#屋久島の鳥たち 10月分
サシバの渡り
北寄りの風が吹く秋の涼しい晴れた日、上空をたくさん旋回する鳥の群れに出会うことがあります。
サシバです。
タカの仲間で、本州から九州にかけて夏鳥として渡って来ます。そこで繁殖したサシバが冬を越すために南へ向かいます。
屋久島で見られるのが、9月下旬から10月にかけてです。
今年もサシバの渡りが見られるようになってきました。
サシバは越冬地のフィリピンやインドネシアまで大きな群れを作り渡って行きます。渥美半島を通過し複数の群れと合流し大隅半島の佐多岬で集結し、大陸の高気圧が南西諸島に張り出した時に南下を開始するそうです。
ただひたすらに羽ばたくのではなく、大きな山にできる上昇気流の風をとらえ、ぐるぐると旋回し上空へと上がっていき、そこから滑空するように次の渡来地へ流れていきます。
佐多岬から60㎞の距離を飛んで来たサシバたちは、屋久島に到着すると森で休息するのでしょう。
サシバの食べ物は、ヘビやトカゲ、カエルなどの小動物、セミやバッタなどの昆虫類が主です。なので、水田の周辺や伐採跡地の開けた場所が彼らの生活の場です。屋久島でも棚田の周りのスギ林にもサシバが止まっているのをよく見ます。
ここ50年間の観察記録によると、北関東以南では観察される場所が減っている反面、分布の北限は北上しているようです。
減少の原因は、水田が整備されたり過疎化により耕作地が放置され荒廃したりして、サシバにとって生活しやすい環境が無くなっていったからだと考えられています。
サシバの目撃が聞かれているここ最近、早朝6時頃パタパタと森の中から1羽、また1羽と飛び立つ姿が見られます。
屋久島はハットのような形をしている島なので、風が吹くと山にぶつかり上昇気流が起こります。その風をとらえるのです。
初めは翼を広げている姿がわかりますが、後からはゴマ粒くらいにしか見えなくなるくらい上空まで上がっていきます。その数は多い時は数百ほどにもなります。
滑空し次の休息地には暗くなる前には着くそうです。
屋久島から飛び立ったサシバは、少数は奄美群島や沖縄本島で越冬するようですが、大半が遥か南のフィリピンや東南アジアまで移動します。屋久島でも南部で2月頃サシバを見かけることがあります。もしかしたら屋久島の南部も暖かいので越冬しているのかもしれません。
暖かい地域で越冬したサシバは、春になると繁殖のために北上して行きます。
屋久島で春の渡りが見られるのが3月中旬から下旬にかけてです。また屋久島に帰ってくるのを楽しみに、今まさに南下しているサシバたちに、
「元気に冬をお過ごしよ~!」
とエールを送りながら見上げています。
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福留 千穂/ふくどめ ちほ
鹿児島生まれの鹿児島育ち。県内の小中学校で養護教諭として勤めていましたが、ガイドを志し2014年に屋久島へ。屋久島の自然を案内する中で、野鳥の存在は避けては通れず、野鳥を覚えるために意識して見るようになったところ、野鳥のかわいさ、美しさ、たくましさに触れ、すっかり虜(とりこ)になってしまいました。
現在はカメラを片手に、野鳥の姿や鳴き声を探して歩く「とりさんぽ」が生活の一部になっています。
耳を澄ますと、いろんなところから鳥の声がする。
よく見ると、いろんな鳥が近くにいる。
そのことに気付いてもらえ、野鳥の生活に気持ちを寄せてもらえると嬉しいなと思い、屋久島で見られる野鳥の様子をお伝えしていきたいと思います。