エピソード0 「フライト・デセプション」#10
Chapter 10
北九州市役所——
緊急対策会議が開かれ、市長を含む関係者が集まっていた。状況は悪化の一途をたどり、警察関係者や政府の担当者たちの表情には焦りが滲んでいた。
「現在の状況は?」
「北九州空港の占拠が続いています。福岡県警としては自衛隊への出動要請を検討すべきかという意見も出ていますが……」
市長は眉をひそめ、椅子の肘掛けを指で叩く。
「本当に自衛隊を出す必要があるのか? まずは福岡県警の対応を優先すべきではないのか?」
県警の幹部がため息混じりに応じた。
「市長、このままでは人質の安全が保証できません。我々としても即時突入を判断したいのですが、決定には市長の承認が必要です。」
会議室に重い沈黙が落ちる。
市長は腕を組みながらしばらく考えた後、口を開いた。
「……多少の犠牲はいたしかたない。大事なのは、この事態を早急に収束させることだ。」
その発言に、県警幹部たちは一瞬言葉を失った。
(この人間に決定権を握らせていいのか……?)
しかし、時間は限られている。
「……福岡県警SATの出動を承認する。ただし、人質の安全は多少はいたしかたない解決を最優先に行動すること。」
県警幹部が頷き、即座に指示を出した。
「SAT部隊、準備を開始しろ!」
市長は息をつき、満足げに頷くと、突然記者会見を開くよう指示を出した。
北九州市役所 記者会見場——
市長は記者団の前に立ち、満面の笑みを浮かべながらマイクに向かう。まるで自分が英雄であるかのような態度だった。
「現在、福岡県警SATが北九州空港の奪還作戦を開始する準備を進めております。警察が適切な対応を行い、市民の皆様の安全を確保する所存です。」
記者たちが一斉に手を上げた。
「具体的にどのような作戦が実行されるのですか?」
「まずは、ハイジャックされた飛行機の乗客たちを救助し、その後、ターミナルを奪還する計画です! えー、皆さん、安心してください。我々は万全の対策を講じています!」
市長は自信たっぷりに胸を張り、まるで自分が指揮を取っているかのような口ぶりで語った。
「すでに福岡県警SATが突入の準備を進めており、間もなく作戦が開始されるでしょう。」
「人質の安否については?」
「もちろん、最優先で確保します! しかし、犯人たちも焦っているでしょうしねぇ、多少の混乱はあるかもしれませんが、それも織り込み済みですよ!」
市長は余裕たっぷりに笑い、記者たちに向かって得意げな表情を見せた。
しかし、この市長の軽率な会見はすぐにSNSで拡散され、世間から大バッシングを受けることになる。
ネット上では、市長の無能さを嘆く声や、作戦の情報を無駄に流してしまったことへの怒りが渦巻いた。
#大丈夫か? #作戦バレバレ #筒抜け #間抜け #エンタメ政治家 というハッシュタグが急上昇し、炎上状態となる。
その頃、本部。
ブルーはモニターを見ながら呆れた声を上げた。
「おいおい、ちょっと待てよ……www 今、記者会見やったのか?www」
ホワイトのスマホにも通知が届く。
「……ニュース速報? まさか。」
スマホの画面には、『福岡県警SAT、北九州空港へ突入へ』 の見出しが表示されていた。
ブラックは呆れ顔で舌打ちする。
「マジかよ……こんなもん流されたら、敵に突入作戦バレるじゃん。」
レッドもため息をつく。
「報道公開されたなら、犯人たちは当然警戒する。最悪、時間を稼がれるかもな。」
ホワイトは深く息を吐き、冷静に言った。
「……仕方ない。予定より早く動くぞ。」
北九州空港 ターミナル——
犯人グループのリーダー格が、人質を見回しながら苛立った様子でつぶやいた。
「……おい、戻りが遅いな。飛行機の連中、何をやってる?」
部下がスマホを開き、ニュース速報を確認する。
「……ボス、これを。」
スマホの画面には、『福岡県警SAT、北九州空港へ突入へ』の見出し。
リーダーの顔が険しくなる。
「……こいつらバカにしてるのか? 作戦が完全に筒抜けじゃねぇか!」
その場にいた犯人たちが動揺し、次々とスマホを確認し始める。
「このままだと、奴らが先に動くぞ!」
リーダーは苛立ちを隠せないまま、人質たちに向き直る。
「……おい、お前ら。こっちに集まれ。」
犯人たちは、人質の動きを監視しながら、迎えに行かせた仲間の生存を疑い始めていた。
そして、まもなく彼らは気づく。
——戻ってくるはずの仲間が、いっこうに連絡をよこさないことに。