との出会いや、WINSについては別に機会を持ちたい)。重賞もない日に競馬するような人々は、土曜日の負けなど気にしないし、そんなものは翌日に取り返せると考えるからだろう。もちろん私もその一人だ。黙ってトップジョッキーを軸にした馬券を買い、ディスプレイの前に立つ。
ダートの1400m戦、4コーナーをまわっても彼はまだ来ない。ようやく伸び始めるかとうところで、レースは決着。僕と川田将雅との相性がすこぶる悪いことを再確認する。川田騎手を買い続ければ当たると言われる昨今、どうして僕はその恩恵を受けられていないのか。人生は甘くないし、確率は所詮は確立なのだ。そして翌日、僕は川田騎手に助けられることになる。
それにしても、あの膝から力が抜けていく独特の感覚は、毎回耐え難いものである。しかし新鮮な敗北に打ちひしがれるタイミングが、人生には必要なのではないだろうか。深く響く敗北こそが、勝利の味をより確かにしてくれる。人生とは競馬のメタファー、全くその通りだ。
頭を切り替えて、約束の16時に阪急梅田駅、BIGMANの前へ。いつまでも一度の敗北を引きずってはいられない。
はじめは3人で合流し、大丸梅田店で開催中の刃牙展に足を運んだ。東京ドームの地下や、空想上の強者たちに思いを馳せる時間は至福だった。一度も見たことがなかった一人には、悪いことをしたかもしれない。最高の漫画におけるもちろんネタバレという意味でだ。他にどんな意味があるだろう?
大丸を出て、阪神百貨店でタイガースの優勝を噛み締めた後、僕らは駅ビルの飲み屋に向った。
一軒目は唐揚げ推しの居酒屋。ビールの乾杯を終え、仕事の話へ。1人は社会人だが、もう1人は留学から帰ったばかりで休学中の大学生。就職活動をしていると言うので、半年で実感した社会の厳しさを教える。社会人には自由がなく、自由がないため政治が劣化するのだという話になる。暇な時間が思想や文化を育ててくれるが、忙しくてはマツリゴトに関心なんで持てないと。ヨーロッパの話を聞き、未だに明治維新を引きずる日本政治への不満を述べたところで、退店時間がやってくる。滞在時間90分で約9000円。
二件目で、30分ほどマグロをつまんだ後、4人目(社会人)と阪急大阪梅田駅で合流し三件目へ。時刻はまだ21時。阪急百貨店の前からエレベータを上がり阪急32番街へ。居酒屋に入る。日本酒を飲みながら、高校時代の話から、恋愛や結婚について語り合う。僕は軽くメイクをするので(と言ってもBBクリームやコンシーラーで肌を整えるの、多少のアイメイクくらいだが)、その話に。デパコスは買いに行くハードルが高いと話すと、「お兄さん、絶対行った方がいいですよ」と店員さんがのってくる。メンズメイクについてヨーロッパの事情を聞いたところ、日本ほどは流行っていないと聞く。あちらでは、フェイスメイク<ボディメイクで、男たちはジムに行き体を鍛える。それがモテるためにも役に立つとのことだった。滞在時間1時間強で閉店時間がくる。値段は1軒目よりも高いが場所代なので仕方ない。
四件目はカラオケへ。優勝を記念した六甲おろしに始まり、社会人の3名が歳の離れた先輩とのカラオケ用に鍛えた歌を披露する。大阪lover、ハマショー、最後の雨、などなど。勢いや情景描写において最近の曲よりも良い曲が多いなと感じる。60分の予定を延長して90分にする。帰り際、お会計をすると、14000円と表示される。4人で90分、飲み放題を入れているのに、そんなハズがないと問い合わせる。確認後12000円になる。3件目と変わらない。この店には二度と来ないことを心に決め、帰路につく。
阪急電車に終電がなくなったので、1人を阪神梅田に送り、途中参加の1人と最終のJR京都線に乗る。大阪から新大阪を通過し徒歩25分かかる駅で降りる。その間、隣の女性と左腕がずっと僕の右腕に強くあたっていた。この間に名刺を挟めそうだなと考えながら、友達の恋愛の話を聞く。8つ上のOJTの先輩に惚れているがどうするべきだろうと聞かれる。本気なら誠意を見せるしかないだろう。そうでないなら、下手に近づくのはお互いのためにならないだろう。お前の幸運を祈っている。
ほろ酔いのテンションで帰る夜道は最高だ。酒も夜も思索の友。普段通らないような道から帰る12時半。大学生に入学する自分に勧めたい本ランキングがまだ完成されていない。1位は海辺のカフカ、2位は近年のフィリップ・コトラーで、3位は実用書か、小説か。エッセイ枠として村上龍も入れたいし、行動経済学や脳科学系、池谷裕二先生やリチャード・セイラーにもふれてほしいと思う。ギャツビーや老人と海は?入学してすぐでは難しいのでは??なかなか決まらない。
家まであと2分というところで、もう少し考えようと公園のベンチに腰を下ろす。風が気持ちいい。耳を澄ますと、音が聞こえる。虫ではないのはわかる、鼻をすするような音、少し高い。誰かが泣いている。
声の方向に目をやると、ブランコに1人、泣き声から察するに女の子だろう。スマホを握って座っている。
五秒考えた。素通りして帰るべきか、声をかけるべきか。どのみち帰り道の方向なので立ち上がり、ブランコの方に歩く。服装はバンドTシャツ?をデニムにインする、パンクな感じでメガネをかけていた。アメカジ好きで、ロックバンドが好きそうな服装。少ない経験的に言って、これでこの手の子に声をかけても、何も始まらないなと思った。人としても関わってこなかったし、恋愛的にも互いにストライクゾーン外だろう。その思考が先か、足が先か、僕は彼女を素通りして家に帰っていた。
それから2分で家にはついた。ついた瞬間後悔が襲ってきた。君のなりたかったのは、泣いている人・助けを求めてる人を、見た目で判断して見過ごすような大人なのかと。範馬刃牙なら、烈海王なら、ビスケット・オリバなら僕と同じことをするだろうか?泣いている人にお水入りますか?の一言もかけれずに僕は、生きている資格があるのかと考え直した。もちろん違うし、優しくなければ生きていく資格はない。ならばすることは何か。家と公園の間で水を買った。そして早足で公園に向かった。
もちろん彼女はいなかった。
ぐちゃぐちゃの感情で、再び家についた。学生時代の悪癖を思い出した。僕は近畿大会に出る程度には、そこそこ強い卓球部にいた。僕は、コートに落ちなさそうな球を自分でアウトと判断し、プレイを止めてしまう癖があった。卓球というスポーツは見た目以上に奥深く、大量の回転をかけることで予想外の軌道からボールがコートに入ってくるのだ。それを相手が打った段階でアウトと判断する癖が僕にはあった。
今回の場合、ボールから目を話した原因は軌道ではなく、服装だった。この服装のボールはコートに入らないだろう、そんな判断から目を離してしまった。もちろんこれは卓球ではないが、この試合で僕は一つの機会のほかに何も失わなかった。一方で得たものは大きい、服装は大事だということ、人生には逃してはいけないタイミングがあるということ。
後はその女性の立ち直りを祈るばかりである。向こうからしたら服装のおかげで変な男に話しかけられなかったんだから、防犯効果があったというだけかもしれないが。
こんなところで自己紹介を終わろうと思う。