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羅刹の紅(小説投稿)第六十六話

「なるほどね・・・一年も経たないうちにこの町は色々と変わってしまったのね。」
 雪愛は静かに紅茶を飲んだ。応接室に置いてある古時計は六時半を指していた。
 三人は応接室にいた。雪愛の部屋での戦いの後、高校生三名はとても話し合える状態ではなかったため一度解散した。偉炎は軽い処置を行い、本日二度目のクリーニング室で服をきれいにした。優雷の方はかなりのケガを負っていたため、黒川に連れられて医務室に連れていかれた。その後、大事には至らなかったが一応のため優雷は医務室のベッドで安静にすることになった。雪愛も着替えたり、部屋を片付けたりとやることはいくつかあったようだ。その後、偉炎、雪愛、黒川は落ち着いて話をするため再び応接室に集まったのである。
 ちなみに雪愛の服装はミントの色をしたパンツにベージュブラウスを着ており、その上から白のジャケットを羽織っていた。客観的に見てファッションとしておしゃれなのは間違いなかったが、あの雪愛がそんなセンスのいい服選びができるとは到底思えない。おそらく主人に恥をかかさぬよう黒川が用意した物だろう。
「なんと!王電家の御曹司を襲った挙句、優雷殿の妹までそのような目に・・・!」
「えぇ、それに赤虎組が行っていた実験というのも気になるわ。ろくでもない事なのは目に見えているけど。」
 雪愛と黒川は偉炎から赤虎組について聞いていた。そして、それが自分とは無関係でないことを察した。
「そう。この町で赤虎組は完全に何か悪いことを企んでいるのは間違いない。そして、その災いは雪愛さんたちも取り巻くだろう。」
 偉炎は自身の見解を端的に述べた。
「それで・・・私に協力してほしいってことかしら?」
「そうなんだ。だから一度でいいから学校に来て欲しい。そして、僕たちが所属している一般部に入部してくれないか?」
 雪愛は間を置いた。おそらく彼女の中でも色々と葛藤するものがあるのだろう。去年から不登校になっているため不安もあるだろうし、赤虎組という恐ろしい集団にいきなり立ち向かえと言われて二つ返事でOKというわけにもいかない。
「・・・私が一般部に入ることで得られるメリットは何かしら?」
 雪愛は自己へのメリットを問いた。
「君の安全が保障される。さっきも言ったが赤虎組は王電家の御曹司を人質に取ろうとしていた。だから今後財閥関係の人間は襲われる可能性は充分にある。そしてそれは今川家も例外ではない。財産は今でもかなりあるそうだし。それを狙って君を襲いに来るかもしれない。だから一般部に入って僕たちと切風という顧問で君をバックアップする。」
「なうほど。」
「それに退学を回避することができる。どんな形であれ学校に登校することができれば、当然君の退学は免れる。そうすれば今川家の威厳を保ちつつ、未来が開けるかもしれない。だから一般部は学校に行くための建前だと思ってくれて構わない。」
「・・・悪くないわね。それに顧問の切風さんとも会ってみたいわ。今の話を聞いている限り、相当腕に自信があるみたいね。それにあなたたちみたいな変人をこの家に送ってくるなんて常軌を逸しているわ。」
「正解。」
「え?」
「いやなんでもない。」
 偉炎は素で答えた一言を隠すためすぐに別の一言を述べた。
「だから・・・どうだろう。一般部に入ってくれないかな?」




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