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#島ぐらしと魚たち 11月
冬の使者 バショウカジキ
鹿児島県では秋太郎と呼ばれ、秋の魚を代表するバショウカジキ。
温かい海を目指して南下するため県本土からは季節が少し遅れ、屋久島では冬の訪れを知らせる魚である。
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昔ながらの「旗流し漁」は、日本各地の伝統漁法マニアの私にとって、お気に入りのひとつ。
仕掛けはとてもシンプルで、浮きとなるブイに竹を刺し、各自目印となる蛍光色など派手な色の旗をつける。ブイの下から釣り糸を垂らし、その先には生きたムロアジを針につけて、潮目に流す。
餌のムロアジの大きさは、だいたい25cm前後あるので、それを食べる魚はどれもこれも大物だ。30Kgを超すロウニンアジや、10Kg以上のアオチビキなど、釣り人にとって人生のメモリアルフィッシュクラスが次々にかかる。
まだ移住前の屋久島に通っていた頃、1か月ほど義父のカジキ漁に同行させてもらっていた私は、屋久島の海、凄すぎッ!と毎度毎度興奮していた。
針にかかった魚が泳ぐと目印の旗が魚とともに移動するので、船で追いかけ釣り糸を素手でたぐり寄せる。特にシイラやカジキは、針から逃れようとジャンプしたり急旋回したり、まるで暴れ馬のよう。手綱をしぼるように釣り糸を持ち、時には片手で船を操縦し、体一つで何十キロもの魚たちと格闘する。
ようやくカジキが船に上がっても、今度はツノのような鋭い吻(ふん)を振り回し、ドッタンバッタン大暴れ。身を打ち付けると内出血してしまうので、すぐに気絶させその間に吻を切り落とす。鮮度保持のために内臓も取り出し、腹に氷を詰めこれにて一件落着。
と思いきや、他の旗にはもう次のカジキがかかっている。日に何匹も釣りあげてくる漁師さんの底なしの体力に脱帽だ。
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さて、我が家では、バショウカジキの刺身を食べることは、まずない。数年に一度あるかないかだが、内臓は頻繁に食べることができ、冬の何よりものご馳走である。
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心臓は茹でてスライスし、鹿児島ならではの甘口醤油で食べる。
胃袋は塩でもみ洗いした後下茹でし、薄くスライスしてにんにくと炒めるのが好きだ。
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その他の内臓は茹でてから一口大に切り、庭のダイダイやユズと酢味噌あえにすれば、数日味わえるおかずとなる。これは腸かな?など部位あてしながら箸でつまむのも楽しく、日本酒とともに島の夜が更けていくのである。
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…………
川東繭右(かわひがし まゆう)
東京都目黒区出身
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士
https://www.facebook.com/yakushimaosakana/
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