色が見えた
コロナ感染で寝込んでしまい、弱りはしたが、たいして心配していなかった。ワクチンも打っているし、死ぬわけじゃない。微熱が続いたのは、3日ほどだったが、本当に調子が狂ったのは、その後だ。
風邪のように、ある朝、目が覚めたらスッキリ、気力みなぎり、というのを期待していたのに、いつまでも、そんな朝は来なかった。
気力も体力も、自信がない。すること、できることは、ふだんの5分の1くらいに思えた。考えるのもゆっくり。歩くのも。ふらつかないよう、何かにつかまる。散歩なんかしようとも思わなかった。
おばあさんみたいだな、わたし。きっと、もっと年をとったとき、こんなふうに、動作が緩慢になるんだろうな。思考も。
前はさっとできたのにと、こぼす、母や年配の知り合いのことを思う。
前より何分の1かの効率やスピードの自分に、本当のおばあさんになったときの練習だと思おうとした。それが楽しめる時と、気が滅入る時が交互にあった。
ヨタヨタ一週間の頃、コロナになる前にオンラインで注文していた服が届いた。待ちかねていたわけではないのに、封をあけて服を取り出すと、それだけで気持ちが上がった。
届いた服を見て、なにより、色に癒された。
若返る気がした。少なくとも、自分の実年齢にまで。
色に高揚させられた。
この色がまといたいと思ってたんだ、コロナで寝つく前のわたしは。
色は気分を左右するし、心持ちをうつしもする。
明るい色が着たかったわたし。
あんな春の草の色の服が着たかったわたし。
それを思い出しながら、袖を通したいと思う今のわたし。
色に励まされた。
この色を身につけたい。着たい。
気力も体力も、いっきに出てきて、
とはならなかった。
でも、わたしはずっとこのままではない、と思い出した。
よくなる。回復する。
わかってた。
もちろん。
それでも、「老いたときの練習」は、それからひと月近く続いた。
5月はいつの間にか終わっていた。
外に見える緑は、わたしの買ったシャツより、ずっと濃い色になっている。
🌿 🌿 🌿
注文した服を見ながら思い浮かぶのは、あのイラスト。色を体現するあの子たち。イシノアサミさんの描く。
あの絵。あの表情。どの緑だっけ。なんて名前の色だっけ。
この色を薄めたら、濃くしたら。
色のことを、わたしにもほかのみなさんにも、深く軽く楽しく紹介してくれた、イラストの色っ子たちと、作者のイシノアサミさん。ありがとう。