羅刹の紅(小説投稿)第八十話Part2
〇あらすじ
普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」と切風の三人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
六月、偉炎と優雷は部活を作るには少なくとも三人の生徒が必要であることを突き付けられる。(切風は顧問)そのため偉炎たちは新たな部員として、不登校であるが同級生の「今川雪愛」を勧誘することにした。説得もあり学校に来た雪愛は一般部に入る代わりに依頼を出した。それは町の教会にある今川家の財宝を探すことであった。偉炎、優雷、雪愛は町にある教会に向かうのであった。ただ、その財宝は赤虎組も狙っていたのだ。そして、同じ時間、同じ場所にいたそれぞれは戦闘状態になってしまう。連携がうまくいった偉炎たちは勝利を収めることができた。目覚めた偉炎は学校の保健室にいた。
〇本編
ウイーン
保健室の自動ドアが開いた。そして、優雷と雪愛が一緒に入っていたのだ。
「お前たち!」
偉炎は分かりやすいぐらい驚いていた。
「よぅ偉炎!元気だったか?!目を覚ましてよかったぜ。」
「全く・・・いつまで寝ているのか心配したわよ。このまま私のせいで死んでしまったかと思ったわ。」
そう言いながら二人は偉炎の寝ていたベッドに近づいた。そして、雪愛は持ってきた果物を机に置いた。
「いやーまさかあの時はさすがにビビったな。教会で偉炎が挙動不審になったから雪愛が手刀で首をたたいて気絶させた時はこの女のねじが狂っていると思ったぜ。」
「は?あのままこいつを放ってはいけなかったでしょ。逆に私に感謝してほしいぐらいだわ。」
「何だと!もしこのまま偉炎は目覚めなかったらどうするつもりだったんだ!」
「?そこまでの人間だっただけよ。」
「このあんぽんたんが!」
優雷と雪愛が怪我人の目の前で喧嘩をしそうになった。
「まぁまぁ、落ち着きなさいな二人とも。」
ここに来て切風が珍しく仲介役になった。この部屋の主であるから当然だが、もし普段なら
「よっしゃー。もっと騒げ騒げ!」
と更にあおるのだが今日は別にやりたいことがあるらしい。
「とにかく私の話を聞いてくるかな。」
「はい!切風さん。かしこまりました。」
優雷はすぐさま話すのをやめた。これにはさすがの雪愛を引いていた・・・
「よし、まずは三人とも初任務おつかれさま。色々とあったようだが五体満足で戻ってきたことには心から嬉しく思っている。」
(何かあるとわかっていたくせに・・・)
雪愛は本音を隠した。
「それぞれ言いたい事などあるだろう。けどまずは・・・」
雪愛ちゃん!ようこそ一般部へ!
そういうと切風は表情が180度変わり、後ろに隠していたシャンパンを次々に、そして豪快に開けた。
「うわぁ!」
偉炎が驚く。そして、シャンパンは事前に振っていたからかどうかは知らないがビンから勢いよく吹き出し保健室にいた四人は瞬く間にシャンパンまみれになる。
「おい!ちょ切風!やめろ。この後の学校どうするんだよ。」
「そんなの知らない知らない!これで一般部は正式に発足した。」
「どういう意味だ?僕は今川家の財宝は手に入れることができなかった。だから雪愛は一般部に入ることは不可能では・・・」
「私の意思で入るのよ。」
雪愛は偉炎に話した。
「元々はいらない予定だった。けど、このままだと私は何もできないまま潰れてしまう。四大財閥とか赤虎組とかの勢力がいつ私の牙をむくか分からない。そして、私に残されている物と言えば残された今川家の財産と家にいる黒川、そして私自身という存在。これだけは何があっても守りたい。照人おじいさまに報いるためにも。」
泡まみれになっている雪愛はその長い髪をかき上げながら淡々と話す。一方で切風と優雷は冷蔵庫からシャンパンを次々と取り出して騒いでいた。一応、確認しておくが現在の時刻は午前八時過ぎ、生徒たちの楽しく優雅にクラスの席についているころである。
「・・・なるほどね。」
「そのためにも仲間が必要だった。だから私は一般部に入ることにした・・・悪い?」
「いや、ぜんぜん。」
偉炎は雪愛に僅かではあるものの尊敬してしまった。まだ十六歳の彼女にとって今の状況はあまりに重すぎるだろう。それにも拘らず引きこもりから脱して誰かの思いに応えるために答えを出した。普通ならできない。しかし、偉炎は彼女に尊敬の言葉を言わなかった。なぜなら、ここで一言済ましてしまえば他人扱いになってしまうからである。それだけはお互いに本望ではない。それに偉炎は今でも覚えている。彼は今川家の別荘で雪愛と初めて会い「君を守りたい。」と叫んだ。この言葉を忘れないためにも大切なのは行動だ。そしてそのためこれから先、青春というものを代償にしてとんでもない敵と戦わないといけない仲間にはまずこの一言からだろう。
「よろしくな。」
「えぇ、こちらこそ。」
二人が正面で見つめ合った。
・・・ここで感動的な終わり方にもできるが残念ながらここで偉炎は自分が男性であることを思い出した。
(やばいやばい!雪愛の制服が透けてる!)
広星高校のシャツは灰色で肌が見えないようになっているがそれでも隠すことができなかった。シャンパンでびしょびしょになってしまった雪愛の制服からはその細いラインと豊かな胸部が隠しきれていなかった。そして、白い肌が制服の灰色からでも分かるぐらいに見えてしまっていた。そして、視線を隠し切れなかった偉炎と肌を隠し切れなかった雪愛は同時に叫んだ。
「「あーーーーーーーーーー」」
雪愛は防衛本能が働きすぐさまナイフを手にした。そして迷うことなく偉炎につっこんだ。ちなみに殺意は高めだ。
「よー!どうした?そんなパーティーピープルみたいに叫んで。私も混ぜろ!」
「あ!ずるいですよ。俺も楽しみたいです。」
しかし、切風と雪愛の肩に、優雷が偉炎の肩によりかかった。おかげで保健室が殺害現場にならずに済んだ。
「面白くなってきたな!これからも一般部を盛り上げていこう!」
最後に切風が生徒三人をその小さな腕で抱きしめてスマートフォンで写真を撮った
こうして一般部は誕生した。その後、彼らは赤虎組とどういう争いをするのか町の人々は知らない。しかし数か月後、この二つの陣営はこの町にとんでもない災厄をもたらすのだが、逆にそれを知っている方が気持ち悪い。
この一件で彼らたちはハッピーエンドで終わったと言っていいだろう。偉炎はかりそめの普通を継続することに成功した。優雷もなんやかんだで大きなけがをすることなく赤虎組を倒すことができた。そして雪愛は過去の因縁を見事に断ち切り、生き続けるための理由を見つけた。問題は山積みだが、それでも保健室で見せた笑顔は本物であった。