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#匿名年の差カップル企画 今更精読会

 どもです。今回はさらさらしるなさんが主催する企画「#匿名年の差カップル企画」の感想記事です。もう企画は終わってます。。。


企画概要

匿名性を保持した状態で2500〜4000文字の『年の差カップル』書き出し小説で競い合うお祭りです。
・作品受付期間:10月12日(土)18:00~10月19日(土)18:00
・投票期間:10月19日(土)20:00〜11月 5日(土)18:00
・結果発表:11月 2日(土)20:00ごろ
 詳細は本作品の1話目、もしくは主催者のX(旧Twitter)に掲載してある『企画概要』をご参照ください

※作者として参加されている方のブックマーク及び評価は禁じます。いいね、感想はご自由にお使いください。

あらすじより

▼企画URL

https://ncode.syosetu.com/n2920jn/

個人的な評価基準

年の差カップル点

 「年の差カップル」の概念として以下の基準をもとに採点してます。あくまで投票するための個人的な基準なので作品そのものの良し悪しはあまり関係がありません。

◆「年の差」としての成立

 何をもって「年の差」とするかは議論が分かれますが、個人的には学生時代なら「同じ学校に通えないくらい」を順当とし、成年以降は「ライフステージが異なる段階」というラインを年の差とすることに決めました。
 いや、全体的には「ライフステージの相違」が大事なんだと思うんですが、例えば中学生の葛藤と大学生(別に高校生でもいいけど)の葛藤だとライフステージが違うんすよね。就活とか大学受験に悩む年頃と、期末試験の成績や部活動、クラスメイトとの関係性に悩むフェーズだったら、お互い考えてることが違うじゃないですか。
 同じように、若者の悩みとおじさん(おじいさん)/おねーさん(おばあさん)の悩みなんて別物で、そのあたりの描写がそれぞれのキャラクターにちゃんと配剤できているかで「年の差」の概念の達成度を測ることとします。おおむね3点分くらい。

◆カップルとしての順当な年齢

 かといって、「おねショタ」や「ロリおに」なる概念までいくと少しやりすぎかしらーって気がしてます。それはそっちの概念であって、「年の差カップル」とはちゃいますのん? って思うんです。
 ただ、ものによりけりで、そのあたりはリアルの事例と照らし合わせて考えちゃったりします。そのあたりは具体的な作品とセットでお話しますが、年少者がいるから減点とはしません。+1点分くらい。

◆エグみの除去

 年の差って結構センセーショナルなので、「キモっ」って言われがちです。創作なら楽しめてもリアルはちょっと……てなる方もいるくらいで、その辺塩梅が難しいですよね。なのでその「キモさ」をうまい具合に(※主に世界観や社会的な都合)で処理されていると適切に距離が取れていいなーっておもってます。+1点くらい。

冒頭技術点

 読者の興味を惹く、引っ張る牽引力を中心に、展開構成やキャラクターの紹介などが(その背景の匂わせ込で)達成できているかを問います。

作品完成度

 世界観・背景のしっくり来る感じを中心に、整合性などへの配慮があるかを見てます。性癖喰らえ系の話はやや辛くなる基準です。

趣味

 下心丸出しなのは個人的に苦手です。わりとそれだけかな。

感想一覧

01:お願い田中君!

 全体的にデフォルメ感の強いラブコメで、年の差カップルかというと疑問がありますが、言葉の勢いが強いのと状況設定がシュール過ぎて終始爆笑してました。

「長い付き合いだからわかると思うけど。あたしの許可なく発情しないで。あたしの許可なく身体に触れないで。あたしの許可なく成長しないで。あたしを怖がらせないで。だから、あたしは少年しか愛せないの。お願い田中君。人間という仕事をさせて。パパとママを安心させないといけないの」

本文・あらすじより ※太字は引用者

 太字が無茶すぎて草。

 ただ、親が娘の性癖を知っているというシュールな状況設定に対するサオリの反応がほぼフラットだったところが、天才という設定でむりやり理解しましたが人間心理としては非常に外れ値って感じがしますね。
 たぶんほかの方なら卒倒するか、勢いあまって尊属殺人を犯すところです(大げさ)。サオリさんの自制心と人並み外れた思考力の賜物と言えるでしょう。おや外の様子がおかしいな……

 年の差カップルとしてのエグみの除去は結果的にうまいのですが、年齢の差があまりないのと、基本的なライフステージが両者とも未婚独身者で「結婚をしなければならない」という年頃だったため、正直な話「年の差」概念への適合率は年齢差があったとてかなり弱いものになっています。数字は本文中でも明示してませんが、年長者としてのサオリが田中くんの幼少期に溺愛していたことを考えると7~9歳くらいは離れているとは思います。もしかしたらもっとかな。そんな感じでした。しかし外がうるさいな……ちょっと畑の様子を見てきますね。

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(ぺろッ……エグみはないが、しかしこれは養殖ショタ!)
冒頭技術点   :★★★★☆(続きもめちゃくちゃしてくれる期待感が強い)
作品完成度   :★★★★☆(まあ最初から無茶だからね☆)
趣味      :★★★★☆(こういうギャグコメディは好き)
◎合計     :14/20点

02:calmato e appassionato

 配信ではめちゃくちゃ舌かみましたが。
「カリモート・イ・アッパシオナート」と読むのが正解でしょうね。徐々に熱くなっていく、という音楽用語を借りたタイトルで、イタリア語風に読むとベストです。カリモゥート・イ・アッパシィオナァート!(阿部寛顔)

 簡単に言うと、女教師(ピアノの先生)と少年の純愛ストーリー、という感じでR15ギリギリくらいのガッツリ目でいってます。

 もうこの記事書いているのが投票期間終了後なので、作者様にはすでにお見せしたのですが、これって実話がいくつか例があるんですよね。もちろん(女性から少年への)性犯罪として検挙されてるから知られているんですが。
 特に有名なのは、アメリカの事例で「メアリー・ケイ・ルトーノー事件」として知られるそれです。わたしはどっかのテレビ特番で知りましたが、いくつか映画化もされていました。当時(2005,6年くらい)はわりと「禁断の純愛!」って肯定的にメディアで拡散されていたんですが、数年前に当事者の片方が亡くなったことで結構事情がそう簡単じゃねーよってなったみたいです。

 当事者の少年側はすでに別の方と再婚していますが、女性側は家庭事情の混乱やほか様々な事情から、決して対等な信頼しあえるパートナーという感じではなかった感じもします。もちろん女性側が一方的な加害者だったとも言い切れず、少年側もその辺の言動がいまいち整理しきれない感じもあったりと、やっぱりリアルの話をすると野暮ったくなりますね。
 ただ、まあ、わたし自身は実際の恋愛もラブロマンスみたいにそんなにベタベタ甘くねーと思っている側の人間なので、その辺の苦しかったり、ピュアに楽しめなかったりするところも含めて、事実として知っておくのは悪いことではないと思ってたりします。よく性的グルーミングと呼ばれ、生理的にも受け入れにくいケースのほうが多い上、基本たいがいが加害行為になるということも視野に入れて、なんですが、こういった極端な事例によってもつれた関係性って、リアルのぼくたちが他人事として素知らぬ顔ができるものではないだろうという気もしますしね。

 本筋とはだいぶ関係ない話が長引きましたが、こういう事例がある以上年の差カップルとしての本領はリアル度マシマシで「ある」という感じがするので、比較的高めに採点してます。

◆採点
年の差カップル点:★★★★☆(禁断の恋と読むべきか、それとも)
冒頭技術点   :★★★★☆(タイトルに反して最初からかっ飛ばしてるぅ!)
作品完成度   :★★★★★(余計な要素がないため純度は保証できる)
趣味      :★★★★☆(長編にするなら社会との対立があってほしい)
◎合計     :17/20点

03:部長の愛は重すぎる?!

 レディースコミック感が強いアラフォーと50代なかばのいけおぢのラブロマンス(?)。

 レディースコミックのラブロマとしてはかなり高得点なのですが、年の差カップルとして考慮したとき、実はクリアしてる要項が年齢差だけなのが驚きでした。
 なぜなら「ともに子どもが要らない(子育てのライフステージに乗る気がない)」「初婚かつ恋愛経験は豊富(離婚経験なし)」「ともに働き盛りでキャリア一直線」という共通項があまりに多く、いや、あえて多くしたからこそエグみが少ないのですが、結果として年の差カップルが持つ世代感覚・人生経験の差を超えた恋愛・コミュニケーションの要素が希薄になってしまってます。そこがいまいち減点対象になりました。話は面白いですし、わりと好きです。わたしキスコミ系の漫画が結構好きなので、『東京タラレバ娘』や『カカフカカ』『のだめカンタービレ』あたりはよく読んでます。そのフインキが好きですね。

◆採点
年の差カップル点:★★★☆☆(エグミなし、カップルよし、年の差は…)
冒頭技術点   :★★★★☆(順当にメロメロしてしまえ~)
作品完成度   :★★★★★(このまま読めるからいいね)
趣味      :★★★★★(キスコミ系好きなんスよ)
◎合計     :17/20点

04:白い結婚がバラ色に染まるまで〜30歳離れても愛してくれますか〜

 異世界恋愛ですが、異世界感は比較的薄く、ヴィクトリア朝時代の名残を持った20世紀序盤の(第一次世界大戦前後の)イギリスって感じがします。あいていに言うならアガサ・クリスティの小説のような世界です。
 しかし、その舞台設定がよかった。主人公は20歳で結婚を押し付けられるシンデレラ風ヒロイン(こういうのをドアマットって言うらしいですけどしっくりこないのでわたしはこう言います)が、退役軍人の50歳と形式的に結婚するという建付けが、合理的に! 違和感なく! 成立する!

 なによりカップル間のライフステージの落差が数段ずれているところが素晴らしくて、主人公側がまだ出会いを求めて継母の娘のドレスパクってパーティに出かけるくらいのいわば「若者」であるのに比較し、退役軍人ギルバートはすでに妻と死別しており、その妻を追悼したまま忘れられないという状態。いわば壮年期と老年期の中間くらいのフェーズに差し掛かっており、次の恋愛にいくことそれ自体が、彼自身の人生ドラマとして次のフェーズに向かうことにリンクしていくことが期待できるつくりとなっているわけです。
 結果的にわたしはこの作品を最上位に評価しているのですが、その根拠は上記のように「舞台設定が年の差のイレギュラーさを補填して無理をしていないところ」と「互いのライフステージにおける課題・障害が、(メインプロットである)相互の恋愛を通じて、次のステップにシフトアップすることができる」という物語構造の設計そのものを評価している感じです。もちろん長編として展開していくなら継母との関係をどう処理するか、などのサブプロットも充実していると嬉しいですが、冒頭時点でメインプロットの支度が出来上がっていることが最優秀に値する出来栄えだと言えるでしょう。

◆採点
年の差カップル点:★★★★★(年の差要項をすべて満たす)
冒頭技術点   :★★★★☆(メインプロットに必要な題材は揃ってる。やや引きが弱いが補えるレベル)
作品完成度   :★★★★★(期待できるドラマの下地が完璧)
趣味      :★★★★★(退役軍人の紳士好きですね)
◎合計     :19/20点

05:恋した人の奥様は、涙色をしている

 世界観的にはこちらもアガサ・クリスティの小説の中のような文明レベルって感じで違和感なく世界がつくられています。こういうのでいいんだよ、こういうので。
 配信でも語りましたが、三島由紀夫の『仮面の告白』と冒頭の作り方が似ていて、主人公が自身の出生を記憶していることからその頭脳の明晰さや思考力を持っていることを暗示する場面として作られています。わりと書籍で、かつ一般文芸(特に純文学系統の小説)を読んだ人の手口で、Web小説好きとどこまでマッチできるかは結構個人差が出ると思います(わたしはこういうののほうが好きです)。

 展開構成も、ラブロマンスでありながらサスペンスの作りになっていて、冒頭の末尾に物語の顛末を開示してから続く内容を展開していくつくりも、上手いのですが一般文芸よりの手法かなという気がします(繰り返しますが以下略)。感覚的にはエミリー・ブロンテの『嵐が丘』とかシャーロッテ・ブロンテ『ジェーン・エア』とかあっち系の空気感です。その辺のオーラを保ちながら話が進行したらいいなとは思ってます。
 年の差カップルとしての味わいについては、残念ながらいま与えられている情報ではなんとも言い切れないことが多く、諸要素が面白そうということで精一杯加点とします。

◆採点
年の差カップル点:★★★☆☆(まだふたりのキャラが掴めてないのでなんとも言えず)
冒頭技術点   :★★★★★(冒頭としてのサスペンスが上手い)
作品完成度   :★★★★★(文章と場面作りは上手い)
趣味      :★★★★★(わりと推せる)
◎合計     :18/20点

06:魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜

 この世界では魔女という存在は人外に当たるようです。ということは大枠では異類婚姻譚に当たるわけで、当然ながらこのことは「年の差カップル」として十分予想できる題材でした。
 人外と人間がカップルになる話は、まあ古今東西さまざまにあってオセアニアじゃあ常識なんですが(錯乱)、わたし個人的にこういう話を見て思うのは岡田麿里監督(脚本もやってるけど、監督ね)の『さよならの朝に約束の花をかざろう』ってファンタジーアニメ映画ですね。長命種の少女が男の子を拾って育てて……て筋の話で、美術がものすごく良く出来てます。気になるところがないわけじゃないですが、いい映画だと思ってるのでこの作者様には一回見てほしいかもと思ってたり。

 で、まあ本編ですよ。本編。

 ぶっちゃけプロローグ感が強いので総合評価としてあれこれ言うのは差し控えますが、良かったところと気になったところを1つずつ。

 良かったところは、それなりの独自世界観で話をしようとしているなってことですね。ふたりで最期を探す旅に出るというメインプロットに対して、その出かける先がナーロッパあるあるではさすがに死に場所としては味気ないという判断があったのではないかと思います。世界は驚きに満ちていて、愛するものと出かけるには広すぎて、時間が足りないというのはエモいので非常に好みです。
 一方気になったところは、ふたりのライフステージが一緒になったところからこのプロローグが完了してしまうことです。『さよ朝』は映画の尺に対して少し物足りないところがあるのですが、少年の成長や時間の経過とともに、長命種であるがゆえに成長が遅い主人公と少年の関係やライフステージがなかなか噛み合わないところに良い味があるのです。しかし、この作中のカップルは両者とも隠遁・隠棲のライフステージに到達してから旅立つので、その先をどう書くか、という結構でかい課題があります。まあ、フリーレンみたいな作品があるので無理だとは思いませんが、もうひとり養子っぽいキャラがいないとドラマが弱くなりそうでそこがやや減点でした。

◆採点
年の差カップル点:★★★☆☆(ライフステージが一致していて、カップルの起伏が少し弱い)
冒頭技術点   :★★★★☆(プロローグとしては納得)
作品完成度   :★★★★☆(プロローグの完成度高め)
趣味      :★★★★☆(割と好き)
◎合計     :15/20点

07:べネンシアドール〜その恋が合意に至るまで〜

 バーのマスターとそこに来た女の子とのラブラブ話。

 褒めるところ。お酒を淹れて、呑むまでのプロセス描写と擬音が独特な世界観をつくっていてとてもいい。
 気になる箇所というか、全体的な話をすると、ちょっと荒削りでキャラがまだ雰囲気でしか掴めてないところが難点。たぶん関係性とそこから出るカップル感を優先したがゆえの裏面なのですが、もうちょっとヒーロー、ヒロンがどんな人かなあって人物の背景が知りたかった感じです。

 雰囲気の話でいうのもへんな話ですが、全体的に匂いの描写が多いことが作品の良い雰囲気を作るのに活躍していてそこは好印象でした。
 この匂いのあたりを主要モチーフにして、心境の変化とかドラマと絡んでくるともっと演出的にも味わい深いものになる気がしました。気のせいかも知れません。ただ、もう一個気になることを言うなら、視覚描写、嗅覚描写、聴覚描写がバラバラかつ等分に配置されていて、もうちょっとどこかに重心を置いてもらったほうが作品を読む側の軸足が置きやすいかなーって思いました。思っただけです。

◆採点
年の差カップル点:★★★☆☆(キャラが知りたいので判断保留)
冒頭技術点   :★★★☆☆(ザ・プロローグ感)
作品完成度   :★★★☆☆(可もなく不可もなく)
趣味      :★★★★☆(匂いの描写がきれいだったからもっと尖らせてほしいかも)
◎合計     :12/20点

08: 『戦鬼』に仕掛ける甘い罠~訳アリですが、したたかですの~

 退役軍人系ヒーローで「04:白い結婚がバラ色に染まるまで」と基本骨子が同じですが、年の差カップルとしての要項は結構違います。最初に挙げた要件に対して、ちょいと厳しいのは「どちらも傷物(訳ありの行き遅れ)」という点の共通項ができてしまっていることで、もちろんラブコメ・ロマンス的なプロットの筋の提示はとても上手いのですが、年の差カップルに求めるライフステージの違いが、意図的に均されているのが欠点でもあります。
 また「戦鬼」などの二つ名を付けると、いや歴史上二つ名を持っている人物が多数いることはわかっていても、中二病感が出てくるので、果たしてそれが本筋に対してどれだけ必要な要素だったかが少し疑問だったりします。最近思ったのですが、異世界恋愛で世界設定の合理性がいまいち(乙女ゲーあるあるの貴族学校についてはいまだに考える余地がある)なのは不得意なんですが、同時に変に異世界感を出そうとしている作品についても焦点がぼやけるので純粋にOKとはいかないみたいです。気難しくてやんなっちゃいますね。個人的には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『さよならの朝に約束の花をかざろう』とかあっち寄りを意識する話の傾向なのかなーとは思いましたのでそっち系を期待したいところです。

◆採点
年の差カップル点:★★★☆☆(ライフステージの調整が逆効果)
冒頭技術点   :★★★★★(偽装夫婦感もあっていいね)
作品完成度   :★★★☆☆(妙にファンタジーらしさを出そうとしているのが逆に気になる)
趣味      :★★★☆☆(どのコンセプトで楽しむのか焦点がぼやけてしまう)
◎合計     :14/20点

09:辱められた母性的メイドが、お屋敷の坊っちゃまに溺愛されるまで

 タイトルと中身がめちゃくちゃ一致しているので、すんなり読めました。特にこれと言って話せることが少ないのですが(遊月さーん! をだれか呼んできて!)、それはそれとして、文章の作り方がわりと書籍を意識した段組みになっているところが興味深かったですね。
 年の差カップルになるにはまだまだ2波乱くらいありそうですが、タイトル通りの内容であることを考えると、「傷物になったメイドのトラウマ」と「一方的な粗雑な態度で愛情を示してしまうお坊ちゃま」が互いに惹かれ合い、恋愛をすることを通じてその互いの課題・障害をクリアしていくような筋になれば完璧かなと思います(おそらくそのためのギミックとして設えられているはず)。また、メイドを傷物にさせた元凶がお坊ちゃんの父というのも舞台設定としてなかなか味で、お坊ちゃんが父親(外側はトラウマを与えた張本人としての父、内側はその血を引いていて、かつ愛情表現が乏しく粗暴である自分自身)をどう乗り越えていくかというドラマとして筋が立つのでその点は料理の仕方でいくらでも美味しくなる素材です。趣味の問題がなければA票候補だったかも知れません。

◆採点
年の差カップル点:★★★★★(年の差、かつライフステージの差ができてる、ドラマ的にも美味しくなる予感)
冒頭技術点   :★★★★☆(これはノクターン行きでしょうか……)
作品完成度   :★★★☆☆(内容はよいけど視点がぶれてるのが気になる)
趣味      :★★☆☆☆(お坊ちゃんから漂うDV臭とNTR……)
◎合計     :16/20点

10:あなたを想い、巡り合った運命ならば……

 会話のテンポの良さとワチャワチャしている感じが二次創作でいうところのセリフの掛け合いで盛り上げていくムードで楽しかったです(小並感)。

 前世設定、悪かないのですが情報量多いのでこの手の企画に出ると毎回情報整理に時間がかかってしまいますね(^_^;)
 ただ、年下が年上を好きになる論理展開は納得力がありますし、たぶんこの手の話で一番臭みがない(「年の差……ぐえっ」てなる感じがないって意味)です。たぶん話の内容を終始彩っているワチャワチャ感がそのエグミを抜いているのでしょうね。

 求めている年の差カップル感からは結構距離がある(というか題材を直接書くのをためらっている)感じあるため企画としてはあまり評価はできないですが、こういう楽しい作品はあると企画全体が盛り上がって好きですw

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(ぷいきゅあがんばえー)
冒頭技術点   :★★★☆☆(ザ・プロローグ感)
作品完成度   :★★★★☆(キャラの関係性に納得力がある)
趣味      :★★★★☆(たのしいw)
◎合計     :13/20点

11:鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です

 設定はいちおう騎士ですけど、用語の使い方がBLEACHを連想してそっちのイメージに引っ張られます。
 全体的にも話の世界観に没入させない感じの軽さが目立ちます。地の文がおどけている感じといえばいいのか、とにかくそんな感じ。

 年の差カップル点としてはぶっちゃけただの溺愛カップルなのでなんとも言い難いものがあります。すでに結婚しているし、ラブラブなのでこれ以上の進展は見込めなさそうですね。強いて言うならふたりが今後警護していくと思しき侯爵令嬢エリザベス様との勘違いラブコメがあるくらいでしょう。
 ただ、冒険物語としては古典的な筋を貫いているので、ストーリー自体は面白そうです。三銃士っぽいというか。その点はエンタメ力高いので今後の展開には期待できそうですね。あと、王子が何番目かって、大事なのはわかりますけど目がすべりました。せっかく三人称で世界観の没入をせず、突き放しているのだからもっと端的にわかりやすく書いてしまってもいい。

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(ラブラブの既製品です!)
冒頭技術点   :★★★★★(冒険小説なら及第点)
作品完成度   :★★★☆☆(用語・地の文の統一感が少し足りない)
趣味      :★★★☆☆(プラマイゼロ)
◎合計     :13/20点

12:専属絵本作家の恋愛サポートがつらたん

 高1と小6から始まる恋(´∀`*)ウフフ

 本編は中3と大学1年生ですか……「四歳差の恋人と考えれば、ナシではないかなぁとは思うものの、中学生と大学生っていう字面を見るとなかなかにヤバい」と本文に書いてる通りで、やっぱり年の差ってライフステージによってヤバくなる年齢差が指数関数的に増えていきますよね。
 だって年少側が20なら相手が28でもまあまあ、本人が好きならいいんじゃない? ってなりますもんね。それが15と19ってなるとなぜか「ん?」ってなる。ふしぎなもんですが、社会的な肩書がそうさせるのでしょうね。

 さて、本題に戻ると。

 お話の筋が軽妙に年の差カップルのエグみを抜いて、おもしろおかしくスリリングに読ませる工夫でいっぱいです。
 しかぁし! ここには年の差カップルとして(個人的に)求めるオーダーが非常に弱く、かつ時間の経過とともに解消されていく(=両者とも20を超えれば何もイレギュラーでなくなる)という問題もあります。ラブコメとしては非常に秀逸なんですが、恋愛というアクションを通じて修斗と玲愛というメインカップルとなるふたりの人生の課題や障害が、ほとんど提示されていないため、恋愛そのものにドラマがありません。むしろそれを仲介する視点人物「わたし」の立場でどうやって母親からカップルを隠すか、というスニーキングミッション・ストーリーとなっているところも、うまくやったつもりだろうが警察の目はごまかせないぞ(ΦωΦ)

 結果「01:お願い田中君」とスタンスが似ていて、エンタメとしては最高だが、物語性と、企画のオーダーにはちょっと届かず、という印象でした。

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(うーん)
冒頭技術点   :★★★★★(お話の方向性の提示が滅茶苦茶上手い)
作品完成度   :★★★★★(筋とキャラとコンセプトが全部伝わる)
趣味      :★★★★☆(こういうラブコメは好きよw)
◎合計     :16/20点

13:くたびれA級冒険者は逃亡エルフを捕まえる

 ちゃんと読むとしっかり冒険ファンタジーでしたね。

 なんか2人で依頼をこなしながらもっと親密になっていくんだろうかって感じですが少し性急すぎた感じもするのです。ただ、最初はどうでもいいと思っていた存在がひと目についた途端に自分のものにしたいという欲求が生まれてくるというのも男性心理的にはありかなあって思うので、今後の展開次第かなという気がします。
 年の差カップル感としては、せっかくのエルフ(長命種)との差がうまく出ていなかったことがあり、そこは減点。この世界のエルフの60代が思春期なのか青年期なのかでも結構印象違いますからね。『狼と香辛料』のホロは子供っぽいですが賢狼の二つ名の通り、ロレンスにはない深謀遠慮があります。そのあたりを演出込みで出していければ年の差カップル票も固いかなーと思ってます。

 ナーロッパといえばナーロッパですが、同時にモンスターハンターみたいな世界観なので冒険ファンタジーとしての面白みは一定の整合性を持っていて面白そうでした。ので、年の差カップル以外の要素が高評価という結論になってしまっております。

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(年の差はあるけどなあ)
冒頭技術点   :★★★★☆(メイン2キャラがちゃんと立ってる)
作品完成度   :★★★★☆(冒険ファンタジーとしては結構面白い)
趣味      :★★★★★(こういうファンタジーは読みたい)
◎合計     :15/20点

14:竜人令嬢は御狐様に呪われる。

 あ、あ、壮大なファンタジーなのに冒頭に誤字が……

 面白いといえば面白いですが、ファンタジー設定の整合性崩れが気になります。校舎裏……? 缶蹴り……? 消しゴム……?
 狐の名前が「狐李丸」だったのでもう考えるのをやめました。
 完全にヘキを喰らえ型の作品ですね。
 しかしなんでだろ。異種族たくさんいる世界観だと筆箱と消しゴムと缶蹴りが出た途端に異世界感がなくなるんだよね。世界7つの不思議。

 ということでこれは異世界ではなく「ヘキのごった煮」ということで評価をせざるを得ないのですが、こうなると菩薩のような広い心で、「汝の隣人を愛せよ」と唱えないといけなくなります。ついでに「神の名(おのれの創作信念)を妄りに語ってはならない」ので、徒手空拳のわれとしてはだるまさんになるしかありません。
 とりあえずそっちはそっちで置いておきましょう。年の差カップルとしての概念についてです。しかし16と40は人間基準でしかないので、今回竜人とバケ狐というカップリングで、かつメンタリティがめちゃくちゃ人間なのでさあどうなる?! って感じです。こんなカップリングはブリタニカ百科事典にだって載ってないんだぞ!(涙目)

 ということで好きな人はお楽しみください! おわり!

◆採点
年の差カップル点:★★☆☆☆(ちょっとだけマジレスすると「年の差」によるズレをどこまで楽しめるかなって気がしたのでやや低め)
冒頭技術点   :★★★☆☆(渋滞してても読めるからすごい)
作品完成度   :★★☆☆☆(ヘキと設定が渋滞している)
趣味      :★★☆☆☆(ごめんやっぱり気になっちゃうw)
◎合計     :9/20点

総括

分類

 今回の作品14作品だと少々サンプリングとしては弱いですが、とりあえずカンで分類するとこんな感じ。

①異世界or現代

◆現代(6作品)
お願い田中君!
calmato e appassionato
部長の愛は重すぎる?!
べネンシアドール〜その恋が合意に至るまで〜
あなたを想い、巡り合った運命ならば……
専属絵本作家の恋愛サポートがつらたん

◆異世界(8作品)
白い結婚がバラ色に染まるまで〜30歳離れても愛してくれますか〜
恋した人の奥様は、涙色をしている
魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜
『戦鬼』に仕掛ける甘い罠~訳アリですが、したたかですの~
辱められた母性的メイドが、お屋敷の坊っちゃまに溺愛されるまで
鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です
くたびれA級冒険者は逃亡エルフを捕まえる
竜人令嬢は御狐様に呪われる。

②文章表現のレイヤー

◆ラノベ調
お願い田中君!
部長の愛は重すぎる?!
魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜
べネンシアドール〜その恋が合意に至るまで〜
『戦鬼』に仕掛ける甘い罠~訳アリですが、したたかですの~
あなたを想い、巡り合った運命ならば……
鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です
専属絵本作家の恋愛サポートがつらたん
くたびれA級冒険者は逃亡エルフを捕まえる
竜人令嬢は御狐様に呪われる。

◆一般文芸調
calmato e appassionato
白い結婚がバラ色に染まるまで〜30歳離れても愛してくれますか〜
恋した人の奥様は、涙色をしている
辱められた母性的メイドが、お屋敷の坊っちゃまに溺愛されるまで

③サブジャンルをつけるなら

◆ラブコメ
お願い田中君!
あなたを想い、巡り合った運命ならば……
部長の愛は重すぎる?!
専属絵本作家の恋愛サポートがつらたん
『戦鬼』に仕掛ける甘い罠~訳アリですが、したたかですの~

◆乙女ゲー世界観(たぶん)
竜人令嬢は御狐様に呪われる。

◆冒険ファンタジー
鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です
くたびれA級冒険者は逃亡エルフを捕まえる

◆ラブロマンス
魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜
べネンシアドール〜その恋が合意に至るまで〜
calmato e appassionato
白い結婚がバラ色に染まるまで〜30歳離れても愛してくれますか〜
辱められた母性的メイドが、お屋敷の坊っちゃまに溺愛されるまで

分析

冒頭部分のみで提示された情報をもとに、妄想込みで分析したプロットはこちら。

◆ラブによるコメディ
お願い田中君!
あなたを想い、巡り合った運命ならば……
べネンシアドール〜その恋が合意に至るまで〜
部長の愛は重すぎる?!

◆恋愛が中心軸で恋愛がドラマを構成している
calmato e appassionato
白い結婚がバラ色に染まるまで〜30歳離れても愛してくれますか〜
魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜
辱められた母性的メイドが、お屋敷の坊っちゃまに溺愛されるまで

◆サスペンス(特定二者による駆け引きの要素が強い)
恋した人の奥様は、涙色をしている
専属絵本作家の恋愛サポートがつらたん
『戦鬼』に仕掛ける甘い罠~訳アリですが、したたかですの~

◆わたしのヘキを喰らえ型
竜人令嬢は御狐様に呪われる。

◆冒険ファンタジー
鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です
くたびれA級冒険者は逃亡エルフを捕まえる

結論というか

 まあ、もうだいたい言いたいことは本感想のほうで言ったのですが総括的な事をいいますと。

 年の差カップル企画、と訊いてまず期待するのはやっぱり「恋愛」だよね、て話ですね。
 で、恋愛ドラマの王道って現代でいうとメイン登場人物(別に同性愛だろうと異性愛だろうと関係なく)二者の関係性をどうやって構築し、どう人間関係(好きとか嫌いだけでなく、他者との向き合い方・信頼関係を含め)を育んでいくのかという点に焦点を絞ったもののほうが純度が高いんです。

 で、今回投票結果を見ると、特に上位3作品は、その傾向がはっきり出たなーって感じでした。
 もちろん投票したマジョリティの好みの問題があるので、必ずしもあれだこれだって話ではないんですけど、やっぱり恋愛によるドラマの発生や恋愛を通じたストーリーの展開に対して、強い求心力が発生するよね、というのが今回大きな気づきでした。

 次いで多いのが、やはりといえばいいのか、ラブコメです。

 ラブコメとラブロマンス(恋愛小説)について、人によって定義がさまざまだとは思うのですが、本記事内では意識的に分けていて。
 ラブコメは「恋愛という事象を中心に置いて筋が展開し、感情がすれ違ったり、一方的な愛情を甘受するという状況を笑いながら見る(ハッピーになるために見る)」というスタンスを守っているものを指します。一方でラブロマンス(恋愛小説)は「恋愛によってメイン登場人物の深刻な、特に人生の根幹に関わる課題や障害を克服したり解決したりする方向に話を展開していくもの(物語としての本筋の骨子の太さ)」を指してます。もちろん分けていると言っても、重複することも多々あるので暫定的な分け方ですが。

 今回はラブロマンスとラブコメに振り切ったものが両方とも高く評価されていましたね。かつ、年の差の要項をうまく満たしている状態が最上位だったので納得の出来かなと思います。

 年の差については、もうこれ最初にわかっていたらわたしも参加してたんですが、よりによってこの記事を書き始めたころに気づいたので参加しそこねました。かなしい。
 こと年の差カップルを物語にするにあたっては、人生のライフステージの違いが恋愛関係の構築の最大の障壁になるようにするのが一番スマートだと気づいたのは今更でしたが、いい発見でした。思えば私が「年の差カップル」と思う作品について、まず思いついたのが『ロングバケーション』というドラマなんですが、これは「若さを武器にできなくなったけど気持ちは若くいたい30代女性」と「まだ若いんだけど才能が発揮できず自分を開放できない大学院生」という二人が互いの交流を通じて互いの人生の課題・障害をクリアしていくドラマだったなあと気付いたわけです。

 同様に『逃げるは恥だが役に立つ』も、30代独身童貞の津崎平匡と、20代前半で働き口のない頭の良い女性みくりが互いの日常の問題を一時的にしのぐために契約結婚をするというのも、互いのライフステージ独自の悩みが錯綜して面白くなっているわけで。
 結構、考えてみるものだな、と思いました。まる

 さて、次やるなら「#匿名短編元サヤ企画」だそうで、もしかすると今度は作品参加するかも知れません。ではでは、またよろしく~!


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