選挙のときだけ会える君
日曜日に選挙に行った。投票所が小学校なので、この日ばかりは縁もゆかりもない小学校の敷居を堂々と跨げるわけだ。東京の学校はグラウンドが小さいなぁ、とか、雲梯ってなんで雲梯なんだろう? とか思いながら投票を済ませる。
出ようとすると、昇降口のところに「チャイムが鳴ったら犬走りを通って集合しましょう」という立て看板があった。
犬走り……?
わざわざ赤字で書かれた聞き覚えのない単語。もしかしてこの学校にだけ存在する固有名詞なのかしら、と首を捻る。
あとで調べたら、犬走りというのは建築用語で、溝や垣根と路との境にあるスペースらしい。文章で説明してもよく分からんな。
でも確かに小学校って外と校舎との間にコンクリの微妙に盛り上がった路っぽいものがあった気がする。
要するに広がって歩かないで、ってことなのだろうか。
この学校では入学するとまず「犬走り」のなんたるかを教わるのかもしれない。
昇降口の近くには水槽があって、中に亀がいた。両手のひらよりやや大きいサイズ。
名前はワカメ。女の子。7年もいるらしく、命名した児童は仮に小1だったとしてももう卒業してしていることになる。
生物委員会からのメッセージには「ワカメをいじめないでください!」と子どもらしい字で書いてあった。
ワカメ、次に会えるのはいつだろうか。