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個展: nothings / SUPER SHY BOYS

あふれるほどの「NOTHING」たち

と或る夜半に、僕はSUPER SHY BOYSと準廃墟にいた。
先だって、ふとした場面に立ち現れた話。つまりは約束の場末での彼の個展開催についての詳細を明らかにするためであった。日程や内容について語らいながら、会期に向けた予感が高まる。
彼のダイナミックな作品が、準廃墟に並ぶことを考えるだけでも楽しみなわけだけど、そのこと以上に僕が密かに胸をときめかせたのは、タイトルとなった〈nothings〉というフレーズの語感そのものだった。
SUPER SHY BOYSこと、なーりーさん曰く「結局、ナッシングだばーよ」そして「ついつい“s(複数形)”を付けてしまうんだよなー」と続く彼の言葉を聞き受けながら、僕の脳裡に浮かぶイメージ。

無いことが連なり、
重なりながら描きうるもの。
その希望としての〈nothings〉
あるいは、約束の場末。


会期中に並ぶ彼の作品たちや、それらが醸し出すであろうフィーリングスについては実際にそれぞれ皆さんで楽しんでいただきたいし、僕自身もそのことを心待ちにしている。
つまるところは、実際に見てみて感じてもらうより他にないわけなのだけど、ギャラリー主宰としてというより過ぎるほどの口数でくどくどと生きてきた僕としては、言葉を元手にしながら今回の展示会について考えを巡らせたいのだ。

なーりーさんとの出会いは遡ること10数年。
2000年代の初め、場所はあの〈Salon THING〉だった。僕はハタチそこらで、年齢よりも全然稚拙で右も左もよくわかっていないくせに「なにかをわかっているつもり」の自意識にすがって生きていた。
そんな僕とはうってかわって、当時から既に彼の表現は堂々としていた。それは威厳じみた高圧さとは真逆の、悠然自得な「かろやかさ」として僕の目には映った。
加えて、彼の風貌や飾り気の無い語り口から発せられる言葉も相まって、当時の僕が頑なに抱えていたある種の「気構え」が解けていくきっかけの一つになったと思う。もしかしたら、あの頃なーりーさんから受け取ったシグナルもまた、30代になった僕を約束の場末に辿り着かせてくれたのかもしれない。

さて、SUPER SHY BOYSの作風についても少しだけ書いておこう。
彼は、例えばシルクスクリーンの手法を用いるわけだが、製版した図案はその予定的な確実性をまるで顧みない。偶発的に生まれたラインや型から逸れる色彩たちによって、作品には有機的で大胆なエネルギーが宿っている。あるいは、抽象化されたそのエネルギーの傍らに時折添えられたフレーズは、ギャグめいているようでいて同時に示唆的な印象さえ感じることがある。
大胆でいて思慮を誘うその豊かさの正体こそが、まさに「無い」ことのもつ希望のように思える。具体化されたり明瞭化された確実性でなく、ましてや補助線的な説明によって確かめることもできないとき、僕らは「どう思う」かを見失いかける。そしてそれは、対象を指してそれが「無い」とさえ思いかけてしまう。だけど、そもそも僕らは基本的に「あると思うこと」について不得手かも知れない。

たとえば、自分と他者とが互いの内面や真意のようなものを、完全に交流したり理解し合ったりすることは、まったく以て容易ではない。それなのに僕は、彼の作品を眺めるたびに「なーりーさんと話をしよう」というゆるやかな衝動を自らの内に感じる。そう思えること自体の意味を考えるとき、「無い」ことのもつ価値を信じたくなるのだ。きっとそれは、今の自分の手元に「無い」ものを感じ、それが何なのかを求めてようとしているのだろう。言い換えれば、「無い」と向き合う場面にこそ、僕らの探求の源泉が満ちている。

SUPER SHY BOYSの悠然な作風と、朽ちかけて整わずにいる約束の場末。今回の会期はきっと、あふれるほどの「無い」で満ちることになるだろう〈nothings〉において、僕は僕の希望を確かめたいと思っている。
ぜひ、皆さんも一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。
ぴーしょー!

DATE & VANUE

2024年 6/15土, 6/16日, 22土, 23日, 24月
OPEN 13:00 / CLOSE 20:00

at. 約束の場末|文化と表現と学びの準廃墟

〒904-0022 沖縄県沖縄市園田3-14-35
入場:500円 ※18歳以下無料

SUPER SHY BOYS

artist, 1984, Okinawa
ADLIB CLUB, UEO, NOTHING

シルクスクリーンやスパッタリング、ドリッピングなどを主な技法とし、遊び心や親しみあるテーマ性が特徴。一見して曖昧な抽象性は、むしろ受け手に明確なほどの示唆を投げかけるような印象もある。当の画家本人は飄々とした語り口で、「結局はナッシング」と自身の作風を指し示してくれるが、僕の目にはその柔和な文脈こそが悠然さとして映る。僕の知る限り、もっとも優しいアーティストのひとりである。
(ポポ・アルージォ/約束の場末)

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