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【序章・第4夜】時間軸に沿って視点をずらしてみる

薬剤師の実務から

今日はまず、私が実務で遭遇した場面に基づきSOAPを記載してみよう。

 ある80代の女性。狭心症発作の既往があり、その予防のためにフランドルテープという貼り薬が処方されている。この薬、丸一日、貼っておくために、貼った個所がかぶれやすい。保湿をすることである程度和らぐこともあるのだが、それでも上手く行かず、だんだん薬を使わなくなってくる。そしてこの1か月ほどんど手付かずのまま、余っている薬を薬局に持参したのだ。聞けば、かぶれが辛いのでもう使いたくないとのこと(まあ、実際には使ってないんだけど)

狭心症発作予防の薬なので、使いたくないからと言って「はい、そうですか」と引き下がるわけにはいかない。
内服薬で似た効果を持つ薬に変更すれば、かぶれから解放と狭心症の発作予防が両立できる
…そう考えた私は、医師に代替薬の提案を行った。

この一連の流れをSOAPで記すと以下のようにまとめられる。

♯1かぶれで拒薬を起こしているフランドルテープの代替薬を提案し、
狭心症発作再発リスクを回避する
S:フランドルテープを使うと、かぶれて痒くなる。だからもう薬は使いたくないんだよ。
O:この1か月、フランドルテープはほとんど使用できてない。
A:フランドルテープを使用できてない状態を放置しておくと、狭心症発作再発の原因にもなりかねない。
P:フランドルテープに代えて、内服薬のアイトロール錠の処方を医師に提案した

…タイトルに少し言葉を補っているので、前回記したタイトル≒アセスメントとはなっていないが、このSOAPを読めばなぜ処方提案をしたのか、薬剤師の仕事は見えてくる記録にはなっている。

しかし、私はこれを記録とはあまり呼びたくない。もう少しハッキリ言おう。これだけを持って薬剤師の仕事と呼びたくないのだ。

なぜって、そこに患者がいないから…。

患者(利用者・クライアント)への目線と未来志向の目線

 薬を変更する提案が通ったからと言って、それで薬剤師の仕事が終わった訳ではない。新しい薬を始める以上、そこにリスクは付きまとう。この内服薬、血管を拡げて心臓への血流量を確保する薬なのだが、その裏表の関係で血圧が下がりやすい。
 テープと比較して、極端にリスクが高い訳ではないのだが、実質今回からこの系統の薬をスタートさせると言って良い状態だ。血圧が下がることのデメリット(ふらつきから転倒を招きやすい)への注意喚起は必須と言って良い。

それを踏まえて、指導したことや今後の計画を含めたSOAPをまとめたものが以下のようなものだ。

2アイトロール錠開始に伴い生じ得る過降圧について、患者への注意喚起と血圧モニタリングの計画
S:フランドルテープを使うと、かぶれて痒くなる。だからもう薬は使いたくないんだよ。
O:①フランドルテープはこの1か月ほどんど使えていない。その状態を放置すると狭心症発作のリスクに繋がるため、処方提案しフランドルテープ⇒アイトロール錠へ
②来局時BP134/80 家庭血圧は測定していない。血圧計を持っていない。
A:アイトロール錠による過降圧のリスクが、すぐに問題となることはないだろう。しかし注意喚起とモニタリングは必要だ。
P【患者への指導】薬を飲んで血圧が下がることがあり、その結果ふらっとすることがあるかもしれません。
【モニタリング計画】向こう1週間のうち2回。以降週1回を目安に血圧のモニタリングを行う

O情報に、♯1で記したOとAとPの情報をそのまま突っ込んでいる。ちなみにOの②は、安全にアイトロール錠が使用できるかどうかを判断するため、あらかじめ血圧を測定してから処方提案を行っている。

♯1と♯2違いは、視点を置いている時間にある。♯1では患者から話を聞き取り、医師に提案をする前に視点を置いている。だから医師への提案が「プラン」でその根拠が「アセスメントになる」
対して♯2では医師に提案をして、それが認められた後に視点を置いている。だから医師へ提案したことは、既に次のアセスメント行う判断材料のひとつとなっている。

そう、視点をどの時間軸に置くかによって「医療者・支援者のやったこと」はOにもPにも変わり得る。このことは頭に入れておいて欲しい。

そして、最終的には患者・利用者・クライアントのこれからの生活に関わる指導や援助を、「その日の医療行為」のP=計画とすべき。私はそう考えている。


セラピストの例(らしきもの)で考えてみる

 これまでに述べたことが、セラピスト職のSOAPの、「流派」が分かれる要因となっているらしい(違ってたらごめんなさい)

 視点の置き方によって、セラピストの組んだリハメニューがO情報にもP情報にもなり得るのだ。
ただし、リハメニューの作成は、それ自体が患者のQOL向上に直結する。だからリハメニューを組む過程に焦点を当てて記録とすることの意味は大きいと思う。薬剤師の処方提案と違って、リハメニューの作成を、その日のリハのP=計画とするのは立派な仕事だと思っている。

-が、セラピストの皆さんにも、視点を時間軸に沿って柔軟に動かしてみることは是非推奨したい。私はそう考えている。それが記録を、のちに精査する際重要な意味を持つ。

以下、私が知識ゼロでリハメニュー(らしきもの)を考えて、仮想SOAPを考えみた。幼稚なことはぐっと我慢して、以下の例を読み、考えていただきたい。

♯1本人の好きなオペラに関連付けて、リハメニューを組み積極的な参加を促す
S:パタカラ体操ってつまんないよね。やる気が起きないな…。
O:●脳梗塞後の麻痺により送り込みが困難。
    ●本人は食上げを望んではいるが、リハに消極的であることが
       送り込み機能の回復しない原因としては大きい  
   ●本人は昔オペラ歌手を目指していたこともあり、歌は好き
A:本人の好きなものと関連付けてリハメニューを組めば、積極的にリハに参加し機能回復が見込めるのではないか。
P:オペラ風パ・タ・カ・LOVE~愛の讃歌~を作詞作曲し、本人に歌ってもらい機能回復を図る

♯2オペラ風パ・タ・カ・LOVE~愛の讃歌~を継続して歌ってもらい、食上げに必要な送り込み機能の回復を図る
S:パタカラ体操ってつまんないよね。やる気が起きないな…。
O:●脳梗塞後の麻痺により送り込みが困難。
  ●本人は食上げを望んではいるが、リハに消極的であることが
  送り込み機能が回復しない原因としては大きい
  ●本人は昔オペラ歌手を目指していたこともあり、歌は好き
   ⇒興味を持ってリハに望んでもらえるよう、
      オペラ風パ・タ・カ・LOVE~愛の讃歌~を作詞作曲。
      本人も楽しそうに歌っている
A:このまま積極的にリハに取り組むことを継続できれば、食上げに必要な送り込み機能の回復も見込めるだろう
P:家庭でもオペラ風パ・タ・カ・LOVE~愛の讃歌~を歌うことを推奨。このメニューを継続し、送り込み機能の変化をアセスメント。 


…そもそも送り込みの機能って、水飲みテストのようなものでアセスメントするのでしょうか。そこからして曖昧なので、内容に乏しいことはご了承いただきたい。

大切なのはそこではなく、焦点を当てた時間軸にある

♯1ではメニューを組む過程に焦点を置いている。後から振り返ったとき、【興味に紐づけてリハメニューを組む】ことが、この患者にとっての正解だったの?それを精査するのに向いている記録と言える。後に、リハへの積極的な参加が結果としてできているかどうかに焦点を当てる。ダメだったら別の方法で興味を引くことはないか…そんな効果の精査をするには良いかもしれない。

♯2ではパ・タ・カ・LOVE~愛の讃歌~に好反応だったので、これを継続することに焦点を当てている。途中で飽きてしまわないか、あるいは歌は歌っているけど機能が思うように回復しない、じゃあ歌に盛り込んだ口腔体操に不足があるのでは…そんな精査をするには、こちらのほうが記録としては優秀では、と思う。

焦点の当て方を変えると記録の取り方も変わる。それはのちに何を精査したいか、によっても変わってくるのだ。

視点を柔軟に使い分ける、そのことで医療の質が変わってくるのではないかと私は期待している。


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