羅刹の紅(小説投稿)第九十二話
○あらすじ
普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校だったがかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
赤虎組は資金を確保するため偉炎たちが通う広星高校の地下金庫を襲撃することを決めた。その情報を手に入れた偉炎たち一般部はそれを体育大会当日に迎え撃たなければならなくなったのだ。そしてそれぞれが準備を整え、ついに体育大会の当日を迎えた。
正午になった頃、偉炎は学校の外で昼食を取りながら見張っていたが、最近の疲れからか眠ってしまった。しかしその間に赤虎組は学校の近くまで接近してしまったのだ。
それに対し一般部は総出で立ち向かう。ついに一般部と赤虎組の戦闘が始まる。
〇本編
切風の戦闘に関しては文句の言いようがない。剣術、体術、戦術・・・すべてにおいてこの場にいる人間よりも勝っていた。気づけば彼女の周りには死体が溢れ、着ている白衣の半分に血が染みついていた。
「おえェ!」
赤虎組の構成員の、おそらく若手の誰かがその姿を見て嘔吐した。経験が少ないのだろう。ただそうなるのが普通の人間だ。
しかし、ここには普通になりたいと思うだけでなれていない人間が山ほどいた。偉炎は持っている拳銃を容赦なく登ってくる赤虎組の構成員に向けた。
「っく!」
偉炎は少し戸惑いながらも引き金を引いた。今彼がやっているのはシューティングゲームの現実版だ。どれだけVRのゲーム技術がよりよくなってもこの臨場感はどんな人間でもためらう。一方雪愛はまるで作業のようにナイフを投げている。
「た・・・!助けて!」
雪愛のナイフで足の筋をやられた敵がいるそうだ。その人は全力で降参していた。しかし、雪愛はその声を自身に届ける前にナイフを投げ相手の喉を切った。
「・・・雪愛・・・」
偉炎は雪愛の冷徹さを改めて意識してしまった。彼は初めて会った時、雪愛は敵と認識するとともに攻撃を仕掛けてきた。そこまでの覚悟を持ってはじめて戦闘ができるのだ。そんな物を偉炎はまだ持っていないのかもしれない。
「戦いなさい!」
雪愛はナイフ投げながら偉炎に叫んだ。
「私がやっていることは残酷かもしれない!でも、生き残るために!目的を遂げるためにも戦わないと!ボーとしていないで目の前に敵を倒さないと!」
彼女も彼女で本気だ。決して心からやりたくないのは分かっている。それでも非道にならないと未来を守れない。彼女のナイフには彼女自身の未来がかかっている。
「分かった。」
偉炎も引き金を引いた。
本格的な戦闘が始まって数分、体育大会は相変わらずの盛り上がりを見せているが、校外でも激戦が広げられていた。
「偉炎!右にいった!」
「分かった!」
「おりゃ!」
高校生三人が迫りくる大人が学校に侵入しないように懸命に戦っていた。特に優雷は接近戦で戦いつつ何回も蜻蛉切を振り回さないといけない。)かなりの負担だ。
しかし、そんな彼を切風がバックアップしていた。彼女は目の前の敵を倒しながら優雷が危なくなったらすぐに駆け付け持っている日本刀を振りかざす。
「くらえ!」
偉炎に近づいてきた構成員が容赦なく殴りかかる。それに対して偉炎は早めに引き金を引いた。
「隙あり!」
しかし、さらにその後ろから敵が刃物を持ちながら突進してきた。しかも、偉炎はさっきの一発で弾丸をリロードしなければならないのだ。
「まじか!」
偉炎は拳銃で刃物を受け止めた。ただここまで近距離まで来られると銃よりナイフの方が強い。
(マズいマズい!死ぬかも!)
しかし、ここで一本のナイフが偉炎の目の前にいた敵の首に刺さる。どうやら雪愛が助けたようだ。守るとか言っていた偉炎が逆に守られてしまう形になってしまった。
「すまん!助かる!」
偉炎はそういいながらリロードを進めた。この状況下でじっとして居る時間がないことを偉炎もそろそろ理解したそうだ。彼は持っている拳銃で再び引き金を引いた。
戦況は五分五分だった。確かに赤虎組の構成員が次々とやられているため一見すると偉炎たちが有利にも思えないはない。しかし分かって欲しいのは、圧倒的な数だ。まだまだ数十人は確実にいる。この差はよほどのことがない限り縮まらないのだ。どれだけがんばっても、どれだけ工夫しても一人にできることには限界が来る。そしてその時は着てしまったようだ。
「やべ!」
最初に崩れてしまったのは優雷であった。彼は一人で充分に戦っていた。目の前にいる敵を蜻蛉切(優雷の武器、伸縮可能の槍で電流を流すことができる。)で一人でも多くねじ伏せていたがここで思わぬことが発生する。
「・・・こいつだけは・・・離さない・・・!」
なんと敵の内の一人が優雷の蜻蛉切を刺されてもなお、死なずに抑え込んだのだ。これに関してはさすがの優雷も、
「な・・・!まじかよ!」
とビビってしまった。そして、そんな余裕もなく敵は迫ってくる。優雷の背後に別の赤虎組の構成員が攻撃を仕掛けたのだ。