法廷に響き渡るスローモーションの「アベやめろ」(ヤジ排除国賠訴訟第6回期日報告)
2020年12月21日にヤジ排除問題をめぐる国賠訴訟の第6回期日が札幌地裁で開かれました。29席の傍聴席に対して、41名の希望者がいたため抽選になりました。傍聴に来てくださった方はありがとうございます。
次回の裁判期日は2月24日の15:00からです。傍聴を希望される方は、30分前までに札幌地裁へお越しください。
「一般聴衆」が「手で体を押した」?
今回の期日では、書面を交換し、被告側が証拠として法廷で動画を流しました。
道警が今回の裁判で当初から主張している「排除の正当性」は、ヤジった人物の周囲に差し迫った危険性があったということでした。つまり、「ヤジを取り締まったのではなく、ヤジを飛ばす人に対して危害を加えようとしていた聴衆から避難させるために移動させたのだ」というのが、彼らの基本的な主張です。
では、具体的にそこにはどのような「危険で緊急性のある状態」があったのか。今回、道警側はそれを説明するため、原告(ヤジポイ)側が以前に提出した排除場面の動画(乙114号証)を編集した動画を流しました。
それがこちらの動画になります。
動画の15秒から25秒の静止している部分を見てもらうとわかりますが、ヤジを飛ばす大杉の左から伸びてきた「手」があります。被告側はこの部分を切り取って「聴衆が手で原告の体を押している」「それゆえに危険があった」と主張したのです。
しかし、この動画だけを見て「なるほど、道警の言う通りだ。確かにここで聴衆から押されており、危険な状況があった」「だから排除は正当だ」と断定することができるのでしょうか?
法廷でも原告側代理人から意見が出ましたが、動画を見る限り、これが誰のものかはわかりません(手の主はほとんど動画に顔などが写っていない)。少なくとも「一般聴衆」だと断定するだけの理由はない。道警側は、自らの主張を通すためには、その「手」が「一般聴衆」の「手」だったと証明する必要があります。
むしろ、この場面で押してきた(危害を加えた)人物に対して、警察側が一切介入していないことから見ると、私服警官の「手」であった可能性すらあります。もしそうだとすれば、「警察がヤジを飛ばした人物を押した行為をもって『危険』を認め、ヤジを飛ばした人物を警察が排除した」という意味不明なことすら起こります。要するに、「警察が押したことで危険が発生したので、別の警察が排除した」というマッチポンプ状態になってしまうわけです。
また、この「手」が実際に「一般聴衆」の「手」だったとしても、被告側は警察官職務執行法(警職法)に基づいて、大杉の「生命や身体に被害が及ぶ状態」、又は「聴衆に危害が及ぶ状況であった」ということを立証しないといけません。道警が持ち出している、警職法4条・5条という法律は、「抽象的な危険の可能性」に対して使うものではなく、具体的で差し迫った危険がないと使えないからです。「押してきた人物は一人。周囲には大量の警察官」という状況であれば、その押してきた人物にのみ警察が介入すれば良い。「排除ありき」であったとすれば、やはり警察の行為には正当性がないことになる。道警側には、より具体的な説明を求めたいところです。
ちなみに、バラエティ番組のようなスローモーション映像を流れた法廷では、そのシュールな状況に傍聴席からは失笑が漏れていました。道警という組織のギャグセンスは底なしです。
ヤジポイ側弁護団の「ねちっこい」反論
今回の期日では、前回の期日に道警側から出された書面に対して、原告側であるこちらから反論の書面を2つ提出しました(準備書面3、準備書面4)。前者が大杉に対する排除行為について、後者が桃井に対する排除行為についての反論です。
この書面ではこれまでの道警側の主張に対して、事実をもとに非常に「ねちっこく」反論しています。こうしたところに、ヤジポイ側弁護団のいやらしさが出ているでしょう(もちろん良い意味で!)
例えば道警側は裁判で、ヤジを飛ばす大杉に対して「おまえが帰れ」「うるさい」などと怒号を飛ばすなど、嫌悪感や敵意を抱く聴衆がいたと主張しています。しかし、怒号であるなら「いずれかの動画において録音される程度の音量で発せられたものであるはずだが、何ら動画上確認できない」と一刀両断。
また、「大杉が街宣車に向かって走った」「安倍首相に危害を加えるおそれがあった」と主張する道警側への反論も見事でした。本裁判では道警側から「現場にいた警察官の報告書」というものが提出されていますが、今回の原告側書面ではそれら「警察官Aの証言」「Bの証言」「Cの証言」を順番に取り上げ、その整合性のなさ、非合理性、矛盾点を突いています。こうした点についても「さすが弁護士」という感じのいやらしさです(だからいい意味で!)そして、被告側の主張は「客観的状況を歪める表現」だと結論づけています。
ところで、道警側の書面に一貫していることですが、彼らの主張はほとんど「デモはテロ」というのと変わらないもので、「批判の声を上げるものは危険行為におよぶ蓋然性が高い」と言わんばかりの主張をしています。
しかし、「ヤジはテロ」ではありません。道警側の「ヤジ=テロの準備行為」くらいの主張は、一周回って「私達はヤジを排除するつもりでした」と述べているようなものだと思うのです。彼らは民主主義や言論の自由についてどういう理解をしているのか。本当に理解に苦しみます。
現場にいた人々の証言を提出
加えて、今回の期日では、
A、三越前で「アベやめろ」と発言し警察に付きまとわれた男性
B、新札幌で「ABE OUT」と書かれたプラカードを持っていたところ警察に取り囲まれ所持品検査をされた男性
C、桃井が排除される現場を近くで見ていた女性
の3人分の陳述書を提出しました。これらは、今後の証人尋問に向けて、こちら側の主張を補強するものとして提出した証拠です。
道警側は、「ヤジを飛ばした人物は危険な行為をするおそれが強かった」ともっともらしいことを言っていますが、実際にはなんの危険性もない別の場面でも、「安倍に対して批判の意思を表明した」人物が、警察によって目をつけられ、標的とされていたわけです。
また、これらの陳述書を読むと、「警察による排除はおかしい」と感じて、この裁判に協力してくれる一般市民の方がいるということも改めてわかります。排除された場面で助けてくれる人はいなかったけれども、その後に協力・共感してくれる人や、密かに賛同している人たちがいる。そうした方々に私達のたたかいは支えられているのだと、しみじみ感じる年の瀬でした。
次回以降の裁判日程について
道警は次回期日に再び反論の書面を出すそうです。当初は年度内に結審すると見ていた裁判ですが、道警の粘り(しつこさ)によって長引いています。
一方、こちらとしてはするべき主張は出し尽くしたと考えています。次回の期日で新しい証拠が出てこない限り、次々回には(ついに!)排除した警察官を呼び出しての証人喚問に向けた動きが始まるかもしれません。
まだまだ長引きますが、2021年もヤジ排除をめぐる動きをあたたかく見守っていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
ヤジ排除裁判でまたも珍主張|道警・借り物動画に傍聴人失笑 | HUNTER(ハンター)
HBCニュース “ヤジ排除”裁判、道警側が正当性主張
道警の主張「動画と異なる」と反論 ヤジ排除訴訟で原告側 札幌地裁:北海道新聞 どうしん電子版
朝日新聞 2020年12月22日朝刊北海道面 「必要な程度の制止ではない」 道警ヤジ訴訟で原告側
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