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24.9.22 #匿名男女バディ短編企画 再読感想会

 こんにちは。こないだ誕生日を迎えた八雲です。
 天気が不安定なせいか、体調も揺れ動いてますが、元気にやっております。胃腸が弱いので最近おかゆ、もしくは芋のスープばっかり食べてる気がしますが美味しいので万事OKです。


企画概要

 下記を参照してください。

https://ncode.syosetu.com/n9720jm/1/

 簡単にいうと、「恋愛感情を持っていない男女のバディ」をレギュレーションとした3,000〜5,000字の短編小説企画です。

 八雲も参加してます! 八雲は企画界隈ではラブコメや切ない恋をよく書いてますが、本当の本音を言うと恋愛感情のない対等な人間関係の方が大好きですし、そっちの方が書きやすいですw

 今回は狂愛と異なり、一通り読んではいます。再読での分析です。
 Xでは比較的ポジティブな感想にしてますが、こちらでは投票先を決めるなどの都合から少しシビアな内容になると思います(とはいえ、全作品楽しんだことは嘘ではないので「なんかそういう見方もあるんだなー」くらいにしておいてください)。

作品の初読感想(X(Twitter)参照)

評価基準など(20点満点5段階評価)

 さて、と言うことで今回は男女バディ、ちゃんとやってるよね? てことを軸に複数の要素を見て、わたしがどれにどういう基準で投票したかを明記します。
 下記5つの観点で評価しますが、原則20点満点で行います。よろしくお願いします!

バディ性

 バディ論は古今東西いろんな方が論じているので、あんまり小難しいことはそっちに任せますが、個人的に「バディ」と聞くとこう言うものを前提にします、ってことを列挙すると、下記の通りです。

①2人で1組のチームユニットである
 何を今更と思われますが、結構大事なことです。二人を支える支援メンバーがいても構いませんが、原則二人で事件(イベント)に直面し、二人でストーリーの駆動を担わんといけません。余計な第三者との絡みが増えれば増えるほど、バディの密度は発散するので、そのバランスが取れていないとバディものではなく群像劇になってしまう懸念があります。
 有名どころは『シティーハンター』や『バッドボーイズ』、小説だと古典的に『シャーロック・ホームズ』のように、片方が欠けていてはどうにもならん感じが出ていることが肝要です。

②バディは継続的に複数の事件(イベント)に直面し、解決に臨む必要がある
 意外と見落とされがちな観点で、バディはバディとして複数の事件を担当する必要があります。今回の企画は短編ですので、結成譚であっても構いませんが、とはいえ今後”複数の”(つまり特色が異なる他の様々な)事件(イベント)に臨むのかどうかは大切。いつか別れてしまうんだろうな、とか、その場限りの利害の一致、または単一の長期のプロジェクト(目的)へ向かう同僚という位置付けで用いられるタッグの組み方はバディとしてはあまり評価はしません。
例:タッグで事件解決を図るお話だったとしても映画『ラストマイル』の舟渡エレナ(満島ひかり)と梨本孔(岡田将生)はバディではない。
 逆に『MIU404』の伊吹藍(綾野剛)と志麻一未(星野源)は紛れもなくバディである。

③相互の長所と短所が相補関係・相剋関係にあること
 よくボケ・ツッコミ、凹凸コンビなどと呼ばれますが、バディもので重要なのはこの互いの人間の特徴(特に長所・短所)が互いに相乗効果を生むものであることです。これは言い換えると対等な人間関係の構築、という意味にもなります。ホームズは常にワトソンを小馬鹿にしますが、ワトソンがいないとホームズは成り立たない、この塩梅。牧村香がいないと冴羽獠が面白くならない、この凹凸。もっこりちゃん。これを演出する手法は多数ありますが、一番目立つのは会話のテンポの速さ、リズム感のよさでしょう。
 あまりメジャーではありませんが、ムロツヨシ・平手友梨奈主演のドラマ『うちの弁護士は手がかかる』では、元芸能マネージャーで対人折衝に長けている蔵前勉(ムロツヨシ)と、法曹知識がめちゃくちゃあるのに対人関係や常識感が絶望的に薄い天野杏(平手友梨奈)が互いの能力の不足分が原因で話がドタバタし、それらを長所で補い合うことでドラマが好転します。要所要所では互いの得意分野を了解し、分業することで事件を解決することになるため、非常にバディとしての安心感が高いです。短編だと字数が足りないので、自然と作劇や会話で魅せることが多くならざるを得ません。

④上位評価:肝心なところではちゃんと息が合うこと
 互いが苦手・得意をテトリスみたいに埋め合うだけではバディものの快感は若干薄いので、それでも根底は一緒、みたいなのがいいんですよね。

⑤上位評価:バディの関係性そのものがドラマの縦軸であること
 最高評価の軸は、バディの人間関係の揺らぎがそのままメインストーリーの起伏に影響することです。『MIU404』はその点、優れたバディものでした。二人のドラマの盛り上がりは二人の距離感が遠かったり、近づいていくことで緩急がついていて、最終回ではその息の合い方がピークに達します。
 で、それでいて話が終わるとまた「ふざけんなよ、めんどくせーな」とか言ってるあたりがいいんですよw

男女感

 今回は「恋愛感情を持たない男女」というレギュレーションがあるのでその観点で評価します。詳しいレイヤーはバディ性と重なるので繰り返しませんが、この観点で重要視しているのは「あえて性別を分けていることで面白くなっているか」「変に性別の固定観念でキャラを組んでいないか(キャラの自然さ)」「極端な上下関係になっていないか」「恋愛感情に発展しないための工夫で、ドラマ的に有意義なものになっているか(逆にいうと企画を通すための一発ネタでないか)」が、上位評価の基準です。
(※一発アイデア自体が悪いわけではないのですが、上記のバディ性の評価観点である「継続して複数の事件を解決する関係性かどうか」が一発アイデアものだと崩れてしまうので、今回は減点要素になります)

作品性

 技術点です。主に文体や演出、構成で評価してます。

趣味

 筆者の趣味です。世界観設定やムードの作り方が凝ってるなあと思えるやつは肩入れしてしまいます。

欄外評価(自由採点)

 ギャグ作品など、趣味ではないけどツボったポイントを評価します。これはシンプルにツボった数で換算するので救済票だと思ってくださいw

作品の再読感想(タイトルにリンク埋め込んでます)

01:バディ感の無い相方

初読感想

再読時感想(やや辛口)

 バディの観点で言うと、「二人で複数のイベント(舞台に立つ)に臨む」っていう基本条件的なところが達成してある、と言う感じと、二人の関係性がつかず離れずしていることによってドラマの縦軸が組まれていることが評価点と言う感じ。
 ただ、この小説に関してはちょっと不満もありました。
 まずバディを組む動機が完全に相方(女)側の気分に一任してあって、バディ独特の凹凸感というか、互いの長所/短所を相補・相剋している感じがしなかった、ということ。相方のわがままな感性に振り回されている”だけ”だと、ラノベのわがままヒロインに振り回されるやれやれ系の主人公になってしまうのでそこがやや減点でした。同じ男女でも、恋愛になってしまうのですが『とらドラ』なんかは当初互いの恋愛を成就させるために互いにしかない感性や観点で応援し合う相補性とかあったので、その辺が物足りなかったんだろうなと自己分析してます。

 あと、ちょっとこれいうとカドが立つんですが、肝心の漫才があまり面白そうに見えなかったのも致命的です。小説で面白く魅せることは、実際の漫才を面白くすることとは全く別物なので、なんとか脳内補正で読んでいましたが、あの空気感(笑いの間の取り方)を文章におろしてこないと、このやぶれかぶれなんだけど優勝した漫才コンビ、という感じにならないのが残念なところでした。単にこれは技術点の話なので、難しいですよね。
 ただ、変な話、私にはバディでいう”漫才”という観点が抜け落ちていたのでそれで挑んだことはアイデア的にはさすがだな、という気がします。ちなみに男女ペアで記憶に残っているコンビは南海キャンディーズですね。日本漫才界はかなり男社会なので、男女ペアで勝ち上がること自体は結構むずいような気がします。女女だとハリセンボンとかもありますし、女性のピン芸人でも結構立っている人いるんで、あえてコンビでなくても? という知識的なはてなもありました。

▼評価
バディ性  :★★★☆☆(最低限バディの条件を満たすかも、くらい)
男女感   :★★☆☆☆(男女で組むドラマ的意味が薄味)
作品性   :★★☆☆☆(漫才が面白そうではなかった)
趣味    :★☆☆☆☆(キャラが先行してるけど好みではなく)
欄外評価  :+2(アイデアは良かった)
総合評価 :10点 / 20点中

02:スターマイン~いずれ芥になる日まで~

初読感想

再読時感想

 改めて再読すると作者の『シティーハンター』好きが見え隠れして面白いです。掃除屋と書いてスイーパーと読ませたり、連合(ユニオン)だったり、で。
 あと今気づいたけど、始終舞台は地上でしたね。筆者の目が節穴でしたすみません。。。

 バディものとしてみると、人間とAIの組み合わせはアシモフの『鋼鉄都市』からこのかた、オセアニアじゃあ常識なんだよ!!
 繰り返しになっちゃいますが、茅田砂胡さんの『スカーレット・ウィザード』におけるケリーとダイアナのコンビを思わせる楽しさもありました。あの作品はケリーを中心にミリーとダイアナの二つのバディが見れるのでずるい作品ですよね。

 おっと脱線。話は至って普通のSFチックな冒険小説といったところで、グレイスとおれの二人のノリの良い(けどちょっとテンポが悪い苦笑)会話で進むお話の進め方が、いかにもバディものという感じで素晴らしいです。
 ちょっとだけ物足りなさを言えば、人間とAIがドラマの縦軸になっていないところですが、まあ題材を思うと物足りないというだけで減点にはならないと思います。男女云々で言うとAIなのでなんともですが、悪役令嬢をインストールしてるので多分大丈夫でしょう(評価ザル仕様)。

 あえて流血シーンを会話で端折るところはセンスを感じましたが、お話として見たときにシチュエーションが先行していて、小説としての背骨がちょっと弱かった(キャラクターをめぐる噂とせりふの掛け合いだけでストーリーを組んでる感じ。背景となる人物相関図や事件のあらましの掘り下げの弱さがある)気がするので、そこがイマイチ自分の中では曖昧な評価になってます。

▼評価
バディ性  :★★★★☆(ドラマの縦軸になってないだけでバディ感はある)
男女感   :★★★☆☆(厳密には女じゃないけど、気にならんかった)
作品性   :★★☆☆☆(シチュエーションありきで掘り下げ不足)
趣味    :★★★★☆(キャラクターものとして好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :13点 / 20点中

03:愛の戦士 アブノーマルズ-爆誕編-

初読感想

再読時感想

 端的に言うと好みではないです笑

 ただ、この発想というか、この筋書きで最後まで頭のネジを外して貫いてくれたことは素晴らしいですし、私では思いついてもできないことなので、そこは本当に尊敬します。企画はこのぐらい変なやつを書いていい場所なんですよ!
 一応バディものとしての観点で評価すると、正直なところこれはバディではなく同僚なのでは、という気がします。互いに信頼をしているだけではぶっちゃけバディとしては弱く、嫌悪感とか喧嘩とか、両者の関係性に多少なり起伏がある方がバディとしては面白いんですよね。長期のプロジェクト(宇宙人の侵略を撃退する)に関するいっときの同僚というイメージが拭いきれません。

 ということで採点低めなのは単純に好みではないという一点につきます。ゆるして!

▼評価
バディ性  :★☆☆☆☆(二人の関係性が話の筋と関係ないw)
男女感   :★★☆☆☆(一応男と女だがw)
作品性   :★☆☆☆☆(ギャグに振り切ったけどもw)
趣味    :★★★☆☆(嫌いではないですw)
欄外評価  :+3(ネタに振り切った点は偉い!)
総合評価 :12点 / 20点中


04:青と銀 ~定年退職した百貨店バイヤーが、ウェディング・プランナーになる話~

初読感想

再読時感想

 バディものとして読むと若干気になるところはありますが、お仕事ものの小説としては本当に単行本で読みたいレベルの読みやすさと面白さです。有吉佐和子の『閉店時間』を連想するような、娯楽小説の気品のようなものを感じます。タイトルも非常にいい。全体的に作品性として素晴らしい出来です。

 だからこそ、というとなんですが、バディものとしての不満点を書かなければならないのが口惜しくもあります。
 端的にいうと、青柳さんの性格的な欠点がない。だから二人の性格面での繋がりが薄く、バディと呼ぶにはどこかよそよそしく、頼れる同僚感の方が優ってしまうのです。一見、銀次が青柳さんとタッグを組んでブライダルの仕事を解決していくよきバディに見えるのですが、この書き出しだと青柳さんは”発注者”兼”上司”であって、銀次にとって対等で、平仄の合う掛け合いをする間柄に発展しそうに見えないというのが難点でした。

 それ以外については素晴らしい完成度で、取材(題材選び)も、他のWeb小説にはないディティールがあって読み応えがあります。今後の二人の活躍も期待できそうな面白い小説でした。

▼評価
バディ性  :★★★☆☆(二人の関係性、特に信頼の構築がドラマの軸にあるが、互いの長所・短所を相補・相剋する関係性が薄味に思えた)
男女感   :★★★★☆(キャラの立て方に男女が出て良かった)
作品性   :★★★★★(素晴らしいの一言に尽きる)
趣味    :★★★★★(非常に好み)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :17点 / 20点中


05:転生現代探偵達の休日

初読感想

再読時感想(やや辛口)

 正直にお話しすると、設定が難解でついていくのでやっとでした。

 基本設定はわかるのですが、それを伝える演出的なところで”あえて”やっていることが本筋をわかりにくくしているところがあり、個人的に正しく読み取れたのか、自信がありません。
 キャラクターも言動が回りくどいため、ある意味リアリティがあって良い反面(設定の説明台詞にならなかったところはすごいよかった)ですが、そのために内容を読み取ることに苦労するデメリットも生んでいます。雰囲気を堪能する、と割り切って書けていれば大正解なので、その辺り匙加減が難しいです。

 バディものの観点で言うと、このキャラクターや物語の筋が追いにくいと言うのがマイナスの方向に働いていて、おそらく探偵仲間? なのでしょうか。犬飼さんの前世能力が優れた事件解決力を持っていることに対して、目線主人公の性格的な嫌さ(嫌なやつだw)との相補性・相剋性が弱く感じます。一方で、ケンカップルばりの嫌味と噛みつきの会話の応酬はバディものの面白さを実現しており、プラスマイナスゼロ、と言う感じです。

▼評価
バディ性  :★★★☆☆(プラスマイナスゼロ)
男女感   :★★★★☆(セリフでキャラが立ってる。いいなあ!)
作品性   :★★☆☆☆(設定の複雑さをもう少し美味しく料理してほしい)
趣味    :★★★☆☆(最後のエモさは好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :12点 / 20点中


06:最強のババアと、今はまだ無名の僕

初読感想

再読時感想(やや辛口)

 これ、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』みたいに中華異世界でやれなかったのかなあ、と今でもちょっと思ってます。
 なぜかというと、拳で戦うって世界観がどうしても中華武侠もののイメージを引きずるんですよね。西洋にもボクシングやレスリングの伝統があるんでセスタスとかそういうのが出てくれば話は変わったかもしれません。

 逆に、今では魔石も魔法も中華異世界であるという建て付けでも違和感がないくらいには、そちらのコンテンツも充実してます(『魔道祖師』とか『羅小黒戦記』とか)。韓流ファンタジードラマも結構普通に魔法とか魔石っぽいものを出してくるんで、本当に西洋風にこだわらなくてもよかった。こだわってもいいけど、それならば出すキャラクターがその世界観にマッチするかの設定・言葉選びに気を付けてほしかった。そんな感じです。

 バディものの観点で見ると、年の差バディの難しさがあまり解消できていないところも気になりました。一見武闘と魔術で相補関係にありそうなのですが、それはゲームのユニットを組む時の話であって、ドラマ的な凹凸ではありません。互いが互いに優秀であるということを見せつければ、もちろん両者の信頼が上がっていくのですが、バディとして互いが互いを補う/対立すると言う関係性の面白さに貢献していないので、やや厳しめです。
 あと、今後二人がどんな事件やイベントに遭遇していくのか、と言う展望も少し薄くて、続きがあるなら良いのですが、本当に二人は相棒になれるのかという不安もありました。

▼評価
バディ性  :★☆☆☆☆(2人1組以外とセリフの掛け合い以外が弱い)
男女感   :★★☆☆☆(出そうとはしてるけど、説明セリフ臭かった)
作品性   :★★☆☆☆(世界観の揺れと、肝心なところの説明くささが仇になった)
趣味    :★★☆☆☆(先入観が改善できず、申し訳ねえ)
欄外評価  :+2(ババアは強い)
総合評価 :9点 / 20点中


07:鏡写しの快楽主義者

初読感想

再読時感想

「さて。じゃ、帰りましょうか」
「餃子」
「材料費」
「よしきた」
「後輩もおいで」
『遠慮せずお邪魔しまーす』
 返事をしながら、色気も何もない会話だけど、熟年夫婦のように言わずと知れた言葉少なさがあるから、周囲は誤解するんだろうなと後輩は思った。

 バディものの味をよく知っている人が出す味です。最高!

 殺し屋なのかな? 前半で男女バディはこうあらねばならない的な会話が少し説明くさかったので、そこをもうちょっと減らして物語に注力してくれれば個人的には一押しバディでした。
 逆に言うと男女バディとしてはほとんど正解と言っていいんじゃないでしょうかね。あんまりそれ以上言えることがないのですw

▼評価
バディ性  :★★★★★(最高w)
男女感   :★★★★★(最高!)
作品性   :★★☆☆☆(ちょっと説明くさい)
趣味    :★★★☆☆(割と好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :15点 / 20点中

08:笑いの嵐が起きますように

初読感想

再読時感想

 バディ結成譚のダイジェスト、と言う感じがありますが。
 お話は非常に真摯に二人の関係性、バディ関係の構築を主軸に置いていて、大変素晴らしいと思います。

 強いて言うなら、夫婦漫才的な凹凸なやり取りがもう少し欲しかったかな、と言うくらいです。互いの欠点を罵倒し合うくらいの方がもっと信頼している感じが出てくると思いますね。
 ただ、その欠点は逆に言えば、女癖の悪さを克服すると言う人間ドラマとしても回収されているので一長一短だと思います。

 ラストでこれから実演されるであろう、漫才を見てみたいという気持ちがありますが、これはヒューマンドラマが成功している証です。実際に面白い漫才と小説(映画でもそう)で面白い漫才って別物なので、01と異なる演出で迫ったこの作品は、あえて漫才シーンを描かなかった賢さがあります。その点、作品性としても評価高めです。

▼評価
バディ性  :★★★★☆(信頼関係の構築過程がバディものの良さに通底)
男女感   :★★★★☆(男女の性格差がドラマの軸になっている)
作品性   :★★★★☆(物足りなさを感じるほどには良い出来)
趣味    :★★★★★(ヒューマンドラマ寄りで応援したい)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :17点 / 20点中


09:タンカ・ラップでYOチェケラ

初読感想

再読時感想

 実を言うと好みではないのですが、世界観の構築の仕方や話の展開の仕方は見事です。『賭ケグルイ』や『ライアーゲーム』、『キルラキル』っぽい極端な世界観というのは個人的には出来ない部類なので、それを一貫して描く能力はシンプルに尊敬しますね。
 バディと呼ぶにはこれからだ、という感じはしないでもないですが、努力型で知識豊かな主人公と、天才型で新人のヒロインという組み合わせは設定の時点でとても美味しく、バディという観点では将来性が見込めます。

 あと、この書き手の人はシンプルに上手いです。現実離れした世界観を、ちゃんと統一感持ってコントロールしているのがそこかしこの描写の手つきでわかります。だから知らなかったり、好みでなかったりする可能性があっても、ちゃんと筋書き通りに読めるし、タンカ・ラップでバトルする流れに違和感がない。唯一、連載漫画の第一話感がなければ満点でした(でも、ここまで書いたらこれ以上の完成度って難しいよな、とも思う)。

▼評価
バディ性  :★★★★★(将来性も込みで高評価)
男女感   :★★★★☆(タッグ主人公感が良い)
作品性   :★★★★☆(世界観の統一感が良い。第一話感があったのでそこだけ減点)
趣味    :★★★☆☆(好みではないがいいなと思った)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :16点 / 20点中

10:国盗り令嬢〜追放されましたが大盗賊と手を組んで全部奪い返してみせます〜

初読感想

再読時感想

 これも中華武侠っぽさがありました。大盗賊というワードがなんとなくそう思わせたのでしょうか。西洋風にもっと寄せたいなら、森とか修道院みたいなものをもっと出すべきでした。ロケーションが強いと中立的なワードも自然と世界観のベクトルが定まるので……

 06で書いたことを繰り返しはしませんが、用語の使い方がどのファンタジー世界観(特に東か西か)をインストールして良いかを逆に迷わせてしまったので正直この作品も完成度の観点ではあまり評価できないです。貴族令嬢や盗賊などの用語は使うと一旦「ファンタジー」であることをわからせてしまう反面、そのムードを共有できているWeb読者間の身内ワードになるきらいがあって、そういうところは個人的にはあまり好みではありません。
 逆に、そういう暗黙の了解を持っている読者には強いシナジー効果を生むので、そっちに向けて書いた話だからということはできます。完全にノットフォアミーのお話になってしまうんですよね(ノットフォアミー、みたいに「お前部外者だからな」っていうやり方は、読む側の倫理なので、書く側から言われるとそれはないんじゃない? とは思う、そんな蛇足)。ということで、本筋に戻ります。

 バディものの観点で言うと、主人公と大盗賊の間の能力差が大きく、まだ埋めあう関係でないことが気になったのと、まだどこか遠慮してるなと言う感じがあり、もうちょっとアクティブなお嬢様(「ぶっ飛ばして差し上げましょう」みたいなことを言い放つとか?)なら、バディ感が出たかもしれませんね。
 あと、このままだと二人は恋愛関係になりそうなのも、ちょっと企画レギュレーション的にはNGでした。いや作品としてはすごく良いのですが……w

▼評価
バディ性  :★★☆☆☆(相補・相剋関係が薄い)
男女感   :★★★☆☆(恋愛になりそう!w)
作品性   :★★☆☆☆(世界観の演出はもう少し工夫が必要)
趣味    :★★★★☆(王道ストーリーの幕開けは好きですよ!)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :11点 / 20点中

11:か行とあ行の恋愛相談

初読感想

再読時感想

 この作品、ネーミングセンス、文体、会話など全体的にサイコーの出来なのですが、バディものとしては致命的な欠陥があって。

 二人で事件を解決してないんですよね。

 片方の恋愛の悩みを二人で解決しているようには見えるのですが、二人の特色・長所/短所を活かして解決するというふうな筋立てになっていません。むしろ片方の恋愛の悩みに幼馴染の視点であれこれ口を出し、相手方のヘタレっぷりに安心するというドラマの構図で、実はラブコメだったりします。
 別にラブコメであることがバディものの欠陥を示すわけではないのです。『とらドラ』の逢坂大河、高須竜司のような家事壊滅女と家事有能男のコンビネーションで「互いの」恋愛にアドバイスし合うと言うならバディ感が出てくるのですが、今回は目線主人公側にその弱みが見えなかったのが敗因です。これではただの気心知れた幼馴染であって、連続して他の事件を解決するようには見えませんでした。残念。

▼評価
バディ性  :★★☆☆☆(バディの基本条件を満たしてない)
男女感   :★★★★☆(幼なじみ、はよくっつけw)
作品性   :★★★★☆(もう少し続きを……)
趣味    :★★★★★(大好きですw)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :15点 / 20点中

12:妖魔退治も一歩から

初読感想

再読時感想

 完成度の面で「おや」と思うことはあれど、筋書き・ドラマ的には面白い作品でした。主人公に上から目線で「お前らの世界には存在しないらしいから説明してやるが」と言われる演出は新鮮で、逆に気に入ってますw

 ただ、バディものとしては「恋愛関係にならない」と言うレギュレーションを達成するためのワンアイデア感が強いことと、セリフで誤魔化してますがこれってどちらかというと「師弟もの」のフォーマットだよね、と思うような筋立てだったのが気になります。
 韓国ドラマ『還魂』や仁木英之先生の『僕僕先生』のような師弟のバディもあるので完全否定はしませんが、やはり互いのキャラクターの長所/短所が相互の関係性に影響しないのでは、相棒と呼ぶにはいささか距離が離れすぎているような気がします。

▼評価
バディ性  :★★☆☆☆(バディものに必要な要件が不足)
男女感   :★★☆☆☆(そりゃ、親子ならよわいよ……)
作品性   :★★★☆☆(普通かなあ)
趣味    :★★★☆☆(面白くは読みました)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :10点 / 20点中

13:悪役令嬢の求人広告。

初読感想

再読時感想

 書き出しだったら高評価、これに尽きます。

 男女バディとしては、いずれはそうなるかもわかりませんが、もう少し性格の凹凸がピッタリハマる感じや相補・相剋の関係を見せてほしいという感じでした。利害の一致で始まってもいいんですが、それが理屈っぽく前に出過ぎて、ビジネスパートナー感がありました。あと、単一のキャンペーン(長編シナリオ)の旅の仲間という感じもあって、互いの、特に短所の表現が弱かったことも挙げられます(長所だけで組み合わさっていると”相棒”ではなく、優秀なタッグプレイになってしまうのです)。

 虎走かける『ゼロから始める魔法の書』における俺(料理が得意)と魔女(はらぺこ)の関係性だったなら、あるいはよしと思ったかも知れません。その辺はもっとキャラクターの素の部分を晒してあげて欲しかったです。

▼評価
バディ性  :★★☆☆☆(単一のキャンペーンの旅の仲間だなって感じ)
男女感   :★★★☆☆(魔女と王太子なら、あるいは)
作品性   :★★★☆☆(書き出しだなあって感じ)
趣味    :★★★★☆(比較的好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :12点 / 20点中

14:帝国最大の失敗は、その二人を同じ檻に放り込んだことだった

初読感想

再読時感想

 この感想を呟く前に物騒なことを呟きましたが、この作品については問題なかったです……

俺たちの両手を拘束する鉄の手枷は、魔導回路が刻まれた頑丈なものである。これの効果で体内の魔力がかき乱され、着用者は簡単な魔術すら発動できない。

 こういうしれっと世界観の合理的なところを説明されるとコロッと騙されるのが私の特性です。ここ、試験に出ます。

 全体的にもここ数回の企画ではなかなか見られないほどの世界観の練り方と、その説明の軽さが巧妙です。一人称ってそうやって使えるんだなって勉強にもなりました。
 ラノベのファンタジー、とあえて言ったのは、空間魔術みたいに設定の体系を察知したからです。創元系のファンタジーなら少なくとも魔法をそういうふうに分類しない……

 しかしエンタメとファンタジーの両立という観点なら素晴らしい出来です。男女バディとしては互いの性格面での欠陥が出ていないところに「まだまだこれから感」を覚えましたが、要件は満たしてます。あとは帝国を倒した後も続く間柄か、ということでしょうか。

▼評価
バディ性  :★★★★☆(性格的な短所の補填がバディ感を弱めている)
男女感   :★★★★☆(異種族の男女ってそうよね……)
作品性   :★★★★★(続きが気になるけど、よかった)
趣味    :★★★★★(好き!)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :18点 / 20点中

15:レプリカ

初読感想

再読時感想

 意外と少なかったロボットアクションでの男女バディですね。

 この手の作品だと、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』を思い出します。それにインスパイアされた『鋼鉄紅女』もおすすめです。それ以外にもあったと思いますが、少なくとも今は思い出せず。
 メカアクションって結構描写力が試されるので、この作品に関して特に優れた描写を感じきれなかったのは惜しいです。が、設定の開示とそれに伴う情景描写が企画の中でずば抜けて印象深かったのは、間違いなく作者さんの技量と熱量の賜物と言えるでしょう。

 結果的に、評価は高めです。

▼評価
バディ性  :★★★★★(設定でここまでされたら高評価するしかない)
男女感   :★★★★★(この切なさは男女でないと出ないよね)
作品性   :★★★☆☆(ちょっと文体粗め)
趣味    :★★★★★(夕日の情景が一番綺麗)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :18点 / 20点中

16:ギャルゲー転生 〜兄妹タッグで恋の成就!〜

初読感想

再読時感想

 兄妹バディは今まで意外といなかったことに驚きます。

 いないわけではありません。最近だと『推しの子』のルビイとアクアでしょうかね。
 ただ、今初めて思ったのですが、兄妹や近い関係性で同じ異世界に転生すると、それって異世界ものではなくて本質的に脱出ゲームっぽくなるんですね。互いの知恵や能力を計算して、決められた状況を予測し、解決しようとする仕掛けは、なんだかむしろ『CUBE』とかあっちら辺を連想します。

 兄妹同士なのでお互いがお互いを冷静に守ってやる感があるのはバディものとしても相性が良いですね。二人の信頼関係が発展しないということだけがちょっと残念ですが、兄妹だからやむなしw

▼評価
バディ性  :★★★★☆(発展性がないけど凹凸感はよかった)
男女感   :★★★★★(兄妹感は上手い)
作品性   :★★★☆☆(続きがねえ)
趣味    :★★★★☆(割と面白がれたよ)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :16点 / 20点中

17:次に生まれ変わったら、あなた以外と結婚したい

初読感想

再読時感想

 男女バディの熟年夫婦感を出すための逆転の発想! これには閻魔様もびっくりだ!

 正直、初出の評価基準をほぼ全て満たしているのでいうことはないです。男女バディとしては僕のほしいものがフルコースでした。

▼評価
バディ性  :★★★★★(よし、通れ)
男女感   :★★★★★(顔パス決定)
作品性   :★★★★☆(続きは???)
趣味    :★★★★☆(コメディとして好きw)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :18点 / 20点中

18:怪事警察24時

初読感想

再読時感想

 改めてみても、リアルっぽい警察もののフォーマットをよく捕まえてますよね。先輩後輩関係や所轄・本庁の構造とか。捜査の段取りを描写しているあたりとかも、調べてる感じがすごいです。すでに他の方が指摘している通り『ケイゾク』や『TRICK』のような実写連続ドラマ感があります。こういうの、実は大好きなんですよね。
 これはもう個人の好みの問題ですが、フィクションの嘘の要素は厳選されている方が好きな人間です。例えば「金さえ払えばなんでも治す非合法の医者」というダークヒーローを作るなら、それ以外の、特に医療や生命倫理のところで余計な嘘やぶっ飛びは少なくした方が作品の発するメッセージに強い裏付けが取れます。私はよく作品の設定の合理性(※整合性ではありません)をちゃんと考えてくれ、と叫びがちな人間ですが、リアルでないものをダメだというつもりは全くないです。すっとんだコメディも、ぶっ飛んだ世界観も比較的楽しみます。ただ、真剣なメッセージや表現をしたい人間は、その主張のために捻じ曲げるものは少なくした方がいいです。それは、データを改竄した科学論文の結論の信憑性が落ちるようなもので、一定のリアリズムは一定の主張やシリアスなメッセージを放つための強い土台になるからなのです。

 あと、せっかくなら気持ちよく騙されたいっていうのはあります。騙すためのありがちな嘘にならない工夫を見ると、一緒に騙されたくなるので、そういうところが趣味といえば趣味です。

 バディものでいうなら、警察ものの王道バディだってこともあるんで、男女感が役割以外であんまり出てないところ以外は基本高評価ですね。

▼評価
バディ性  :★★★★★(よし通れ)
男女感   :★★★★☆(ちょっと男女感弱め)
作品性   :★★★★★(完成度高)
趣味    :★★★★★(めちゃ好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :19点 / 20点中

19:幽霊のみぞ知る

初読感想

再読時感想

 トゥルー・コーリングを他の方の感想で初めて知ったのでなんですが、この作品も非常に完成度高く、面白かったです。降霊術がなくてもいける? と思わなくもなかったのでやや減点ですが、ほぼ完璧でした。
 タイトル回収もしてるので、実は降霊術がないと世界観的には成り立たないのは承知しつつも、それでも18で言ったとおり、シリアスなメッセージを発する時は作中の”嘘”をなるべく減らしたほうが良いという立場です。そのため、降霊術がなくても通用するメッセージを持ちながら、ストーリー的にそれを優先したことが少し勿体無さを感じてます。

 結末部分で「理不尽な死」を連呼していたので、作り手は『アンナチュラル』を観たのかな、好きなのかな、と思ってます。ちなみに『アンナチュラル』の三澄ミコトと中堂系はバディではないと思ってますw

▼評価
バディ性  :★★★★★(正義感の強さ、悪口の言い合い、絆、良し)
男女感   :★★★★★(物事へのアプローチの仕方が時代設定とマッチしていて良いなと思いました)
作品性   :★★★★★(これだけの密度をよく詰めましたね)
趣味    :★★★★☆(降霊術がなくても成立しそうな気がした)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :19点 / 20点中

20:バディ、夜を駆けろ!~腐敗魔都・NEO TOKYOに朝日は昇るか~

初読感想

再読時感想

 意外なことに03の仲間がここにw

 バディものとして評価すると、03とは違って互いの性癖に口出しするくらいには信頼関係とボケツッコミをする仲なのがわかって良いですね。
 あとはもうシリアスギャグの時空なので、へんなツッコミはしません。これも好みではないですが、企画としてよく書いてくれた! すごいいいね! という感じです。こういうのがあると楽しいんだよなあ!

▼評価
バディ性  :★★★★☆(普通かなあ)
男女感   :★★★☆☆(まあ男女ものとしてはw)
作品性   :★★★☆☆(このギャグ時空嫌いじゃないよ)
趣味    :★☆☆☆☆(趣味ではないですw)
欄外評価  :+2(よくやった!)
総合評価 :12点 / 20点中

番外編:遅れてやってきたバディたち

本宮愁さん『23:55』

感想

 完全版が載ってたら優勝候補でしたね。

 あともう少し若気の至りがあったら結ばれていたかもしれないけど、今は腐れ縁の男友達(女友達)というのは男女バディの究極解だと思います。おまけに終電を逃しそうな時間で、帰っちゃう切なさも込みで、とても良い。

 前後の文脈がやや物足りないのを除けば、掛け合いや関係性のちょっとした切なさといい、ほぼパーフェクトでした。許せん!

▼評価
バディ性  :★★★★★(よく分かってます)
男女感   :★★★★★(いうことなしです)
作品性   :★★★★☆(完全版は????)
趣味    :★★★★★(はあしゅき)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :19点 / 20点中

本人は至って真面目さん『※要機密処理 怨霊対策室治安維持実行部隊 資料No.0864』

感想

 短編としての一定の完成度は保証しつつも、字数制約に対して設定がちょっとオーバーだったかも、とは思いました。

 先輩・後輩のバディ関係や各種の設定、世界観に対するイレギュラーの扱い方など、素材はすごくよかったので、あとはこれをどう少ない文字数や演出で見せていくか、なんですよね。難しい。
 シリアスな展開が連続してしまっていたので、その辺で展開に対する情報の濃淡や緩急の意識がつくともっとよかったかもです。ヒロインと思しき紗倉さんのキャラがよかったです。

▼評価
バディ性  :★★★☆☆(この二人、他の事件解決しに行けないのでは……?)
男女感   :★★★☆☆(設定以上のものが欲しかったかも)
作品性   :★★★☆☆(技術点的にはもう少し鍛錬が必要……)
趣味    :★★★★☆(設定は好き)
欄外評価  :(特になし)
総合評価 :13点 / 20点中

総括

 点数が上位のもの、同点の場合今回は趣味を優先しました。許して。

 全体的に思ったのが、バディものの自己定義をした途端にいくつか入れたかった作品が落ちてしまったことです。
 逆にいえば、バディものでなければ評価したかった作品も多かったので、その点は作品の欠陥を指摘するわけではないこと、改めてお伝えします。

 もちろん個人的に上手い下手の感性が違うこともあるので、あくまでこんな見え方もあるんだなあ、くらいにしてもらえると幸いです。ではでは。

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