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[SF小説]やくも すべては霧につつまれて10
地球防衛軍松島中央基地。
松島国最大の防衛軍基地である。
広大な敷地面積に対して地上十二階建ての司令本部は、その大きさはともかく高さ自体は低く思えるかもしれない。
だが実際には地下五十階近くまでが本部の全様であり、地上部分よりも地下のほうが本体ともいえる。
これは地上部分が爆撃などにさらされても、地下の本部で指揮統制が維持できるような措置が取られているためである。
そんな文字通り氷山の一角にすぎない司令本部の最上階に、暁と神崎は呼び出された。
いや、正確には彼らも含めて十数人の将官が臨時会議と称するものに出席しなければならなくなった。
「いったい何の会議なんだろうな?」
暁が暇そうに、会議室前の窓から外を眺めてつぶやいた。
地上部分が十二階しかないとはいえ、それなりに周囲の風景を一望できる。
高層建築を除けば。
「さあなぁ…。会議自体はよくあるけど、こんな一度に将官を集めるなんてよほど特別なことがない限りそうそう…」
ここまで言い終えた神崎は、何かひらめいたように暁のほうを見て言った。
「もしかしてこれが『きわめて重要な指令』ってやつか?」
「かもしれないな…」
これまでの経験上、思い当たる節がそれしかない以上そうとしか考えられない二人。
会議の準備が整うまでやきもきとしていた。
いろいろと思考を巡らせつつも、半ばぼんやりしていた二人だったが、そんななか声をかける人物がいた。
「おーい、暁と神崎じゃないか?」
「あ、#言葉__ことのは__#じゃないか、久しぶり」
暁がそう言って手を振った先には、昇降機から降りてこちらに向かってくる言葉渚の姿があった。
彼女は地球防衛軍陸軍所属で、それゆえに暁たちが白い軍服を着ているのに対して言葉は黒色の軍服だ。
二人とは何度か任務をともにしたことがある旧知の仲である。
暁と神崎に比べると部署が違うため、それほど会う頻度はないとはいえ仕事以外でもたびたび会って話をするなど交流は絶えない。
「やっぱ二人も呼ばれてたんだね、この会議に」
「もちろんよ。それにしても言葉が俺たちと一緒に会議だなんて、あんまりないよな」
「そうだな。年に数回、宇宙軍と陸軍の合同訓練で一緒になるときくらいか。とはいえ…」
暁はあたりにいるほかの将官たちを見渡す。
「こんなに将官を一度に集めるなんて、式典以外にほとんどないよな。何事なんだろ?」
暁達三人は防衛学校時代からなんだかんだ付き合いのある腐れ縁なところもあるが、今回は暁達も任務や訓練などでしか会わないような、普段職場が離れている将官も呼ばれているようだ。
防衛軍の上層部、特に左官以上の階級には各部隊で優秀な成績を修めたり、優れた功績をあげたものだけがなれる狭き門だ。
それゆえに地球防衛軍の規模がいくら大きいとはいえ、相対的な人数はかなり少なくなる。
将官ともなればなおさらだ。
だが地球も含め広大な宇宙の様々な場所で任務にあたる関係上、少ない人数とはいえほとんど顔を知らないものも出てくる。
それは三人以外もお互いそうであり、みんななれない人たちを前にそわそわしている風にも見えてくる。
「いやぁ、でも、松島中央基地所属の将官が一堂に集まるとは、これはなんだかすごそうなことが起きる予感ですなぁ」
前代未聞の豪華な配役が行われている会議を前に、わくわくを抑えきれない言葉。
「たしかにな。これはとんでもないことが…まさか、宇宙人の侵略とか!?」
暁の思考回路があらぬ答えを導き出す。
古来より人間が人知を超えた存在と対決するという話は数多くある。
その一つとして宇宙人襲来はあまりにも有名であるが、暁達地球防衛軍にとっては他人ごとではない。
まさしく地球人類を守る盾たる存在だからだ。
「まあまさかとは思うが、宇宙人が攻めてきたらいよいよ俺たちの出番だな。その時のために訓練してきたんだし」
意気揚々と語る神崎のこぶしに力が入る。とはいえ、三人も本気で宇宙人と戦争するなどとは思っていない。
それはあくまで空想の産物であり、高度な文明をもつ生物が自らの生存を脅かしてまで他の文明と戦うはずもないと、頭の片隅でそう思っていた。
現に人類は地球連邦という共同体の中で長らく平和を享受してきた。そのゆるぎない前例を楽観的な色眼鏡として多くの人類が身に着けている。
だがそれは間違いではなかったが、それと同時に正しくもなかったということにのちに気付くことになる。