#島ぐらしと魚たち 6月
命がけのイソモン獲り
屋久島で「イソモン」といえば、「磯にいるもの」の総称だが、我が家では「イボアナゴ」という、アワビやトコブシの仲間の貝を指す。漁業の対象ではないことから、店に並ぶことがないので、食べたいのなら自分で獲りに行くか、もらうしか入手できない、島では一目置かれる食材である。
皆、自分が獲る場所は秘密にしたいし、イソモンを取る串も加工する。私の串は元は市販の物だが、濡れた手で滑らないように紐を巻き、厚みや角度を調整してある。
イソモンは波がかぶるような荒々しい磯の穴の中で暮らしている。その住処を探して私も磯へ行く。
が、しかし―
日中は穴の奥深くや、穴の上の壁、岩と岩の隙間などに身を潜めている。しかもイソモンの殻は周囲の岩と同化して見つけにくい。イソモンが好みそうな穴という穴を一つ一つ探していくのだが・・・。崖を下り、磯をよじ登り、また下り、ロッククライミング状態で全身筋肉痛。
波打ち際では背中から波をかぶりずぶ濡れ。目を酷使して眼精疲労はすさまじいし、強い日差しに立ち眩み。足を滑らせてタイドプールに落ちることもしばしば。
なぜそんな思いをしてまで行くのか―
もちろんイソモンが美味しいからなのだが、なぜか大潮になると血が騒ぐのだ。潮が引く数時間しかない中で、大粒のイソモンに出会いたい。穴を覗いて大物が鎮座していると、ナウシカがオームの抜け殻を見つけた時の音楽が頭の中に鳴り響き、心臓がドキドキする。最初の一撃で貝の下に串を入れなければ、身を固くしてうまく取れない。震える手を深呼吸で整え、絶妙な角度で串を打つ。あとはテコのようにイソモンを起こして取り出す。貝殻や身を傷つけることなく穴から取り出し、そうして自分の手に収め、渾身の「とったどーーーー!!」を叫びたいのだ。
家族や友人には「もうその入れ墨入れれば?」と笑われるが、イソモン獲りに行くときは、腕に1cm刻みのしるしを書いていく。その場で大きさを測り、どのくらい生きてきたのか、その命に感謝するためだ。
島では刺身やみそ漬け、しょうゆ味で煮つけて食べることが多いが、私のお勧めは何といってもフライだ。トンカチで叩いてから揚げることで、まるで帆立貝のように柔らかくなる。水分をしっかり拭き取らないと、揚げている最中に大爆発するのでご注意を。
ゲームの世界では守備力の低い「おなべのふた」だが、現実世界では身を守る大切な防具となるので、イソモンをフライにする際はぜひ装備してほしい。
そろそろまた大潮がやってくる。
今季最大のイソモンに出会うため、今度もまた命を懸けて命を探しに行く。
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川東繭右(かわひがし まゆう)
東京都目黒区出身
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士