羅刹の紅(小説投稿)第八十二話Part2
〇あらすじ
普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校でかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
六月下旬、偉炎と優雷はもう一つの部活であるハンドボール部の大会に出場していた。試合に勝った偉炎たちは応援していた切風と雪愛と合流して勝利をお祝いするのであった。
〇本編
ハンドボール部に試合が終わったのは午後の四時。その後、帰る準備が終わったハンドボール部はいったん解散してそれぞれが帰路についた。先輩たちはそれぞれ仲がいい人と食事に行ったりする人もいたが、偉炎と優雷は切風と雪愛と合流し、近くにある居酒屋に移動した。
「プハーーーーーーーーーーー!すいませーん、ビールもう一杯ください!」
「ちょっともう三杯目じゃない!そろそろやめときなさいよ。」
「いいじゃないかぁー、あっ、雪愛ちゃんも飲む?」
「未成年よ!」
居酒屋では切風は安定の酒乱であった。四人の内、唯一飲酒ができる切風だが彼女だけで四人分の酒の量は飲んでいる。
(全く、周りに変な目で見られていなければいいけど。)
偉炎は居酒屋に奇跡的にあった油そばを食べていた。一方、優雷はちゃんこ鍋(二杯目)をがつがつ食べていた。切風はジュースを飲みながら切風の面倒を見ていた。
居酒屋の雰囲気はいつも時代になっても変わらない。それぞれが部屋の中でお酒を飲みながらワイワイと話し合っている。ただ、注文などは全てタブレット端末で行い、食事などを作るのは汎用性ロボットになってしまっている。もちろん食事を運んでくるのはAIロボットである。ただ、そのおかげで効率が良くなり早めに注文が来たりする。現に油そばがあったと気づいた偉炎はすぐさま注文、五分で届き少し感動したとかしないとか。
「っていうか偉炎~、私のチアリーダーの姿どうだった?めちゃくめちゃ可愛かったでしょ~。」
切風は偉炎にくっついてきた。偉炎は面倒くさいと本気で思った。
(今おいしく油そば食べているのに・・・)
ただここで偉炎は少し嫌がらせをしようと試みた。
「いや、雪愛が着たほうがもっと似合っていたと思うよ。」
偉炎たちの机が一瞬で凍った。偉炎の発言で全員の怒りを買ってしまったからだ。彼に弱点がいくつかあるが、その一つに女性の気持ちを察することができない点だ。今まで誰とも付き合ったことがないチェリーボーイはまず切風をほめなかった。そして雪愛に対してセクハラに近いことを、最後に切風が大好きな優雷の怒りを買うようなことと捉えられたのだ。
「「「何だよ偉炎―――!」」」
三人は一斉に偉炎に襲い掛かった。ちなみに彼の食べていた油そばはその騒動の中優雷に全て食べていた。
「・・・すいませんでした。」
偉炎は何とか生き残ることに成功した。来週も試合があるにもかかわらず彼は全治一日の軽傷を負ってしまったのだ。原因はマジれもない、偉炎自身である。
「全くもう!私は一般部の顧問なのよ!なんでこんな惨めな思いをしないといけないのよ。」
「・・・最低。」
完全に女性陣に嫌われてしまった。言葉というのは怖いものだと偉炎は心から感じた。それとともにこの雰囲気を何とかしないと少し気まずくも感じていた。
「それにしても今日の試合は暑かったな~。試合中のあの感じはマジで楽しいわ。」
優雷はよく分からないことを言い出した。
「そういえば雪愛は運動部には入らないのか?ハンドボール部入れよ。」
「いや、ハンドボール部は男子しかいないでしょ。なんで私が入らないといけないのよ。それに私は一般部に所属しているから問題はないわ。あなたたちがハンドボール部で忙しい間にも私が色々とやっていたのよ。とは言っても荷物を運んだりとか人間関係の悩みを聞いていただけだけど。」
一般部の表向きの目的は学校での生徒の悩み事を相談することだ。そして、なんやかんだで週に一、二個ぐらいの案件は来ていたらしい。それを放課後、雪愛は保健室に来て相談に乗り、それを解決していたらしい。
「まじか・・・それは知らなかった。ありがとう。」
偉炎は部長として切風に感謝した。一般部はきちんと活動していた。そして雪愛は一人で難なくこなしていたのだ。これは意外にも雪愛の丁寧さが光った。
「別にたいしたことしていないわよ。家に帰っても暇なだけだし・・・ただ・・・」
「ん?どうした?」
切風は雪愛が何か言いたそうにしていることを察し近寄った。
「・・・みんなと一緒に・・・面白いことをしてみたい。」
雪愛は少し頬を照らしながらつぶやいた。どうやら彼女はハンドボールの試合を見た後に青春みたいな出来事をしてみたいと思っていたようだ。やはり、どれだけ冷静の大人のような性格をしていても高校生は高校生、友達と遊びたいという気持ちがある乙女なのだ。
その瞬間、偉炎が名誉挽回のため立ち上がり発言した。
「体育大会!!」