薬剤師になろう
薬学の話
薬剤師になるには、薬学部で学び、薬剤師国家試験に合格しなければなりません。そして薬学部には、6年制の薬学科と4年制の薬科学科があります。
【6年制学科で学ぶ】
薬剤師国家試験の取得・医療薬学の修得をめざす6年制学科
薬剤師国家試験の受験資格を得るには、薬学科6年の課程を修了・卒業しなければなりません。6年制になって大きく変わったのは、事前実務実習を受け、薬学共用試験に合格した上で病院と薬局で実務実習を受けることです。臨床実習に力が入れられているのが特徴です。
2019年4月に厚生労働省から「調剤業務のあり方について」という文書が出ました。薬剤師以外の者が調剤業務の一部に触れることを認める内容です。
それは薬剤師に専念させたい新しい業務があるためです。調剤薬局の薬剤師の地域医療への参画を促し、服薬指導の継続など対人サービスに専念できるようにしました。すでに6年制の薬学教育は医療薬学の色彩を強めており、十分に対応できる体勢にあります。
【4年制学科で学ぶ】
薬学の知識を多方面で活かす4年制学科
研究者の養成には研究力の醸成が欠かせません。研究に力を入れる大学は、研究室配属を早期化させています。とくに国公立大学では、3年次の研究室配属が増え、研究期間の拡大を図っています。
他学部との違いは、臨床で使われる医薬品、病態など患者さんを視野においた教育・研究です。
また薬学は直接肌に付ける化粧品や食品、トイレタリー(シャンプー・リンスなど)領域も守備範囲。さらに薬学の知識を生かして出版やITなどの業界に進出する学生もいます。
4年制学科の特色は、多くの学生が大学院進学する点です。目的は、製薬企業などの研究職・臨床開発職、またアカデミアに進んで指導者になることが考えられます。
6年制学科と4年制学科の一括募集
国公立大学薬学部には一括募集する大学があります。一括募集では、入学時から全員が一緒の授業を受け、設定された学年で6年制と4年制の学科に分かれて学びます。
メリットとしては、2年次・3年次の学科分けまで将来の進路を考える時間的な余裕があります。薬学教育、見聞きする情報をもとに自分の進路や興味を発見できるのがメリットです。
成績を参考に学科分けをする薬学部があります。学生の希望を優先しますが、定員に達した時に成績を参考にするようです。
各学年の学び
1年次
基礎科目を中心に学ぶ。英語や数学の授業のなかに、薬学の基礎科目が配置されています。
○有機化学 ○物理化学 ○分析化学 ○基礎物理学 ○基礎生物学 ○生薬学 ○生化学 など。早期体験実習は、大学によって内容が異なるが1年次に行われることが多い。製薬企業を見学するアーリーエクスポージャーを取り入れる薬学部があます。
2年次
基礎科目に加えて、専門分野の科目も見られるようになります。
○有機化学 ○物理化学 ○分析化学 ○生化学など さらに○微生物学 ○病態生理学 ○薬理学など。学生実習も本格的になる。
3年次
主に薬物の専門科目で構成される。実習や演習も入ってきて、薬学の面白さを感じる学年になります。
○化学系薬学演習 ○生物系薬学演習 ○機器分析学 ○免疫学 ○薬理学 ○薬物治療学 ○薬剤学 ○放射化学 ○調剤学 ○臨床生化学などの専門科目を学びます。
一括募集の薬学部では、3年次まで一緒に授業を受けることが多いようです。
4年次
いよいよ実務実習に向けた教育が始まります。事前実務実習も臨床実習への高まりを感じさせてくれるでしょう。
学年末に共用試験を受けます。
○薬物治療学 ○薬剤学 ○医薬品情報学 ○症例解析演習 ○医薬品管理 など
5年次
○病院実習・薬局実習
実務実習はグループに分かれて行うため学年全員が学内にいる機会が少なくなります。全員を集めるガイダンスなどの機会が減少します。
○卒業研究など
実務実習を行わない学生は、コース別授業、卒業研究活動などの活動が多くなります。
6年次
○アドバンスト教育、コース別教育 5〜6年次の教育をどう展開するかで将来性が違ってくるでしょう。アドバンスト教育については、後述。
○薬剤師国家試験受験準備
薬剤師国家試験の準備では学外の講師を招くなど、大学で対応が異なります。
4年制学科出身者の大学院進学
薬学4年制学科は、資格などにとらわれない自由な教育が特徴です。また4年次で卒業しても就職する学生は少なく、大学院進学者が多いのが特徴でしょう。
大学院修士課程(博士前期課程)で実践的な研究を通じて学び、自立した研究・開発者を目指します。
製薬会社は修士課程・博士課程の学生で母集団を構成しようとします。博士課程学生を対象にTOEICスコアを求める会社もあり、将来の希望進路と合わせて大学院進学を視野に入れておくといいでしょう。
6年制と4年制のメリットを活かすコース設定
大阪大学薬学部の「全6年制」薬学教育をはじめ、金沢大学薬学類、京都大学薬学部などで教育改革が進んでいます。
その根底にあるのが研究者養成への弊害です。6年制学科には、研究者を希望する学生もいます。6年制の学生が実務実習から戻ってみると、4年制の学生の研究スキルが高くなっていることに気づきます。
4年制学科の学生は、大学院に進級するとすぐに企業のインターンシップが始まり、そのまま就職活動に突入します。研究に専念できるのは企業から内定を得てからといい、就職活動の弊害で研究が目的のレベルに達しないといいます。
教育改革を進める薬学部は、これらの弊害を克服しようとしています。詳しくはリンクをご覧ください。
○金沢大学薬学類の教育改革
https://yakkei.jp/contents/progress/kaikaku-kanazawa.pdf
○大阪大学薬学部の教育改革
https://yakkei.jp/contents/progress/kaikaku-osaka.pdf
○京都大学薬学部の教育改革
https://yakkei.jp/contents/progress/kaikaku.kyoto.pdf
これらの薬学部は、入試(選抜)方法や進級にも特徴がありますので、入試要項を確認してください。
この他、徳島大学薬学部も全6年制に移行しています。
大阪大学薬学部のユニークな取り組み
先進研究コースには、入試(学校推薦型選抜)の合格者のみが進学できます。入学すると4年次までの学部教育を履修し、学力のチェックを受けて学部課程を修めます。4年次を修了すると一旦学部を休学します。
学生たちは、飛び級で大学院に進学して4年間の大学院課程に進級します。
大学院の課程を修了すると、学部課程に復学。薬剤師国家試験の受験に必要な学部5・6年次の教育(実務実習など)を履修します。なお、博士号を習得した段階で就職することもできます。
10年間のうち約7年間の継続した研究期間を設定しているのが特色。課題は、高校生時代に自身の10年後の姿をイメージできるかどうかでしょう。
https://yakkei.jp/contents/progress/2023.3hosp-jobhanter.pdf
6年制学科や4年制学科、大学院の就職実績(2023年実績)を紹介するデータです。
後半には大学病院など特定機能病院、公立病院や国立病院機構の就職状況をまとめたデータも掲載しました。
薬剤師国家試験の受験資格
薬剤師国家試験の受験資格は、「学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学において、薬学の正規の課程(学校教育法第87条第2項に規定するものに限る。)(以下「6年制薬学課程」という。)を修めて卒業した者」という薬剤師法第15条第1号の規定に基づきます。
薬学部で行う薬学教育を履修して4年次に実務実習事前実習を受けた後に薬学共用試験(知識/CBT、技能・態度/OSCE)を受験します。共用試験に合格すれば、5年次に行われる実務実習を受けることができます。
さらに薬学部の全課程を修了し、卒業した者に薬剤師国家試験の受験資格が与えられます。各薬学部の卒業試験の問題は、薬剤師国家試験の出題レベルに準じており、卒業試験が最後の関門になります。
注目したいアドバンスト教育
薬学教育プログラム(6年制)は、薬剤師としての基本的な資質や能力を身に付けることを目指しています。
この教育プログラムで、薬学(薬剤師)教育が完成するのではありません。コアカリキュラム7割に加え、残り3割をオリジナル(アドバンスト) 教育が担って大学の特徴をだすことを求めています。
文部科学省は、薬学教育アドバンスト教育についてガイドラインを例示しています。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/47/siryo/attach/1342145.htm
大阪大学が中心になって高度な医療人養成を目的とするプログラムもあります。
全国国公立大学・薬学部「高度医療人キャリア形成教育研究推進プログラム」
http://www0.phs.osaka-u.ac.jp/koudosendouteki/overview/greeting.html
各大学のアドバンスト教育には特色があります。
大阪大学が中心になって進める「高度医療人キャリア形成教育研究推進プログラム」が機能して、国公立大学のアドバンスト教育は充実しているようです。
例えば、長崎大学のアドバンスト教育には、「6年次には「高次臨床実務実習Ⅱ」を開講し、1週間の離島実習と、大学病院で1~2日間、各専門診療科において診療実務実習を行っている」とあります。
https://yakugaku-u.jp/questionnaire/nagasaki-attempt/
離島が日本で最も多い長崎県。しかも5年次に実務実習で習得した知識をベースにさらに高度な臨床実習を取り入れており、各診療科での実習は充実したものになると期待できます。
薬学アドバンスト教育から、各薬学部がどのような特色をもった教育を提供しているかを知ることができます。
アメリカの臨床薬学・医療薬学
アメリカをイメージしたビジュアルを使いました。薬学教育が4年制だった頃、大学院進学する学生は平均して25%ほど。ただし国立大学と私立大学では異なっていました。
東京大学は100%に近いなどの進学率。東北大学が78%、千葉大学が80%、大阪大学89%など。私立大学で数値が高かったのは、京都薬科大学の32.5%、星薬科大学30%、大阪薬科大学29.6%、共立薬科大学(現慶應義塾大学)29%、東京薬科大学25%などでした。
比率は低くても東京薬科大学は100名を超える大学院進学者で、その一部はアメリカ留学(UCSF、USC)を課す課程(コース)に進学しました。初年度の半年は留学前の事前教育。1年間の留学を経て帰国後の半年で研究成果をまとめていたのです。
留学経験者は、アメリカの臨床を垣間見て「数年後には日本もこうなるだろう」と実感したといいます。日本の少し先をいくアメリカで学ぶ魅力がありました。
ちなみに薬学部を卒業するのは全米で8000人/年ほどといいます。
大学の学士課程(4年間)を卒業して、大学院薬学専攻試験に合格。4年間学んだあとに受ける資格試験に合格した人たちです。最短で8年学ぶことになります。
アメリカ人でも、一般の大学を卒業するのは大変なことです。さらに4年間の厳しい教育をクリアしなければなりません。薬剤師が尊敬される職業のトップレベルであることはうなづけます。
病院の薬剤師さんになろう。
薬学部生の中には、「病院薬剤師は成績優秀者がなる職業」と思っている学生がいます。また下のグラフを見ると病院が薬剤師の採用を減らしているように見えます。採用を抑制していたのではなく、病院の採用スケジュールにミスマッチがあったようです。
病院の採用は、主に求人票を介して行われます。これまで病院から大学に求人票が届けられたのは5月から6月が多く、6月から7月に内定が出ていました。
その時期は薬局やドラッグストアの採用活動終盤にあたります。各業界の採用スケジュールが早期化したため、多くの学生が内定受託。病院が取り残される状況になっていました。病院も早期化に対応し、病院の求人票送付を3月に行う施設も出現しています。そんな努力が実って病院薬剤師の採用が増加しています。
気になる病院には、病院見学を行うなど、積極的に対応する学生もいます。
医療分野では、薬剤師さんが足りません。
以下のURLは一般社団法人 日本病院会が調査した病院薬剤師に関する資料です。
https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1679296011.pdf
調査を行った令和4年(2022年)のデータですから最新情報でしょう。
回答があった706施設のうち74.9%が「薬剤師は充足していない」と答えています。一般病床547施設の79.3%が薬剤師が足りないと答えているのです。しかも500床以上の施設の91.8%が足りないと、東京都、愛知県、大阪府など大都市で多くの病院薬剤師不足が生じており、大規模病院ほど病院薬剤師が不足していることがわかります。
病院薬剤師は、人の生命・健康に貢献する最前線にいます。そのため、誰でもなれる仕事ではありませんが、実力があれば就職のチャンスが大きく広がっています。