【序章・第2夜】SOAPの構造を学ぶ
薬剤師にSOAPの記録について尋ねると、標準的な理解度はだいたいこんな感じである。
「Sは主観的こと。まあ患者さんの話したことを書けばよい。これは簡単
Oは客観的なこと。だから検査値とか処方の内容とかかな。これも特に考 ることはないよね。
Aはアセスメント。…これはちょっとムズイ(何がどうムズイのか、多くの薬剤師は説明できない)
Pはプランで薬剤師が話したこと。
まあ、こんな感じで服薬指導での応対や記録を4つに分けて書くことですよね」
…悲しいくらいに本質を外している。
皆さんの職種では、これ、笑ってもらえるだろうか。間違っても「服薬指導」を「看護行為」や「リハ計画」と読み替えて「同じ」と言わないで欲しい。ついでに言っておくと、薬剤師目線でSOAPを組み立てる時、Sはかなり難しい。これは後日説明するが、トレンドの言い方をすると「問いの立て方」が一筋縄ではいかにないことが多いのである。
SOAPはプランを導き出す思考のツール
冒頭の薬剤師、何がまずいと言って、SとOとAとPに分ける…と考えていること。SOAP、特にOとAとPは繋がっている。この繋がり(関係性)を無視してSOAPらしきものを書いても記録として価値のあるものは完成しない。そのことは職種に関わらずSOAPを活用する以上は頭に入れておいて欲しい。
その関係性は以下のようにまとめられる。Pから辿った方が論理関係は分かりやすいと思う。
P:実際に立てたプラン
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A:なぜそのプランを立てたのか、その理由
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O:アセスメントの根拠となる事実関係、できごと
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S:その問題点に着目するきっかけになった患者・利用者・相談者の言葉
抽象的だとわかりにくいので、SOAP形式で日常の生活場面を作文してみよう。
S:今日は楽しみにしているテレビがあるので、早く家に帰りたい。
信号待ちはウザッタイなあ…。
O:現在夜10時。人や車が通る気配もなく、この時間にお巡りさんに遭遇する心配もほぼない。
A:信号無視をしても、事故を起こしたり、お巡りさんに怒られる心配はないだろう。
P:信号は無視して早く帰ろう
(あくまで例えである。普段私が信号無視をしている訳でも、信号無視を推奨している訳でもないことは強調しておきたい)
ここで先ほどの論理を振り返ってみよう
P:信号無視をして早く帰ろう
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A:なぜ信号無視をしようと考えたのか、と言えば
事故やお巡りさんに遭遇するリスクがないから
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O:なぜ事故やお巡りさんのリスクがないと判断できたのかというと
夜の10時で、車や人の通りがほとんどない。この時間にお巡りさんと遭遇するなんてえのも、まあ非現実的。
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S:そもそもなんで信号無視をしようなんて企てたのかというと
早く家に帰ってテレビを観たかったから。
この論理関係が大切なのである。動機と、判断の根拠をきっちり書くことによって、なぜ信号無視をしたのかが、論理的に説明できる。なので万一他の案件で通りかかったお巡りさんに見つかっても立て板に水で信号無視の言い訳ができる(…繰り返して言うが、それを推奨している訳ではない。上手に言い訳ができても減点を免れる訳でもない)
Oが変わると結論が変わる
ここでひとつ、SOAPの思考法を身につけるのに大切なことがある。O情報が変わると結論が変わるのだ。
先ほどのSOAPに一つ情報を付け加えてみよう
S:今日は楽しみにしているテレビがあるので早く家に帰りたい。
信号待ちはウザッタイなあ…。
O:現在夜10時。人や車が通る気配もなく、この時間にお巡りさんに遭遇する心配もほぼない。
ただし、会社を出る直前、間違えてかなり度数の高そうなウイスキーボンボンを口にしてしまった。
(…しつこいようだが、たとえ話である。私にこの前科はないし、この状態での運転は、言うまでもなく絶対NGである)
この情報が付け加わったとき、「夜10時だからお巡りさんに遭遇する心配はないだろう」と思って、信号無視などするだろうか?
たぶん、情報が追加されたことで判断と、それに伴う行動が変わるはずなのだ。
こんな具合に…
S:今日は楽しみにしているテレビがあるので早く家に帰りたい。
信号待ちはウザッタイなあ…。
O:現在夜10時。人や車が通る気配もなく、この時間にお巡りさんに遭遇する心配もほぼない。
ただし、会社を出る直前、間違えてかなり度数の高そうなウイスキーボンボンを口にしてしまった。
A:確率はたとえ低くても、今お巡りさんに止められたら、ただでは済まない。下手したら会社はクビになり、家族も崩壊してしまうかもしれない。
P:テレビの時間までに帰宅できなくても良いから、信号が青になるまで待とう
情報が変わると判断の根拠が変わるのだ。これは実務においてもとても大切なことなので覚えておいて欲しい。
繰り返して言うが、事例はあくまでシャレなので、ここで目くじらを立てて怒らないで欲しい。大切なのは論理構造を理解することにあるのだから。
とはいえ、ここまでではSOAPが犯罪の言い訳ツールにしかならない。
次回はこれを実務にどう生かすのかを考えてみたい。