見出し画像

道警・検察がヤジ排除の見解示す「排除は適法で問題なし」(後編)

 前回の記事に引き続き、道警の主張について見ていきます。

(↑前回の記事。未読の方はこちらからどうぞ)

2020年2月26日 道警が排除の根拠を公式に答弁

 これまで7ヶ月の沈黙を保ってきた北海道警察が、ついに公式に「ヤジ・プラカード排除」の根拠を述べる日が来ました。

 午前中、北海道議会総務委員会で、道警トップの山岸直人(本部長)、原口淳(警備部長)、岡田昭広(警備部第2課長)らが答弁に立ちます。山岸以外の2人は、道警における警備・公安警察の管理者です。

ヤジ排除について

 ここでの回答は、前編で紹介した新聞記事のものと重なる部分もありますが、警察官職務執行法第2条、第4条、第5条、そして警察法第2条を根拠としたものでした。

 ここでの答弁は、本当に「荒唐無稽」と呼ぶにふさわしいものでした。

 道警の説明をすごく簡単にまとめるとこういうことです。

1,ヤジを上げた人物に対して周囲の聴衆が暴力を振るおうとするなど、緊迫した状況だった
2,ヤジを上げた人物が非常に興奮した状態で、周囲に危害を加えるおそれがあった

 「だから排除したのは正当な職務行為」ということです。

 この道警の主張が滑稽なのは、排除の根拠として「存在しない事実」が作り出されているからです。たとえば、最初に札幌駅前でヤジを飛ばした大杉については、「周囲の聴衆から拳で上腕を押されていた」「警察官がヤジを飛ばす男性に注意したが聞き入れなかった」と道警は主張していますが、そもそもそんな事実はありません。こっちからすると「なんの話?」という感じです。

 また、大杉が三越前でヤジって排除されたことについても、同様です。以下、岡田公安2課長の答弁。

「男性が、三越前の街頭演説場所で、安倍総裁の登壇する街宣車の直近に現れて、突如大声を出した上、さらなる接近を図る様子がみとめられたため、その態様からして、安倍総裁に物を投げつけたり、街宣車を蹴って破壊したり、安倍総裁をはじめとした周囲の人物との間でトラブルを起こして危害を加える恐れが認められました」
(太線部強調はヤジポイの会)


 安倍に対する敵意はともかく、暴力を振るおうとしている具体的な動きが、ここにありますか?ていうか、街宣車って蹴ったら壊れるんですか?
 また、この場面についても、道警側は「周囲の聴衆がつかみかかろうとしたので警察官が制止した」とありますが、そのような事実もありません。誰よりも先につかみかかってきた(さらに首を絞めにきた)のは、他でもない私服警官でした。


 「増税反対」と叫んだ女性(桃井)に関しては、「興奮した状態で聴衆がいる場所に進もうとしていたので警察官が声をかけたが振り払われた。叫びながら前に進もうとするのを制止する必要があった」とのこと。この、「前に進もうとした」という事実もありません(仮に前に進もうとしたところで、それが具体的な犯罪に直結する理由もありません)


 というか、二人ともヤジを飛ばし始めてから本当にあっという間に警察に身体をつかまれているので、「聴衆との間にトラブルが起こるひまもなかった」というのが正しい。そして、前回の記事でも述べたとおり抽象的な「トラブルの可能性」程度では、警察官職務執行法4条、5条を持ち出すことは正当化されません。

プラカード排除について

 では、プラカードについてはどうでしょうか。あの日の演説会場では、「年金100年安心プランどうなった」「老後の生活費2000万円貯められません」と書かれたプラカードを、市民団体の女性3人が掲げようとして警察官に止められ、取り囲まれています。これに関しては、検察が「事実を確認できなかった」と大規模にしらばっくれた事案です。
 議会の後に記者クラブ向けに開かれた道警による説明の場では、「風が吹いてプラカードが飛ばされるのが危ないから声がけした」、通行を妨げたことについては「要人の移動経路を確保するため」とのことで、根拠法令は警察法第2条とのことです。

 そもそも、警察法2条は警察官の理念を記したもので、具体的な警察活動の根拠として用意された法律ではありません。が、実際には柔軟な警察活動のために(超)拡大解釈されている現状があります。しかし、「風に煽られて危険」って、さすがにもっとまともな言い訳があるでしょう。

というか、プラカードが煽られて危険と言うなら、自民党支持者の無数のプラカードについてはどうなるんでしょうか。自民党に批判的なプラカードだけ吹き飛ばす風があるんですか? カミカゼ??


その他のこと

 その他、なんのヤジも飛ばしていない石井(ヤジを飛ばした大杉の友人)についてはどうなるのでしょうか。


 彼に対する付きまといについても警察法2条が根拠だそうです。山岸本部長の言葉によれば、

「札幌駅前で大声を上げた男性(大杉)がその後もトラブルを起こすおそれがあったため、警備に従事していた警察官が、それまでその男性(大杉)と一緒にいた別の男性(石井)から話を伺いながら同行したものであります」(カッコ内補足はヤジポイ)

 石井は、大杉がヤジを飛ばして強制排除されたことに顔面蒼白になり、その後、一瞬で「ストックホルム症候群」(※)に陥った人物です。警察に対してなんら反抗的な態度を取ることなく、ニコニコ世間話をしていただけ。なにかの犯罪行為を犯す可能性も兆しも、態度も、全くどこにも見受けられない。そんな人物に延々と集団でつきまとって恐怖を与えておきながら、「適正な職務行為でした」とはふざけた話です。
 山岸本部長は、明日にでも石井の家に菓子折りを持って謝罪に行くべきです(たぶん、実際に来たらまたこわがるでしょうけど)

(※)ストックホルム症候群: 誘拐や立てこもり、監禁などの人質となった人物が、その特異な状況から、加害者である犯人側に親しみなどを抱く現象のこと。


 それから、もう一つ。全く失笑以外のなにものでもない話もありました。

 それは札幌駅前でヤジを飛ばす大杉と警察が押し問答になっている時、その様子を撮影している桐島のスマホを、力づくで奪い取ろうとしてきた中年男性について。この人物は、安倍の乗っている街宣車の方向から近づいてきて、制服警官に注意されて引き返していった(街宣車のほうに帰った)人物です。彼は、背広に赤い花柄のバッヂをつけており、地下歩行空間では安倍の真後ろを歩いている。おそらくSP、ないしは自民党関係者なのではないかと想像されている。


画像2

画像1

画像3

(↑詳細)

 道警の報告では、制服警官がこの人物を止めたことも「ヤジ排除をめぐる警察官の活動」としてカウントされているのです。

男性(おじさん)が、大声で叫ぶ男性(大杉)に「選挙妨害はやめろ」と申し向けるとともに、女性(桐島)の携帯電話を払いのけ、さらにその携帯電話に手をかけようとしたことから、警備に従事していた警察官は、携帯電話を払いのけた男性(おじさん)を制止する必要があると判断し、当該男性を女性から引き離すべく移動させました。
(カッコ内補足はヤジポイ)

いや、このおじさんの話はどうでもいいですよ。笑

ていうか、一般人じゃないでしょ。聞いてないこと答えないでください。


 道警側の説明について、全てをここで取り上げませんが、一事が万事、このような調子で、

「とにかく警察は悪くない。法律に従って適正に職務を行っただけ」
「大声を上げたお前らや周りのやつらが暴れたり、不審な動きを見せたから対応しただけ」

と、テイストが一貫しています。

 この日、報告に当たった山岸本部長も、これまでの議会答弁での硬い様子とは打って変わって、肩の荷が下りたような、安堵した表情に満ちていました。

「道警組織も、警察庁も、そして官邸も追及されない完璧な主張……官邸の皆様、私は栄転できますよね……?」

 議会傍聴に訪れた全ての人が、東京方面に目線を送る彼の心の声を聞いたはずです。東京から出向している警察庁のキャリア官僚様にとって、北海道民の生活や人権なんて、クソに止まった蝿の足の動きほどにどうでも良いのでしょう。


いやいや、まだ終わってないから!


疑問点(山ほどあるのでごく一部だけ)

 今回の警察による答弁では、実はこちらが「排除された!」と主張している全ての場面について、説明したわけではありません。たとえば、桃井への二時間近い付きまとい行為(「ジュース買ってあげるから大声出さないで」)についての説明や、札幌駅前での大杉に対する何度目かの排除、取り囲みについては述べられていません。

 そもそも道警は今回の報告をするにあたって、私たち排除された当事者への聞き取りなどを、一切していません。この問題が起きてから現在に至るまでの7ヶ月の間、たった一度の打診すらなかった(いきなり連絡あってもこわいですけど)。ある事件について、被害者側への聞き取りを行わず、容疑者側の意見だけで判断することは普通ないでしょう。これで納得できるわけがありません。

 また、道警側は、現場の警察官の判断で、法律に従って「制止」「避難等の措置」を取ったと主張していますが、そうであれば、なぜ現場にいた無数の警察官は、誰一人として法的根拠を答えられなかったのでしょうか。ある警察官は、こちらの質問に対して「だからお願いなんです」と、警察の活動が「任意の協力を求めるもの」であることを示していたし、また、別の警察官は「(ヤジを飛ばすのが)法律に引っかかってるとかじゃなくって」と口にしていたわけです。
 そうした現場の状況との矛盾を突くだけでも、道警の主張は一切の信憑性を失うのではないでしょうか。


 それから、なぜこんな程度の説明をするのに、7ヶ月以上も時間がかかったのかも、全くわかりません。この結論を出すまでに、どの機関と、どのような口裏合わせを行ったのか。そうした背景も気になります。


 議会答弁後、夕方には司法記者クラブにて、ヤジ排除問題弁護団による記者会見も行われましたが、弁護団も呆れ気味で、道警の主張に反論していました。


 これについても、小野寺弁護士による解説(3)が公開されているので、興味のある人はご参照ください。ただし、小野寺さんもバカバカしくなって、途中で解説を辞めています。これが道警の作戦なのかもしれませんが、そんなことでこっちは諦めないですからね。


 最後に、道警側の議会答弁の文字起こしも用意しました。興味のある人は目を通してみてください。

 検察が不起訴にしようとも、民事事件としての国賠訴訟はまだまだ続きます。次回は、4/3の14:00から札幌地裁にて(抽選に備えて30分以上前に来るのがおすすめ)。みなさんの傍聴をお待ちしております。


(報道については、北海道新聞の記事が多いですが、道新は無料登録で月10本まで読めますので、「ヤジ排除ファン」のみなさまはぜひ登録してみてください。既に紙面で購読している人は、登録すればネット上の記事が追加料金なしで全て読めるそうです)



(2021年12月25日追記)

ヤジ排除問題における当事者であり、原告である「藤根」(仮名)については、裁判の途中から、本名である「桃井」名を公表することとしたため、この記事内の「藤根」という表記もすべて「桃井」に変更しました。

ヤジポイの会はカンパ(寄付)を集めております。いただいたカンパは、この「ヤジ排除」の問題に取り組む際に使わせていただきます。民主主義を守るための闘いを支える、あたたかいご支援お待ちしております。