#屋久島の鳥たち 7月
日なたのリュウキュウキビタキ
梅雨が明けると、セミの鳴き声がにぎやかになります。
セミの合唱が始まると、鳥の声が聞き取りにくくなるので、とりさんぽはセミが鳴き出すより前の早朝がおすすめです。
さて、夏になると鳥たちのさえずりは少なくなるような感じがします。
子育て期間に入り、メスにアピールどころではないのでしょうか?
春から初夏にかけてはたくさんのさえずりが聞こえていたのが、夏になると聞き取れるのがぐっと少なくなるように感じます。
そんな中、聞こえてくるきれいな声がキビタキです。
屋久島で見られるリュウキュウキビタキは、全身黒っぽく眉の辺りと顎下からお腹にかけて黄色いのが特徴のスズメサイズの夏鳥です。
よく通る声で、「ピーチョリ ピー チョ! チーチー」みたいに鳴きます。
畑のようなひらけた場所ではなく森の中にいますが、山へ行かなくても集落のそばの森でも見られるので、屋久島に住んでいると家の中に居てもこの声が聞こえてくることがあるかもしれません。
ある晴れた日、農道脇の森からリュウキュウキビタキの声が聞こえてくるので、声を頼りに姿を探してみました。
パッと枝にとまった子をじっと見ていると、入念に羽のお手入れをしているようです。
翼を片方上げてその下を嘴で掻いたり、ぶわっと膨らんで胸のあたりを嘴で掻いたり、首をかしげて足の爪で頭を掻いたり、だいぶくつろいでいるように見えます。
そんな時も、「ピーチョリ ピー!」と鳴いては掻いたり、ぶるっとしたりしています。
となるとこの声は、メスへのアピールだけではないのかもしれません。
ルンルン鼻歌を歌いながら身支度しているように見えてしまいます。
存在感を消しながらじっと見ていると、途中でパッと道路に舞い降りてきました。
路面にいる虫を見つけたのかなと目をやると、地面にべたっとお腹をつけ翼を広げています。
日が照り付けるアスファルトだからきっと熱いはずですが、そこにうつ伏せで寝そべっているのです。
そんな姿を今まで見たことが無かったのでびっくりしながら、
「もしかして、擬傷行為?近くに雛がいた?」と一瞬ハッとしましたが、「いや居なかった、ずっとくつろいだ様子で羽繕いしていた」と思い直しました。
さらに翼をぐいーんと前方に伸ばし、降り注ぐ太陽の光を全身で受け止めているようで、まさに日光浴です。
鳥たちは羽毛に寄生虫がいて、それを取り除くために水浴びや砂浴びをすると言われています。
昔実家で飼っていた鶏も、日当たりのいい花壇に穴を掘り、モゾモゾしながら植えてあるガーベラをなぎ倒して砂浴びしていたことがありました。
日光浴も同じことなのかなと帰宅後ネットで調べてみると、平塚市博物館のサイトにそのことが書いてありました。
それによると野鳥の日光浴にはいろいろ意味があるそうで、
・体温の調節をする
・ビタミンDを作る
・羽毛を温め、脂を行き渡りやすくする
・皮膚の健康に役立つ
・寄生虫を活発にさせ見つかりやすくする
これらの利点があるようです。
じっと見ていると、木の枝に戻ってさえずり、また路面に降りて日光浴、そしてまた戻るというのを3回は繰り返しました。
くつろいでいるように見えても、絶えず身を守る対策をしながら生活していることがわかります。
羽繕いしながらさえずるのも、縄張りを常に主張しているのかもしれません。
鼻歌まじりで身支度しているのとは大違いでした。
夏になるとたくさんのさえずりを聞くのは難しいですが、出会う鳥たちの行動をじっくり観察すると面白い発見がありそうです。
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福留 千穂/ふくどめ ちほ
鹿児島生まれの鹿児島育ち。県内の小中学校で養護教諭として勤めていましたが、ガイドを志し2014年に屋久島へ。屋久島の自然を案内する中で、野鳥の存在は避けては通れず、野鳥を覚えるために意識して見るようになったところ、野鳥のかわいさ、美しさ、たくましさに触れ、すっかり虜(とりこ)になってしまいました。
現在はカメラを片手に、野鳥の姿や鳴き声を探して歩く「とりさんぽ」が生活の一部になっています。
耳を澄ますと、いろんなところから鳥の声がする。
よく見ると、いろんな鳥が近くにいる。
そのことに気付いてもらえ、野鳥の生活に気持ちを寄せてもらえると嬉しいなと思い、屋久島で見られる野鳥の様子をお伝えしていきたいと思います。