[SF小説]やくも すべては霧につつまれて 8
数十人が入れるほど大きな部屋。
そこには半円形の机と椅子が階段状にいくつも並べられており、その多くに政治家をはじめとした要人が座っている。
彼らの目線は部屋の上部に設けられた画面に向けられており、そこにも彼らと同じような要人が大勢映っている。
画面が見やすいようにあらかじめ暗く保たれている室内ではあったが、会議の内容も相まってなにやら物々しい雰囲気が醸し出されていた。
「…賛成多数でこちらの議題は可決されました、よろしいでしょうか、大統領」
「…了解した。その案に決定しよう」
中段の席に座っていた人物が大統領と呼んだ人物、大きな画面の中央に映っている初老の男性がそういうと、手元の電子端末の契約書に記名する。
これで大統領が議会で提示された案を認可したということになる。
会議で議決された内容であるはずの議案。
参加者の多くが賛成票を投じたはずではあるが、あちこちでざわめきが聞こえる。
「…しかし、本当にうまくいくのでしょうか?我々、いや人類初ですよこんなの」
「そりゃそうだが、いつかは解決しないといけない問題だしなぁ…」
会議室中からそんな不安げな発言が漏れ出す。誰もかれもが眉間にしわを寄せ、首を傾げ、うつむくなど、鬱屈がその場を支配していた。
「それにしてもこんなこと、国民にはどう説明すればいいんだ。大混乱を引き起こしかねないぞ…」
外務省、内務省、総務省、防衛省…
各々頭を抱える悩ましい判断。しかしいずれは決断しなければならないということを皆理解していた。
「これよりいったん本会議を終了し、各担当部署単位で個別会議を行い、後日改めて具体的な計画の立案を行います。それでは参加者一同、解散してください」
会議の進行役の合図で簡潔に閉会が行われる。
薄暗かった室内に照明の明かりが戻り、参加者たちは順に会議室を後にしていく。
これでひと段落かと思いきや、皆それぞれ自分の仕事に戻らねばならないため足早に廊下を歩いていた。
そしてそんな中に彼もいた。
「二階堂大将!お疲れ様です!」
一人の男が、大勢の人の流れの中から二階堂を見つけて後ろから呼び止めた。