求職者支援訓練について思うこと
やくさひろです。
私は今から3年ほど前まで、通算3,4年間ほど、求職者支援訓練校としてネイリスト養成科の講師を担当していました。
その時、良いことも悪いことも経験し、色々と思うことがありました。
ここで求職者支援訓練の制度について、私の意見を述べたいと思います。
ハローワークでは、以下の2つの制度があります。
求職者支援制度とは?
皆さんご存知とは思いますが、改めて求職者支援制度をご紹介しておきます。この制度は再就職や転職を目指す求職者の方が、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料で自分が希望する公的職業訓練を受講できる制度です。
訓練開始前から、訓練期間中、訓練終了後まで、ハローワークが求職活動をサポートしてくれます。
離職し、次の仕事を探す間、雇用保険の受給資格がある方または収入が一定額以下の在職者の方などが、月10万円と交通費(上限あり)生活支援の給付金を受給しながら、新しいスキルを身に着けるための訓練を受けることができます。
求職者支援訓練とは?
求職者支援訓練は、雇用保険を受給できない人に向けて行われる支援訓練です。一定の要件を満たすことができれば、「職業訓練受講給付金」として毎月10万円と交通費が支給され、無料で職業訓練を受けることができます。
求職者支援訓練の要件
「一定の要件」とは、具体的に以下を指します。
・収入が8万円以下であること
・世帯の収入が25万円以下であること
・世帯の金融資産が300万円以下であること
・現に居住する土地・建物以外に土地・建物を所有していないこと
・訓練の全ての実施日に訓練を受講していること(やむを得ない理由により受講しなかった実施日がある場合は、8割以上)
・世帯に他に当該給付金を受給し、訓練を受講している者がいないこと
・過去3年以内に失業等給付等の不正受給をしていないこと
求職者支援訓練の対象者は、雇用保険に入っておらず、収入8万円以下、世帯収入25万以下が要件に含まれているので、一人暮らしで日雇い労働、週2,3日アルバイトをしている人、世帯収入が少なく、パートにでている主夫、主婦の方などが主な対象となります。
求職者支援訓練校の実態
さて、ここまでは求職者支援訓練とは何かについてご紹介をしてきました。
ここからは、やくさひろが実際に経験し、感じた実際の訓練校についてお話したいと思います。
すべての訓練校や生徒さんの実態がこうである、と断定するつもりも、批判をしたいわけでもありません。
ただ、手のお手入れ・ネイルに関する技術を教える一人の講師として、私個人がが求職者支援制度について感じたことや、選考基準・カリキュラムについて、改善のご提案をしたいのです。
本来の目的は「就職すること」のはずなのに、いつのまにか「無料でネイル技術が学べ、自宅開業できる」にシフトしている
これには本当に困ったのですが、ハローワークで恐らく形式上の面接が行われていると思わざるを得ないケースに何度も遭遇しました。当スクールでの求職者支援訓練の面接時に、こんなケースが続出していたのです。
「ハローワークで勧められたけどよくわからない。求職者支援訓練って、どんな制度なんですか?」
「無料で学べるんですよね? えっ!就職しないといけないんですか? もし就職しなかったら、お金返さないといけないんですか?」
「途中で妊娠したら、就職しなくていいんですよね?」
上記は実際に私が受けた、入学希望者からの質問です。
当スクールでは明らかに就職意欲がなく、卒業後にも就職先を見つける気がないと判明した場合には、受講そのものをお断りしています。なぜなら、先に書いたように「就職する」ことが求職者支援訓練の目的だからです。
私の意見ですが、本当にお役所仕事だな、と感じます。なぜかというと、現場の実態が全くわかっていない、お役所用のための書類を山のように提出させられるからです。
一度「面接で不合格にした理由に合理性がなければいけない」とご指摘を受けましたが、その肝心な「合理性」について、労働局からは明確な基準が示されておらず、こちらがきちんと基準をお尋ねしても、「まあ・・・これなら仕方がないですね」という対応なのです。
この問題に直面した私たちは、求職者支援訓練について知ってもらうため、希望者一人当たりの面接時間を30分に設定し、求職者支援訓練について、皆さんと率直に話し合う機会を設けました。
その結果、残念ながら殆どの方が「無料で学べる機会」と即答されたのです。
勿論その通りなのですが、私たちは、「この制度は国の税金で勉強をさせてもらうものであること、在籍者は積極的に就職活動を行うべきであること」について、時間をかけてご説明させていただきました。
4ヶ月に及ぶ受講の中での、生徒同士の人間関係について
女性が数十人集まれば、どういう事態が起こるか、ある程度は御想像いただけると思います。残念なことに当スクールでもいじめ、派閥、技術の評価が生徒同士で互いに行うような雰囲気などが見受けられるクラスルームもありました。
もちろん全員がそうではありませんが、このような状況は珍しくないとハローワークからも説明を受けたことがあります。
残念なことに生徒さんは目標が就職、技術習得ではなく、それ以外の事に意識が向いてしまっていたようです。
「どうせ誰も就職なんかする気がない。みんなそうですよ。適当に先生に『はい』と言って、要件だけ満たして、給付金をもらえればそれでいいんです。ハローワークにいっても、就職活動してるけどできないって言ってやり過ごしたらいいし。」
「●●さんがこんなラインを送ってきた。ほらみて先生」と、この手のやりとりを見せられたことが何十回とあります。
「就職しないとどうなりますか?」と何度聞かれたことか。要するに、働くのは嫌なのですね?と質問をすると「はいそうです」
「妊娠したんですけど卒業したいんです。どうしたらいいですか?給付金でブランド物を買ったの、見てみて先生」
「働きたいけど体調が悪くてできない」本当に?学校は来れても働けないのですか?と問い尋ねると「卒業してから手術の予定がある」などと返答をされる方がどれだけ多かったことか。
卒業時期が近づくと日々このような相談を受け講師たちもメンタルが疲弊してしまっていました。講師からすると「一生懸命教えているのになぜ」という気持ちになることは当然ではないでしょうか。
受講者アンケートについて
求職者支援訓練には、受講者アンケートというものがあります。これは受講者が訓練校について評価をして、ハローワークへ提出する書類です。この評価が悪いとハローワークから訓練校に指導が入ります。
私は自身の経験から、このシステム自体が異常だなと感じました。その理由を述べます。
もちろん中には悪質な訓練校が存在するという話は聞きます。しかし、それは国の判断で、悪質な講師や質の低い講師を揃えている訓練校はそもそも訓練校として認定しなければよいのです。しかし、近年、国の受注要綱や単価が下がり、また運営の難しさから、訓練校に参画する企業は激減しているのが現状です。あくまで私の推測の域ですが、そんな厳しい状況の中で、悪名を晒すような訓練校はいまだに存在しているのでしょうか?
訓練校の現場の日々、その運営状態を何も見ていない、ただ書類だけで評価をされるのです。訓練校は国からのハードな要求と、求職者の無気力さの、まさに板挟み状態であると感じたこともあります。とある訓練校の方がこのように話されていました。
「我々は一生懸命教育しているのに、10センチにも及ぶ役所のためだけの形骸的な書類を提出させられ、一文字ずれていたらダメ等、全く無意味なルールがある。形骸化していて、まるで中身のない対応だと思う。現状確認といえば、数ヶ月に一度のポリテクセンターとの面談のみ。さらに面談は、キャリアコンサルタントの資格を持っていると思われる2人組が来られ、求職者と国の要求の狭間で苦しむ我々に対して何の具体的なアドバイスもなく、「就職させるようにこのように話をもっていけば良い」など、現場で全く通用しない、価値のない話だけをして去っていく。この面談そのものが全く無価値で、時間の無駄にしか思えない。」
私自身も、ポリテクセンターの担当の方にこんな相談をしたことがあります。
「全員ではありませんが求職者にはそもそも就職をする気などないと発言される方が多いのです。技術だけ学んで自宅でネイルサロンを開業しようとしている方が多すぎます。最初に面談で話した内容とは全く違うことを言い出すのです。こういった場合はどうしたら良いでしょうか?」
驚いたことに「寄り添うこと」 、これが回答だったのです。
まさにキャリアコンサルタントが言いそうな言葉ですが、問題を抱える我々の現状を変えることにはなんの役にも立ちません。こんな他人事のような姿勢だからこの国の就業率はどんどん下がっているのではないか、とさえ思ってしまいます。
訓練を請け負う企業だけが矢面に立たされていますが、実際は就業者の心の在り方にも、大いに問題があるのではないかと私は考えているのです。以下に具体的な理由を書きたいと思います。
提出されない就職状況報告書
ちなみに訓練を受けた求職者は卒業後、就職状況報告書というものを提出する必要があります。これは自分の就職が決まったら訓練校に提出する書類です。卒業式の日に生徒の皆さんに対してこの提出の重要性を、きちんと時間をかけて説明をしていましたが、残念ながら受講者のほとんどの方が提出されません。仕方なく講師が個別に連絡をしても返答自体がないのです。仕方なく、講師がご自宅に訪問することが何度もありました。
生徒を就職させることで報奨金が支払われる制度がおかしい
厳しいようですが、私はこの制度、即刻廃止すべきだと思っています。
率直に言えば、熱心に教育をしてきた訓練校にとって、報奨金が入ることでモチベーションが上がり、それを施設運営費に充て、更により良い環境を作ることができるのかもしれません。実際、私たちも「報奨金が支払われるくらい、就職率を上げよう!」とスクールスタッフ一致団結して向き合ってきました。しかし、「初めから資格だけが欲しくて、就職活動をする気のない生徒にどのように就職をさせるのですか?」一我々訓練校の抱えるこの根本的、かつ一番大きな課題に対し、是非とも国やポリテク、ハローワーク様から具体的かつ現実的なアドバイスを頂戴したいと強く思います。
多くの訓練校の皆さんはこう考えているはずです。
「我々はわずかな報奨金のために就職活動を促しているのではない。就職率を安定させることで、次の開講へとステップアップを行いたいからだ」と。本当に悲しいことですが、一部の受講者の方たちは、この我々の想いや取り組みについて、「訓練校からの連絡がしつこい。訓練校は報奨金がほしいからだ。」などと、本当に心ない言葉をネットにあげている方もいらっしゃいます。(確かに私も、昔は助成金や報奨金目当ての悪質な企業が存在していたと聞いたことはあります。)
ネイリスト養成科は大変だった。自宅ネイルサロンをしたいから訓練校を受講するなら、正直に言ってほしかった。
ネイリストを募集する就職情報紙の要綱に、「職業訓練受講の方は応募不可」。 関西では結構な確率でこの文言を見る機会があります。この文言を見ると胸が苦しくなります。なぜ?という想いと就職を希望されている方の道を作ってあげたいという想いがより強くなります。
思い切って一度、なぜこのように表記をするのかを聞いたことがあります。すると就職担当者から、このような返答をいただきました。
「求職者支援訓練は国の税金で運営され、制度が成り立っています。卒業生は通常、美容関係で就職をされますが、もし地域的に美容系のお仕事に就くのが困難であったとしても、その方が就職したいという気持ちを持ち合わせているなら、まずは他業種でもいいから、就職しているはずです。就職に「遠回り」ということはなく、多職種での経験もあくまでも「経験の積み重ね」だと考えています。
しかし正直言って、求職者支援訓練を受講した卒業生は「人からしてもらってあたりまえ」という感覚の方が多かったのも事実です。すぐに辞めていく生徒があまりに多かったのです。そこで本人たちに、そもそも何故求職者支援を受けたのかと尋ねると、ほとんどの方が「無料で受けれたから」と答えるのです。このような事情から、応募者自らがお金を捻出し、ネイリストになるための勉強をしている方たちを、優先して採用したいと思うようになりました。求職者支援校の関係者の方々には大変申し訳ないですが、以上の理由から、私どもでは訓練校お断りと書かせてもらっております。」
私が過去に訓練校として直接指導させていただいた中で、就業意欲を持ち、熱心に活動をしている生徒も数名ですがおられました。その方たちは皆熱心に履歴書を書き、不採用の通知がきたら涙を流され、なぜ自分が選ばれなかったのだろうと自問自答し、自らのスキルやキャリアを高めるためのキャリア計画を立てておられました。
私が数年間求職者支援訓練を続けられたのも、このような方々がいたからです。
正直に言って、私の今までの仕事人生の中で一番心が疲弊したのが、この求職者支援校の業務でした。真剣に人間不信に陥りました。繰り返しますが、受講者の態度にも大いに問題があるのが事実です。
具体例を挙げると、生徒同士のトラブルに留まらず、「あの先生の教え方がわからない」と、訓練校の講師やカリキュラム、何かにつけて、人を批判する方の多いことに驚きます。そしてそういった方に限って、練習をしません。
「この部分が出来ていないからこうしましょう」と、技術的な事を伝えると「人前で恥をかかされた!」と烈火のごとく怒るのです---このような人達が集まる場所が本当に求職者支援訓練なのでしょうか。
抜き打ち調査は熱意ある訓練校への侮辱行為
職業能力開発促進センター(通称:ポリテクセンター)というものがあります。ポリテクセンターでは求職者の再就職を支援するための職業訓練、中小企業等で働く方々を対象とした職業訓練や人材育成等の支援を行っています。このポリテクセンター、本当に必要なのでしょうか。以下は私が不要だと思う理由です。
まず、求職者支援訓練を開講する際は、厚さ10センチほどの書類をひたすら作らされ、さらに一文字空白があるだけで全文をやり直すのです。この行為に一体何の意味があるというのでしょうか?
次に、「受講者アンケート」という制度があります。労働局の担当者が「抜き打ち」で訪問をしてアンケートをとるのです。これなどは、もはや悪質な訓練校いじめだといわざるをえません。明らかに、熱心に訓練をしている私たち訓練校への侮辱的な行為です。そして抜きうちにアンケートをとること、訪問をするなどという行為が訓練校の水準を保つなどという考え自体が、我々訓練校をまるで尊重していない、正にお役所の上から目線の制度であることをご理解いただきたいと切に思います。受講者のために、と言いますが果たしてそうなのでしょうか。誠心誠意指導をしていても、たった一人の生徒が「●●先生の教え方がわからない。理解できない」と記載したことに対して「こういった声もでているから注意して」というのが業務なのでしょうか。
私はポリテクセンターに足を運ぶたびにこう感じていました。いつも職員の方たちがのんびり働いているんです。私たちは就職活動と意義ある授業に向けて必死に取り組み、汗水流して精神も疲弊しながら働いています。就職率を上げるための取り組みをしているはずの監督省庁のこの緊張感の無さに呆れます。
ポリテクセンターの担当職員の方は、「皆、就職ができるようにがんばりましょう」と繰り返すのみ。訓練校が抱えている本当の問題に誰も本気で取り組んでくれないのです。これでは、いっそやめてやる。そう思わざるをえません。
私は経営に携わっていたこともあり、講師を兼任していましたので、余計にこのような想いが強いのでしょう。
ハローワークに足と運ぶと、職員の方から「あなたのところはとてもしっかりとしている。けれども就職率が悪いのはどうして?皆さんに聞くと就職が不安だといっている。あなたはその不安な気持ちを取り除くことも仕事なのでは?」と人前で言われることもありました。休みの日には市内全域をまわり、美容関係の職種のリサーチも行いました。求人情報を日々検索し、いつの頃からか「私は誰のために何の仕事をしているのだろう」と疑問を感じるようになったのです。
一講師と勤務している先生方のケアはどなたが行うのでしょう。
現場の行き場のない想い、お役所の他人任せの無責任な対応・・・これが全員同じ方向を向けて進める環境なのでしょうか?
労働局は「就職をすること」を制度の目的とし、そこにペナルティを課すのであれば、その根底にある受講する人の心の在り方や志をまず問い、そして訓練校の訓練内容の精査と講師の姿勢・能力の吟味こそを行うべきではないでしょうか。
誤解していただきたくないのですが、私は、本当に心理的に安心・安全で有意義な求職者支援訓練であれば、もっともっと長く続けたかったのです。
しかしながら、現行の制度である限り、私は二度と参入しようとは思いません。
求職者支援訓練が誰かの犠牲の上に成り立つ雇用のサポート体制なのであれば、それは本当の意味での雇用対策とは言えないのではないかと強く思う次第です。
皆さんは求職者支援訓練校制度、どのようにお考えになりますか。
ご意見があれば、是非お聞かせください。
参考文献
厚生労働省ウェブサイト2021/10/30
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyushokusha_shien/index.html