道警・検察がヤジ排除の見解示す「排除は適法で問題なし」(前編)
この2週間ほどは、道警ヤジ排除問題に取り組んできた私達にとって、激動の週でした。出来事やニュースを、時系列にまとめて報告します。
記事の情報量が多いので、先に要点まとめ
・道警が「ヤジ排除は適法で問題なし」という見解を公表
・札幌地検が、「道警のヤジ排除は適法」として不起訴を発表
2020年2月17日 道弁連が理事長声明
北海道弁護士連合(八木宏樹理事長)が、道警に対して、「ヤジ排除をめぐる調査結果を早期に公表するように」と二度目の理事長声明を出します。「7ヶ月も説明しないでどういうつもりだ」ということでしょう。
朝日の記事によると、道弁連は「今後も道警が調査結果を公表しなければ、声明を出し続けるつもり」と語ったとのこと。このように立場を鮮明にして道警を批判してくれる方々がいることは、たのもしいです。
2月19日(木)NHKが報道「”排除” 問題なし」
NHK北海道で、「独自」と打ったニュースが流れます。タイトルは、「やじ“排除” 道警「問題なし」」。
見出しで既に目を疑いますが、そのニュースによると道警が首相演説の現場でヤジやプラカードを排除した件についての調査が終了し、見解を示す予定であること、そしてその見解は「排除には問題がなかった」というものであることが書かれていました。さらに翌週の議会でも、これについて答弁することも明らかにされました。
これまで7ヶ月以上沈黙していた道警が、ようやく口を開いたと思ったら、それは謝罪ではなく「問題なし」という開き直り。この件についての報道にあまり積極的でないNHKが、ここぞとばかりに先駆けて報じるところになにか引っかかりますが、ともかく新しい動きが出てきたことが報じられました。
2月20日(金)道警の主張内容が報じられる
道警の見解について、北海道新聞でも、より詳しい内容が報じられますが、その内容は驚くべきものでした。
それによると、あの日、道警の警察官が私たちを排除する際に用いた法的根拠は、警察官職務執行法第4条、第5条であったとのこと。
簡単に言うと、第4条(避難等の措置)は、ある差し迫った危険がある時に、そこにいる人を避難させるために、警察官が介入することを認めたもの。道新の記事によると、以下のような感じ。
「道警側は周囲に「首相の熱烈な支持者が周囲にたくさんおり、『安倍やめろ』と叫んだ男性が危ない状況だったので、守るために連れ出した」と説明しているという」
いやいやいやいや……! それはないでしょ!!
これは言うなれば「安倍信者=暴徒」説。「暴徒に襲われる差し迫った危険性があるから、警察が排除しました」ということですが、そんなバカな説明はありません。もしも周囲の人間がヤジった人に襲いかかってくるんだったら、周囲の人間を排除するなり、止めるなりするべきでしょう。っていうか、周囲の自民党支持者は警察に暴徒扱いされてるわけだけど、それでいいんですかね……
また、もう一つの根拠である第5条は「犯罪の予防及び制止」で、ヤジを飛ばした側が、周囲の人間に危害を加えようとしていた(現に危害を加えていた)から警察官が制止したということです。これも全く根拠となる事実がない。
この見解を踏まえて、我らが「ヤジ排除問題弁護団」の小野寺信勝弁護士が、反論を公開します。道新の記事を朝見てから、30分で文章を書いて掲載したとのことですが、いくらなんでも仕事が速すぎる。
詳細はリンク先をみてもらいたいと思いますが、上記の2つの法律で前提とされているのは、抽象的な可能性ではなく、具体的で差し迫った危険性や違法行為の可能性です。ただ漠然と「なにかやらかすかもしれない」程度では、警察が物理的に人の体を取り押さえて排除することはできない。ヤジ自体が法律に触れるものではない以上、今回の警察の主張に正当性を見出すことは不可能であると論じています。
また、この解説記事の面白い点は、弁護士側の主張を支える参考文献として、警察関係者が書いたものが挙げられているということです。
上記解説は「警察行政法解説(第二版)」に依っています。著者は、警察庁出身の元警察大学校長です。
警察のえらい人が書いた法律解説によって、警察のやったことが批判されている。この構図はちょっと面白いです。
2月24日(月)HBC「ヤジと民主主義」放送
HBC(北海道放送)製作のすぐれたキュメンタリー番組「ヤジと民主主義 ~警察が排除するもの~」が道内で放送されます。こちらはこれまでTBS系列で(ほぼ)全国放送され、現在はネット上でも無料配信されているので、見ていない方はぜひご覧になってください(3/31まで)
2月25日(火)札幌地検が不起訴処分を決定
道警が道議会で排除について見解を述べるのを翌日に控えたこの日、札幌地検が、ヤジ排除を行った警察官について「不起訴」の決定を下します。
これは、ヤジ排除を行った警察官に対して刑事告発・告訴がされていた件について、札幌地検が捜査を終えたということを意味しています。道警の行った排除行為について、札幌地検は「適法」と判断した上で、不起訴を決めました。これはどういうことを意味するか。
ヤジ排除に関して、検察が告発・告訴を受けてこれまで捜査していたのは、
1、「安倍やめろ」と叫んだ男性が、腕などをつかまれて排除された
2、「増税反対」と叫んだ女性が、つかまれて排除され、つきまとわれた
3、年金問題のプラカードを掲げようとした市民団体の女性が妨害を受けた
(すべて主体は警察官)
の3点でした。法律名としては、公務員職権濫用、特別公務員職権濫用、特別公務員暴行陵虐が該当します。
そして地検は、1,2については「適法のため罪とならず」、3については「事実が確認できなかったため嫌疑なし」とのことで、不起訴を決めました。ここでの検察の言い分は、「警察のやった排除行為は、そもそも合法だった」「プラカードに関しては、そもそも妨害して取り囲んだ事実が確認できなかった」ということです。
もっとも、ヤジポイの記事でも過去に触れたように、検察というのは警察と同じ捜査機関であり、行政権力の一部。必ずしも法律に忠実なる決定を下すとは限らない。だから、不起訴決定自体は想定していたことではあります。
しかし、今回特に注目したいのは検察庁の「適法」という判断でした。この主張のひどさについても、小野寺弁護士の解説(その2)を参照しましょう。
検察庁の不起訴処分は、(1)訴訟条件(親告罪の告訴等)を欠くことを理由とするもの,(2)事件が罪にならないことを理由とするもの(心神喪失を含む。),(3)犯罪の嫌疑がないこと(嫌疑なし)又は十分でないこと(嫌疑不十分)を理由とするもののほか,(4)犯罪の嫌疑が認められる場合でも,犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないこと(起訴猶予)の4つに大別されます。
ほとんどの不起訴事件は(3)嫌疑不十分又は(4)起訴猶予です(不起訴処分のおよそ9割)。
だから今回、不起訴処分が下されるとしても、(3)か(4)であろうと想定していた。きっと「道警の行為は違法行為と疑うほどではない」「道警の行為は違法の疑いが強いが、今回は起訴しない」という判断でお茶を濁すのだろうと。
しかし…
不起訴理由は(2)事件が「罪にならない」でした。地検は道警の職務行為が適法だと積極的に評価しました。
2月20日の弁護士コラムで道警の職務行為が明らかに違法であることを指摘しましたが、およそ法律家であれば、道警の行為を「適法」だと認定することは不可能です。というのも、これは解釈や見解の相違ではなく、明らかに明文に違反しているからです。
(太字強調部分はヤジポイの会による)
札幌地検は、警察の排除行為について、「適法である」と太鼓判を押したのです。
そして、さらに問題となるのは、札幌地検の発表タイミングです。
これまで長らく、道警は「(道警の警察官宛の)告発状が出ているため、答弁を差し控えます」と言って、議会での質問から逃れ続けてきました。そして、道警が答弁を翌日に控えたこの日、検察は「不起訴」「適法」という判断を下したのです。まるで、道警の議会答弁をアシストするかのように。
ここまで呼吸の合った動きを見せられると、取り調べを行う札幌地検と、取り調べを受ける側の道警の間では、なにか事前のすり合わせや調整があったと疑われても仕方ありません。というか、調整があったと考えるのが自然でしょう。
実際、札幌地検による「不起訴」発表後、記者クラブ向けに行われた検察の説明の場で、「地検と道警で事前の調整があったのか」という質問に対して、地検の担当者は「お答えできません」と回答を拒否。せめて「そんなことあるわけない」と言ってくれたらいいのに……不信感はつのるばかりです。
普段、冷静で理路整然と喋る小野寺弁護士も、憤りを隠しきれず、上記の解説の最後をこのように締めくくっています。
ここまで努めて冷静に書いたつもりですが、本音を言えば、同じ法律家として違法行為を追認した地検には非常に頭にきています。したがって、地検の判断には、次の感想しか抱くことができません。
「恥を知れ」
ヤジポイとしても、不起訴決定はもちろん残念な結果です。大杉も桃井も、ヤジ排除の出来事の詳細を話すためにこれまで検察庁に二回ずつ出頭し、聴取・調書作成のために(一人につき)8時間近い時間を割いています。また、検察には証拠として、排除当日に桐島が撮影した映像を提供しています。
にも関わらず、紙一枚送りつけられて「不起訴になりました」と言われ、あげくに警察と仲睦まじい様子を見せつけられるのでは、たまったものじゃない。もしかすると、検察に提供した証拠映像が、勝手に警察に横流しされてるのではないか、と思うほどに不信感を抱いてしまいます。
さて、今後について。
一般的に、検察庁の不起訴決定に不服がある場合は、裁判所に設置された「検察審査会」での審査を申し出る手続きがあり、裁判所から(裁判員制度のような形で)選ばれた一般市民(検察審査員)が集まって、検察の決定が妥当かどうかを審査します。その結果によっては起訴が決まり、刑事裁判が始まることも。
そして、特別公務員職権濫用罪などの公務員による犯罪については、「付審判請求」という特別な手続きを取ることもできます。付審判制度は、検察による「起訴独占主義」の例外として設けられた制度で、起訴するかどうかを裁判所が判断します。
現在は、これらの手続きを取る準備をしています。また、民事訴訟としての国家賠償請求訴訟は始まったばかりなので、今後も道警を追及する闘いは継続します。
(後編に続く)
(2021年12月25日追記)
ヤジ排除問題における当事者であり、原告である「藤根」(仮名)については、裁判の途中から、本名である「桃井」名を公表することとしたため、この記事内の「藤根」という表記もすべて「桃井」に変更しました。
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