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第一話:なぜ製薬業界におけるデータ分析が必要なのか?

「この施策の効果は、いったいどれほどだったんだろう?」

製薬企業の現場で働く中で、こんな疑問をよく耳にします。施策の実績はデータとして蓄積されてはいるものの、ほとんどの場合“数を数えるだけ”の「集計」の段階にとどまってしまい、そこから一歩踏み込み、解釈し、次のアクションにつなげる「分析」に至っていないのです。

私がこれまで見てきた現場でも、数値はエクセルに入力され、“レポート”と称して毎月、売上やコストが棒グラフや折れ線グラフで示されています。けれども、そのグラフを見て具体的に「何が良くて、何が悪かったのか?」と検討したり、新しい施策に反映したりする流れがない。私自身は、こうした「集計はしているが、実際には分析していない」状態こそ、今の製薬企業が抱える大きな課題のひとつだと感じています。

「集計」と「分析」はまったく別物

そもそも「集計」と「分析」では、アウトプットもプロセスも大きく異なります。

  1. 集計

    • データの総数や平均値、合計売上などを計算し、表やグラフでまとめる段階

    • どの指標がどう推移したかを“見える化”することが目的

    • ExcelやBusiness Insightツールで比較的容易に作業できる(オペレーション的な業務)

  2. 分析

    • 集計結果を踏まえて「なぜ、こうなったのか?」「どのように改善できるのか?」と考察し、施策に落とし込むプロセス

    • 仮説を立て、データを基に検証する。場合によっては高度な統計手法や機械学習を用いることもある

    • 現場・組織がどう行動を変えるのかを示し、実行を促す“問題解決”のステージ

集計は「データの整理」であり、分析は「データの活用」といえますね。
製薬企業の現場を見渡すと、どうしても“集計”だけで終わってしまいがちです。集計だけを必死に行って分析した気でいる。その結果として、担当者は「とりあえず数字は出したけれど、次にどう動けばいいかわからない」という状態に陥ります。そして数値を確認しただけで満足してしまい、“やりっぱなし”が常態化してしまうのです。

データを活かす先にある「患者さんの笑顔」

データ分析をテーマにすると、「数字にばかり目が向く」「効率化だけを追求する」といったイメージを持つ人もいるかもしれません。ですが本来、効率化を目指すのは“そこに余力を生み出し、その分をより良いサービスや治療のために振り向ける”ためであり、その先にいるのは常に患者さんです。コストを削減した結果、新薬への投資が進んだり、医療現場へのサポートが厚くなったりすれば、実際に救える命や改善できる生活の質(QOL)は増えるかもしれません。


特に製薬業界では、単純に“売上”を追いかける消費財などのマーケティングとは異なり、薬事法や公正競争規約といった法的・倫理的なルールの中で活動しなければなりません。にもかかわらず、MRの訪問数や学会・ウェビナーへの参加実績といった「活動の結果」は、蓄積や集計しているだけで適切に分析されていないケースが少なくありません。蓄積や集計されたデータには、どこに効率化の余地があり、どこへ注力すれば患者さんや医療従事者に貢献しやすいかを教えてくれるヒントがたくさん含まれています。しかし残念ながら、その“宝の山”に気づかずに通り過ぎている状況が多いのです。

やりっぱなし”を脱却するために

先にも少し触れましたが私はこれまで、何度も何度も「企画や施策を実施して終わり」「データを取るだけ取って振り返らない」という現場を見てきました。もちろん目の前の仕事に追われているのはわかるのですが、結果的に同じような失敗が繰り返され、無駄なことに貴重な予算が費やされてしまいます。

このような“やりっぱなし”を脱却するためには、①まず何のために施策を実施するのか、②何が目標で成功や失敗の指標になるのか、③それを評価するためにはどんなデータを集める必要があるか、④どのように分析したら次の施策に活かせるかを最低限事前に明確にする必要があります。

これまで自社で行ったMRの説明会やウェブセミナーを考えてみるとよいかもしれません。いかがでしょうか、おそらくそこまで深くは考えず実施したのではないでしょうか?

本連載(Note)で目指すこと

このNoteはこれまで「製薬会社でデータに携わる仕事を必要があるけれど、これまで欲しい情報が見つからなかった」「数字ばかりの指標や業界用語が飛び交っていて、どこから手を付けたらいいかわからない」「効果測定して?と上司から言われたけどどうしたらいいかわからない」「キャリアアップのために製薬のデータ分析について学びたい」という皆さんのためにまとめていきます。

製薬業界特有の規制や倫理観を踏まえたうえでのデータ分析は、一般的なマーケティング分析のノウハウだけでは十分にカバーできません。それゆえに、このNoteシリーズでは、「製薬会社におけるデータ分析」を、単なる数値整理から“ビジネスと現場を動かす力”へと変えるためのヒントをお伝えしていきます。集計作業で終わらせるのではなく、分析を通じて自分やチームがどう行動すればいいのかが見えてくる。そうなれば、社内の無駄を削減し、その分を患者さんが望む新薬開発や医療現場のサポートに振り向けられるようになるでしょう。

本連載では、以下のような内容を解説していきます。

  • 製薬業界ならではのデータの基礎知識やデータ分析の重要性

  • 営業活動に関わるデータ分析による営業効率の向上

  • デジタルマーケティングと費用対効果の考え方

  • 組織としてどうデータを活かし、行動改革につなげるか

  • より高度な需要予測やAI活用のヒント

  • 具体的な分析例とインサイト 

次回への予告

次回の記事では、まず「製薬会社で扱うデータの特徴と、押さえておきたい基礎用語・KPI」について解説します。そこでは、単なる“集計”にとどめず、分析につなげるためのちょっとしたコツもお伝えする予定です。

「数字は集めたけれど使い方がわからない」「分析にどんなメリットがあるの?」と感じたことがある方も、今後のシリーズについてぜひご覧ください。きっと、これまで見えていなかったデータの活用法が見えてくるはずです。

「データを活かした適切な判断を通じて患者さんに薬を届ける」──その大きなゴールへ一緒に近づいていきましょう。集計から分析へ、そして、実際の行動改革へ。今、その一歩を踏み出すタイミングです。



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