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羅刹の紅(小説投稿)第二十七話

「うおーーーーーー!」
偉炎はハンガーが思ったより速く動いたことに驚く。そしてついに戦場に立った。
「なんだこいつ!」
「っ!!」
到着してからは一瞬であった。まず、一番近くで屋根に穴を開けようとしていた男の肩に穴を開ける。
「がはぁ!痛い痛い。」
 断末魔が平和な町に響き渡る。そして正面の至近距離から撃ったため偉炎は男の返り血をドップリと服に浴びてしまった。
(人を撃ってしまった!やばいやばいやばい!)
彼は自身の行ってしまったことを血によって味わってしまった。負傷箇所が肩であるため致命傷ではないものの、この場で何の応急処置をしなければ出血多量で死ぬかもしれない。しかしこの時、偉炎は幸運というべきか、撃ってしまった罪悪感よりもアドレナリンによる高揚感の方がギリギリ優っていた。そのため、ここでは何とか理性を保って次の標的に狙いを定めるため、ARコンタクトに「TARGET」と表示された敵に拳銃を向けることができた。
「な!誰だてめえ!」
一発目の銃声が大きく響いたせいか近くで作業をしていた男が異変に気付く。しかし、戦闘に入る間もなく、偉炎によって頭を撃ち抜かれてしまった。おそらく即死だろう。偉炎は正式に人殺しになってしまった。しかし、今の彼にそんなことを考えている暇などない。
二発撃ったところで偉炎は左に寝返りをした。これは、右手に握って拳銃を撃った時の反動が思ったよりも大きかったので、それを緩衝するためである。
(切風に直接レクチャーしてもらってよかった!!)
偉炎はこのとき屋根の中央あたりにいた。
 この勢いで三人目を打ち抜こうと思ったがここでハプニングが起こる。撃った瞬間の反動と敵が偉炎に気づいて身をかがめたせいか、三発目がよけられてしまったのだ。どうやら赤虎組の組員はある程度の身体能力を持ち合わせているようだ。
(外した!)
ここに来て偉炎に恐怖が瞬間的に生まれた。それはこの任務に失敗した時の未来である。ここで負けたら赤虎組に殺される、もしそれを免れることができても任務失敗でそのまま拳銃所持で逮捕。どちらにしても残り三発でケリをつけるしかなかった。偉炎の心が最大まで熱くなった。
「ここで死んでくれぇ!」
彼は恐怖を心からかき消すためにとてつもない叫び声を発しながら四発目を、先ほど外した男に向かって走りながら撃った。弾は男の膝に当たり、何とか戦闘不能にまでさせた。男は痛みで先程偉炎が叫んだ以上の声を上げた。
ここにきて偉炎の息が荒くなる。一般の高校生が拳銃を四発も人に向かって撃ったのだ。当然といえば当然であった。しかし、五発目は意外な形で発射された。残された敵は二人。その両名が同時に反撃に出たのだ。彼らは今行っている作業を中断し、それ妨害する者、つまり偉炎を排除しようと行動に出る。そこで懐から偉炎が手にしている物と似た形の物をほぼ二人同時に取り出したのだ。

拳銃である。

赤虎組の実体がまたも表に出た。
偉炎は切風に教えてもらったことを瞬時に脳裏によみがえらせた。
(挟まれた場合、その場で倒れ込みながら後ろの人間の足を狙うこと・・・!!)
とっさに二人のうち、自分の後ろにいた一人を後ろに倒れ込みながら撃った。生き残りたいという生き物が持つ生存本能のおかげだろうか、その弾は見事に命中した。
しかし、偉炎はここで最大のミスをしてしまう。瞬発的に撃ったため発射したときの反動を抑えることができず拳銃を落としてしまったのだ。
(まずいまずい!!)
思考が停まる。しかし、ARコンタクトに「MOVE」という赤い文字と生き残るための最善のルートを示してくれたため偉炎は無意識にそれ通りに動いた。
その間に、最後の一人が
「死ねや、クソガキ。」
と叫びながら銃口を偉炎に向けた。偉炎はとっさにしゃがみこんだ姿勢からを少し起き上がった状態になり、そのまま拳銃を拾う。その動きが少し不規則だったためその最後の一人が撃った一発が偉炎の頭をギリギリのとこで外れた。
しかし、この一発で偉炎の恐怖は最高潮まで達してしまう。銃を向けられ、撃たれることの怖さに偉炎はついに耐えることができなくなったのだ。弾の音、かすめた時の空気、弾の速さ。何かもが心を凍てつかせた。そして、落とした拳銃を拾ったところで偉炎は相手の方が自分より早く撃つことができることに気づいてしまった。要は、彼が拳銃を拾って相手に向けて撃つ時間と相手がもう一発撃つ時間を比べて後者のほうが二秒、いや一秒早く可能であるということだ。

(ここで死ぬ・・・)




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