#山尾三省の詩を歩く 9月
先日の台風14号は久しぶりに屋久島を直撃して過ぎて行った。910ヘクトパスカルで屋久島にやってくるというかなり厳しい状況であったけれど、過ぎてしまえば、何事もなかったような日常が戻ってきている。
一湊白川山の私たちの集落もずいぶん暴風が吹き荒れた。山間の集落なので、風よりも雨が恐い。雨も浸水というより土石流が恐い。少し雨風が収まったかと思ったのは、台風の目に入ったからで、その後の吹き返しがひどく、風とともに雨の降り方も強まって、一時は家の裏の小さな谷川の岩がごとんごとんと音を立てていた。
岩が音を立て始めると、いつ土石流となって襲ってくるかと居ても立ってもいられなくなる。だが、今回はその雨も1時間半ぐらいだったろうか。雨が強烈に降り続かなかったのは有難かった。そして台風は過ぎて行った。
台風は来る前に予測ができ、待ち迎えの態勢が取れるし、必ず過ぎていくのがわかっているから助かる。
今回一番堪えたのは、停電だった。約2日間の停電はつらかった。が、2日目の夕方、今日も暗やみの中で過ごすのかと覚悟を決めようとしていた矢先、電気がポッと付いた時は嬉しかった。思わず「付いた!」と叫んでしまう嬉しさだった。
そして、台風が過ぎた次の日にやってきたのは秋の涼しさ。
三省さんが台風のみやげだと書いたニラの花はだいぶ前に我が家の畑から消えてしまったので、今回の台風のみやげは思いがけない涼しさだった。
ニラの花の美しさにも負けない清涼な空気を胸いっぱいに吸いこんだ。
この詩は三省さんにしては珍しく、ニラとニライカナイを掛けた言葉遊びを含んでいる。沖縄の南東海上からやってくる台風はたしかにやっかいではあるけれど、ニライカナイからのみやげを運んでくるということは納得できる。台風が来なければ、海は搔き回されず、珊瑚をはじめ多くの海の生きものたちへの影響も大きいことも考えれば、ただ疎ましく思うばかりではいられないのだ。
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山尾 春美(やまお はるみ)
1956年山形県生まれ。1979年神奈川県の特別支援学校に勤務。子ども達と10年間遊ぶ。1989年山尾三省と結婚、屋久島へ移住。雨の多さに驚きつつ、自然生活を営み、3人の子どもを育てる。2000年から2016年まで屋久島の特別支援学校訪問教育を担当、同時に「屋久の子文庫」を再開し、子ども達に選りすぐりの本を手渡すことに携わる。2001年の三省の死後、エッセイや短歌などに取り組む。三省との共著に『森の時間海の時間』『屋久島だより』(無明舎出版)がある。