「秋草」2023年11月号
「秋草」の山口遼也です。
明けてます。今年もよろしくお願いいたします。
12月号がかなり前に届いていたので11月号の話をします。
重なったバケツから一つとって、墓参りに使う。ちょっと力が要る感じとかバケツの抜けたときの気持ちよさとか、素朴だけど深く共感できます。それに「バケツからバケツを抜く」というのは意外と盲点というか、言われてみれば面白いことをしていたことに気付かされる。発見の句というより再発見の句というか。再認識?難しいことは分からないのですが……。
この句は一物仕立てを勉強する句会で出され、会員の特選がとても集中しました。
季語「大文字」への挑戦に思えます。「大文字」への信頼とも言える。大文字を見上げる京都の町の雰囲気。呟きのような書き方にも庶民感が漂います。〈からし溶きわさびも溶いて星月夜/波多野爽波〉も思い出される。
一読、素直で明快。「一時間走れば」というきわめて個人的な条件と「僕」という一人称の存在感からは、幼い自己愛も感じられる。これだけしか書かれていないのに「僕」の人柄が分かってくるし、なんなら僕が「僕」だった時代も思い出す。
逆に、一時間走らないと夏休みが始まらない、という期待ともどかしさを読むこともできそうです。
淡々と詠まれているのがよい。親子かもしれないしパートナーかもしれないですが、下手にドラマを決めつけすぎない方がこの句の場合はよさそうです。踊子が時計を手渡した瞬間を潔く図式化した。この一場面だけで一句が成立すると確信できるのがまずすごい。
このあと踊子は盆踊りの輪にもどり、男は離れてそれを眺める。一段落ついたら時計を受け取りに踊子がまた来る。盆踊りのよい一コマ。
季語「野分」の距離感がよい。上五中七を受けて「秋の蝶」とか「夜長かな」にするとやや抒情に傾きそうです(そういうつくり方もありますが)。トランプに興じていて、外は野分。野分の不安感が和らいでいるので個人的には意外な取り合わせでしたが、お家で過ごす徒然にとても共感できます。美意識の和洋折衷も面白い。
長くなったのであとは好きな句をいくつか。
扇風機暦一枚浮かせけり 橋本小たか
よいあるある。ちゃんと涼しさも。
金魚玉乗りし少年ジャンプかな 中西亮太
高さ調節に。下敷きにして二三年くらい経ってそう。
茸出て国境線がそこにあり 鬼頭孝幸
見ているままを書いた投げ出す感じが面白い。完結していないようで作者の中では完結している。
高く盛る辛味大根厄日なり 藤井万里
取り合わせが好き。「厄日」につかず離れずは難しい。
ががんぼやPRIVATEのドアの前 対中いずみ
即物的だけどなんとなく余裕がある。
(先月分の訂正)
ハイクノミカタに掲載されている主宰句を「自信のある句ではないか」と書いたのですが、実際は主宰作品16句のうちの最後の1句を機械的に選んでいるそうです。なるほど。