【序章・第3夜】実務例でSOAPの構造を考えよう
実務の相談業務例
前回はSOAPの基本的な論理構造を、日常生活の例を用いて(…いや、絶対やっちゃダメな事例だけど)学んだ。今回は実務の例を用いて、SOAPの構造がどんなものなのか、一緒に学んでみよう。
糖尿病教育の場面を例にとって説明をしていく
(事例はあくまでフィクションである)
S:この1か月で血糖値がかなりあがってしまった。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
※非医療者への注:HbA1cとは血糖値の1~2ヶ月の値の、平均を反映する指標。一言でいえば、血糖値が爆上がりしている。
まだ、ここで何か教育指導をしようとは考えないだろう。何を話してよいのかの方針が立たない。これを言い換えると、「アセスメントを固めるための、O情報が足りない」と言えるのだ。
付け加えて言うと、このSの発言が悪びれた様子もなくサラリと言っているのか、とても暗ーい顔で行っているので話が変わってくる。
ではその情報を付け加えて、
S:この1か月で血糖値がかなりあがってしまった。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしている
…となると、血糖値が高いことを患者は問題視しているんだな、とは医療者目線思える。
そこで、血糖値が高かったことに思い当たるフシはないか、聞いてみると…
S:この1か月で血糖値がかなりあがってしまった。
東京に出ていった息子が家を継ぐと言って、先月から一緒に暮らしているんだ。息子は毎晩、一緒に晩酌に付き合ってくれる。それが嬉しくてつい飲みすぎてしまうんだよね。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしており、血糖値が上がったことに問題意識は持っている。一方、息子との晩酌を止めることにはかなり抵抗がある様子。
ホント言うと、ここで医療者が何かアクションを起こしてしまうのは甚だ早計ではあるのだが、こんなアセスメントとプランが一応は成立しそうだ。
S:この1か月で血糖値がかなり上がってしまった。
東京に出ていった息子が家を継ぐと言って、先月から一緒に暮らしている。息子は毎晩、一緒に晩酌に付き合ってくれる。それが嬉しくてつい飲みすぎてしまうんだよね。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしており、血糖値が上がったことに問題意識は持っている。一方、息子との晩酌を止めることにはかなり抵抗がある様子。
A:楽しみにしている息子との晩酌と、血糖をコントロールすることをなんとか両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考えたい。
P:食品交換表を用いて、晩酌で摂っているおよその糖質量、その他食事で摂っているおよその糖質量を算出し、削れそうな所を本人と一緒に考えてみよう。
ここまで書かれていると、なぜこの医療者が食事内容の洗い出しを行ったのか、それで患者をどういう方向に導きたいのか、やったことと思考回路が見えてくるだろう。これがSOAPで記録を書く(考える)ことの価値そのものなのだ。
やったことにはタイトルをつけよう
そうそう、ひとつ言い忘れたことがある。SOAPを通じて、どんな医療・ケア・援助を提供したのか、一言でタイトルをつけてみる。これが大切である。何に着目し、ケアを行ったのかを言語化するのである。SOAPでは冒頭に♯マークを付けてタイトルを記載する欄がある(正式には)。これをつけると医療者の考えが、よりハッキリとみえてくる。
♯楽しみにしている息子との晩酌と血糖コントロールを両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考える
S:この1か月で血糖値がかなり上がってしまった。
東京に出ていった息子が家を継ぐと言って、先月から一緒に暮らしている。息子は毎晩、一緒に晩酌に付き合ってくれる。それが嬉しくてつい飲みすぎてしまうんだよね。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしており、血糖値が上がったことに問題意識は持っている。一方、息子との晩酌を止めることにはかなり抵抗がある様子。
A:楽しみにしている息子との晩酌と、血糖をコントロールすることをなんとか両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考えたい。
P:食品交換表を用いて、晩酌で摂っているおよその糖質量、その他食事で摂っているおよその糖質量を算出し、削れそうな所を本人と一緒に考えてみよう。
だいたい、このタイトルはアセスメントと一致すると覚えておくと良い。
混ぜるな、危険
長くなったが、もう1点だけ。注目したポイント(アセスメント)と関係のない情報をSOAPの中に盛り込むのは避けるべきである。
S:この1か月で血糖値がかなり上がってしまった。
東京に出ていった息子が家を継ぐと言って、先月から一緒に暮らしている。息子は毎晩、一緒に晩酌に付き合ってくれる。それが嬉しくてつい飲みすぎてしまうんだよね。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしており、血糖値が上がったことに問題意識は持っている。一方、息子との晩酌を止めることにはかなり抵抗がある様子。薬を時々飲み忘れることがある。特に昼の薬。また、1日7000歩くらい歩いてはできているが、筋トレはほとんどしていない。
A:楽しみにしている息子との晩酌と、血糖をコントロールすることをなんとか両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考えたい。
P:食品交換表を用いて、晩酌で摂っているおよその糖質量、その他食事で摂っているおよその糖質量を算出し、削れそうな所を本人と一緒に考えてみよう。
…まず、これを書いてしまうとOとAのつながりが分かりにくい。読んだ人目線、薬を飲むのが優先じゃね?筋トレも必要だよね?と考えてしまうと、なぜ食事に注目したのかが分かりにくくなってしまう。(まあ、摂取した糖質を運動の量に換算するのはムズイという理由は分かるが…)
でも、聞き取ったことは漏らさず書こうよ…そんな反論も聞こえてくる。解決方法は至って簡単。SOAPと分けて書けば良いのである。
♯楽しみにしている息子との晩酌と血糖コントロールを両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考える
S:この1か月で血糖値がかなり上がってしまった。
東京に出ていった息子が家を継ぐと言って、先月から一緒に暮らしている。息子は毎晩、一緒に晩酌に付き合ってくれる。それが嬉しくてつい飲みすぎてしまうんだよね。
O:HbA1c7.2%(先月)⇒8.2%(今月)
患者はこの世の終わりというくらい、暗ーい顔をしており、血糖値が上がったことに問題意識は持っている。一方、息子との晩酌を止めることにはかなり抵抗がある様子。
A:楽しみにしている息子との晩酌と、血糖をコントロールすることをなんとか両立できるよう、食事のプログラムを本人と一緒に考えたい。
P:食品交換表を用いて、晩酌で摂っているおよその糖質量、その他食事で摂っているおよその糖質量を算出し、削れそうな所を本人と一緒に考えてみよう。
⇒本人との話し合いの結果、ご飯を食べる量を半分に減らしてみることと、晩酌に飲むお酒を糖質ゼロのビールに代えてみることを目標に掲げた
●薬を時々、飲み忘れることがある。特に昼の薬を忘れる
●1日7000歩くらい散歩はできているが、筋トレはほとんどできていない
⇒食事制限が上手くいかない、または制限をしても血糖コントロールが上手く行かないようなら、服薬の改善や運動の見直しも考えてください。
…こう書けば、「今日は食事やお酒に注目したんだな。上手く行かないなら2二の矢を考えてみよう」と次回対応する人が記録を読んだ時、何をすればよいのかがスッと頭に入ってくるはずである。