21.01.06 すっごく悔しいんだけど、まずは自分の過去作を紹介することにした。(コンテンツ語り第1回:名刺がわりの作品紹介)
こんばんは。八雲 辰毘古です。ふだんは『小説家になろう』で創作しているアマチュア創作者でございます。
こちらでは創作物を提供しているわけではありませんが、創作の過程で得た知識や発見を提供するエントリを、週3回(月・水・金)、17:00〜20:00の間で投稿しております。
……と言いたいところだったんですが、今回は僕(八雲 辰毘古)の過去作をご紹介いたします。
導入部.正直やりたくはない
理由はすごく簡単で、読む側にとっても自作自演臭がするから。
作品のPRなんて何をどこまでやったとしても、「面白いから読んで!」と言うゴールに向かったプレゼンテーションと同義です。
それを自分でやることはなんとも言えない感じが……そう、照れが入ってしまうのですよね。本音を言えば、読者の方からツイートなりなんなりで、それぞれの視点・切り口から紹介してもらった方が「面白そう」に決まっているんですよ!
それでもなおあえて過去作紹介を自分でやるのは、自己紹介をするよりはましだと思ったからです。自分語りがいつでもどこでもできるほど僕は器用ではないので、過去に書いた作品を紹介することで、noteでこうして文章をアップしている自分が何者で、どういうことをやっているかをわかりやすく伝えようかと思っています。
この辺り、ビジネスパーソン的には名刺を渡して事業説明するようなものだと思ってもらえば大丈夫です。
今回紹介するのは、名刺がわりに自選した掌編・短編3作品です。
どれも小粒ですが多くの読者に読まれ、支持をいただいたものです。レビューや感想の数、評価点の総数が(他の自作と比較して)多いことから、初対面の人に読んでもらいやすいものを選んでおります。
ちなみに過去に投稿し、2021年01月現在もアクセス可能な作品は合計32作品。そのうち8つは構想だけが先行して自主的に打ち切りにし、3つはWeb読者向けの合作企画、5つはエッセイというもので純粋な意味での作品ではないです。そういう意味では、純粋に”作品”と呼べるものは現在16個。うち現行連載を除く有力な過去作を紹介するわけです。
名刺がわりの3選.みんなそこそこ手軽に読めるお話
幼年期の記憶とその離別を綴る:掌編『フェアリィ・チャイルド』
今のところ僕が『小説家になろう』でもっとも成功した作品と言っても良いでしょう。2016年3月25日に掲載し、2021年1月6日に至る現在まで、感想12件、レビュー8件、ブックマーク153件、総合評価が1,322ptと言うもの。サイトの日間ジャンル別ランキングに載ったこともありますが、主流のランカーには敵いませんでした。
ジャンルとしては「純文学」と銘打っていますが、幻想小説に近いかもしれません。平易で読みやすい文章を意識してますが、Web小説文体ではなく、文芸誌や書籍に慣れた人が「読みやすい」と感じる文体で構成されています(このnoteで書いているような書き方ですね)。
もともとは大学時代の文芸部の新歓パンフレットに寄稿したものです。そのため最初からページ数の制約があり、その枠の中で完結する小説を書きました。
お話は単純で、親に虐げられた子供が成人式で大人になるまでを、回想していくというもの。マンション住まいの「ぼく」は、ある日隣に引っ越してきた同い年ぐらいの「彼」と、親同士のあいさつの場で出会います。それからしばらく遊んでいるうちに、「彼」も心を開いてくれたのか、ある秘密をささやいてくれるのです。
おれたち、実は妖精の子供なんだよ、と。
妖精の取り替えっこ(チェンジリング)と言う伝承があります。妖精族の子供と人間族の子供が入れ替わり、それがために本来あるのとは全く異なる生き方を強いられる運命にある子供のことを指しています。
作中の「ぼく」は、親から暴力を受ける存在です。そして、「彼」もまた同じ立場の存在でした。それぞれ、親の元に生まれ落ちたのは何かの間違いだとしか思えないような辛い環境です。そこからの逃避として、自分を満たす場所としての妖精の国を夢想するようになるわけです。
きっと誰にもあるでしょう、ここではない《どこか》へ往きたい、または《あそこ》に還りたい、という無性な願い、渇望のようなものが。
それが結局なんなのかはわからない。日常や社会の枠組みの中では無性に息苦しくて、このまま我慢しているうちに精神の根っこまで腐ってしまうような閉塞感。諦めにも似たネガティブな感情の沈殿と、それでもこのままではいけない、違う場所に向かいたいとあらがう気持ちとの葛藤が、言ってしまえばこの作品の根本にあるテーマです。
作中では妖精の国と、その住民としての妖精の子供(フェアリィ・チャイルド)としてそれを書いています。ふたりの名前もなき少年が、往きたいと願い、還れると信じ合った軌跡と衝突とを、淡々と回顧録のように描いておりますね。
物語の最後で、二人の少年は別々の道を歩みます。どっちがどういう道を選ぶのかはぜひ読んでご確認してみてください。
読了可能時間:15分弱(1分500文字の換算。作品文字数は7,259文字)
『フェアリィ・チャイルド』
https://ncode.syosetu.com/n1861df/
文芸少年少女のもどかし青春譚:『恋愛小説の読み方』
さて、2つ目は紹介作品中もっとも長い作品。36,363文字の短期連載作品で、冊子にすると短編レベルのお話ですが、Web小説的には中編に分類されるような気がします。
2018年3月10日に掲載し、2018年4月1日に完結。2021年1月6日現在では、感想2件、レビュー2件、ブックマーク51件、総合評価が256ptですね。こちらはランキングなどに載っていませんが、連載当時Twitterでの評判が非常によかったので印象深い作品です。
青春小説の要素を持っていますが、作品のキーワード(動画検索時のタグのようなもの)に「何も起こらない」「よくわからない」「雰囲気だけ」「あとは察しろ」と書いている時点でどんな話かはもうお分かりだと思いたいですね。
こちらもあらすじらしいあらすじを書くのが難しい。簡単に言ってしまえば文芸部で腐っている高校生の「ぼく=奥村一生(おくむら・かずき)」がある日「創作資料を紹介してくれ」とやってきた見ず知らずの「後輩女子=茅野志保(かやの・しほ)」と出会い、勘違いとか昔の失恋話とかを回想しながらうだうだ大学受験を迎えるというものです。
全くもってイライラしますね(笑)。
まだ『新世紀エヴァンゲリオン』の内面描写の方が観れるのではないか、というくらいにうだうだしながら、等身大のお悩みを描写していくお話ですね。ジャンルとしては「ヒューマンドラマ(文芸)」ですが、読者の感想からは「もだもだ」と言う愛称で親しまれています。
この作品は、実は川上未映子の本を(確か『ヘヴン』とか『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』とか)を読みながら、その長回しの文体を導入しながら書いた思い出があります。内容は別物だけど。
作中冒頭で読んでいた「恋愛小説」というのはまた別物なんですが、この作品ではタイトル通り「恋愛小説」とどう主人公が向き合っていくのかがドラマの中心です。とにかく主人公が「自分たちはこれからどうなるんだろう」という漠然とした不安、それを分かち合いたくて持て余した気持ちとか、フィクションに傾倒したオタク的な自叙伝というか、いろんなものをぶちまけるのでそこを楽しむ小説ですね。
表現と創作の哲学っぽいことも語ってます。自己投影というわけではないのだけど(当たり前ですけどキャラクターや場面設定、セリフは現実の出来事とは関係ないものです)、それでも自分が思っていることや漠然と表現したいことのコアな要素を書いたものだな、という思い入れはあります。
悩みが多い人には、読んで共感してもらえたりするかもしれませんね。今読むと笑うべきポイントはないのに微笑ましくて、定期的に爆笑しますね。最後は少しだけ元気になります。バッドエンドは基本書かないんです。
読了可能時間:73分程度(1分500文字の換算。作品文字数は36,363文字、ただし連載のため各話は5分程度で読めます)
『恋愛小説の読み方』
https://ncode.syosetu.com/n9232ep/
人工少女の告白小説:『虚飾された肉体』
では、最後にして一番古い小説を紹介します。これは高校生の時に書いた作品で、一回削除したものをリバイバルして再投稿しました。
2014年8月3日に投稿(元になった作品は2013年の12月に投稿していますが、原稿が消えたので復元不可能です)。単発の短編ですが、21,771文字もあり、一気読みにはボリュームがありすぎます。おまけに後述の理由で非常に読みにくい文章をしている。粗さが目立つのですが、実績があるので名刺として看板にしております。
2021年1月6日現在では、感想4件、レビュー2件、ブックマーク92件、総合評価が472ptですね。
お話は非常にシンプル。自我を持ったアンドロイドと、それを追いかけるバウンティハンターとの追っかけっこ。
ハイ、『ブレードランナー』ですね。まんまやん! て感想欄でも書かれているのですが、素直に認めます。ついでにいうと小島秀夫監督のゲーム『スナッチャー』の要素もあります。あえて弁明するとすれば、これはアンドロイド目線で書かれた告白小説であり、自我に芽生えた瞬間に(作られた身体への)自己嫌悪や倦怠に囚われるという心理を追いかけた、ということをオリジナリティとさせてください。
ジャンルは「純文学」です。いかにもSFっぽいんですが、そっちジャンルとしてみた時、出来は今三つぐらいです。少なくとも個人的には。
というか今読み直してみると、小っ恥ずかしくて仕方ないです。言いたいことはわかるが安直すぎだろ! とか思わなくもないし。所々『ブレードランナー』はじめ、昔読んだSF小説(伊藤計劃の『ハーモニー』とか、あの文体めちゃくちゃ憧れたんです)や映画、ゲーム、時々ボカロ曲の歌詞(『ロストワンの号哭』とか、めっちゃ聴いてたなあ)のモチーフを借りまくって自我とは、オリジナリティとは、みたいな押井守映画みたいな話をしているわけです。矛盾も甚だしい。おまけにタイトルは当時ハマっていた三島由紀夫の『仮面の告白』のパロディです。厨二病!!!
もっとも、この作品自体が人工的な身体なのです。寄せ集めの、悪趣味なパーツを組み合わせて作られた自己矛盾に、葛藤し、それが自分なんじゃない、もっと外に向かって意欲的に取り組めるものこそが自分なんだ、と願うような気持ちが全体的に迸っている気がしますね。ああ恥ずかしい。穴があったら入りたい。
補足説明。先ほど「実績」と書いたのは、この作品、アマチュア創作企画のコンテストで入賞したものなんですよ。3位銅賞。現在は「Overidea/オーバーライディア」というアーティストグループの監修・原作担当のキョウカさんが主催したコンテストで、審査員に『なろう』出身のプロ作家さんや読み専ユーザーが結集して最終審査をしてくださっています。
一応、証拠ではないですが、リンクを掲載。
ついでに当時競っていた最終選考相手の作品一覧もどうぞ。
(※最終審査候補作の中には現在早川書房で書籍化している作品もあります……!)
ちなみに、銅賞景品として、りしっつぁさんからイラストをいただいております。箔が付くのでこちらも掲載しておきます。
読了可能時間:45分弱(1分500文字の換算。作品文字数は21,771文字)
『虚飾された肉体』
https://ncode.syosetu.com/n6175cf/
終わりに.Web小説書きのサバイバル 〜過去作には絶対に負けたくない!〜
ということで、めちゃくちゃ字数かかりましたけど、過去作の紹介を終わりました。
最後なんてとうとう自作をdisり始めましたけど、ほんとに過去作とか自作の解説って嫌なんです。できるけど、そんなの作品を楽しむ側としては興醒めじゃないですか。時代を経て今っぽくなくなった作品や、世間で評価されていない傑作があったら解説も必要ですが、僕の作品は別の誰かがやってほしいです。自分で自分の作品を説明するって……一から十まで最初から説明できるなら作品なんて書いてないんですよッ!
おまけに書いている時はそこまで自覚的ではありませんでした。無意識に、没頭して、夢中になって書いています。それを後になって振り返れば、幼稚園児の軽率な「〜ちゃんのお嫁さんになる」発言とか、小学生の時の文集「将来の夢」コーナーを読んでいる時の苛立ちってものがあるんです。読んで無邪気に楽しんでくれた読者の方には申し訳ないんですが、創作者は常に最新作とその動向に全力を注ぎたいわけなんです。
最大のライバルは自分自身、過去の名作・傑作、という感じです。悶々としながら創作してます。
とはいえ、現実逃避的にnoteでお役立ち情報ばかり書いていても、それはそれで自己欺瞞的で自分にムカっ腹が立ちます。なので自分の原点や創作衝動を言語化し、一応自分は創作者なんだぞ、と言い聞かせるつもりで書きました。二度目をやるかどうかはわからん!
八雲辰毘古のnoteでは、毎週3回(月・水・金)、17:00〜20:00の間で皆さんの役に立つ読書情報や、娯楽作品を深く楽しむ思考法、日常生活の視野を拡げる雑学的な考察を提供しております。なるべく2,000〜3,000文字の簡潔な分量を心がけていますが、もう今年のエントリは文字数平均が5,500文字なんですよね。この制約は取っ払ってしまおうかと思い始めてます。
良かった! と感じた読者の方は、スキボタンの押下やコメント投稿などいただけると励みになります。「勉強になります!」とかひと言でも嬉しいですので、ぜひぜひお願いします。
今回も有料なしです。次回をお楽しみに。
▼以下、自作プロモーション▼
『小説家になろう』サイトにて、
ファンタジー冒険小説を連載してます。
双子の主人公、消えた父親とその記憶。
魔女狩りの絶えない社会、
魔物が現れ、暗雲垂れ込める世界情勢。
そして、隠された両親の秘密。
近さと疎ましさの錯綜する関係性。
世界混乱の理由は、
人々が見落としてきた"あるもの"の中に。
──これは、失われたものを取り戻す物語。
※タイトルロゴは蒼原悠さま(@AzureFlag373813)に作成いただきました。
本日最新話の更新を行う予定です。魔術修行する双子の姉弟(きょうだい)と、揺れ動く世の中の様子、そして物語の大きな転機が訪れます。